アイオワ州党員集会でのトランプ前大統領(1月15日)
<トランプ前大統領がアイオワ州党員集会で圧勝。もし大統領に返り咲けば、その政策は1期目よりも劇的になると予測される>
[ロンドン発]11月の米大統領選で返り咲きを狙うドナルド・トランプ前大統領(77)が15日開かれた野党・共和党の中西部アイオワ州党員集会で地滑り的勝利を収めた。
共和党候補指名争いの初戦でロケットスタートを切ったトランプ氏は「共和党であれ民主党であれ、リベラル派であれ保守派であれ、今こそすべての人、この国が一つになる時だ」と演説した。
トランプ氏は「前回の大統領選は盗まれたものであり、ジョー・バイデン現大統領は自分に対し司法制度を武器化している」というデタラメを繰り返した。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、95%開票時点でトランプ氏51%、ロン・デサンティス現フロリダ州知事(45)21.2%、元米国連大使のニッキー・ヘイリー前サウスカロライナ州知事(51)19.1%の順だ。
米主要ネットワークはわずかな得票数しか報告されていない段階でトランプ氏の勝利を報じた。
11月5日の大統領選投票日まで10カ月近くに及ぶマラソンレースが始まったが、英BBC放送は「これまでアイオワ州党員集会で12ポイント以上の差をつけて勝利した者はいない」と報じている。トランプ氏はなんと30ポイント近い差をつけている。
米CBSニュースは「トランプ氏の勝利は予想されていた。最近の世論調査でデサンティス氏とヘイリー氏を大きく引き離していた。トランプ氏は全米でも支持を伸ばしている。
全米の共和党予備選有権者のトランプ氏支持率は昨年5月の58%から現在は69%に上昇している」と分析している。
トランプ氏を支持しているだけでなく熱狂的に支持している
トランプ氏支持者は単にトランプ氏を支持しているだけでなく熱狂的に支持しているとCBSニュースは伝える。
バイデン氏を打ち負かす可能性が最も高いのはデサンティス氏やヘイリー氏ではなく、トランプ氏だと固く信じているのだ。アイオワ州党員集会参加者の約半数はトランプ氏の「米国を再び偉大にする」運動のメンバーとみられている。
トランプ氏は老若男女を問わず、16年大統領選では浸透できなかった白人福音派や保守強硬派にも支持を広げている。
デサンティス氏やヘイリー氏が巻き返すのは至難の業だが、しかしCBS ニュース/YouGovの世論調査ではバイデン氏に勝つ可能性が最も高いのはトランプ氏ではなくヘイリー氏。アイオワで1位になった人が必ずしも指名争いに勝つとは限らない。
<米共和党の大統領候補指名レースにおける初戦のアイオワ州で圧勝したトランプ前大統領だが、本当の敵はヘイリーやデサンティスではない?>
各種世論調査を見る限り、米共和党の大統領候補指名レースは完全にトランプ前大統領の独走状態だ。レースの開幕を告げる党員集会が1月15日に行われるアイオワ州では、直前の世論調査で2位の座を争うニッキー・ヘイリー元国連大使とフロリダ州知事ロン・デサンティスに30ポイント以上の大差をつけている(編集部注:アイオワ州党員集会でトランプは得票率51.0%の圧勝を収めた)。
唯一トランプの候補指名獲得を阻む者がいるとすれば、選挙で選ばれていない9人の判事だけだ。
連邦最高裁判所はトランプの予備選立候補資格を剝奪したコロラド州最高裁の決定について審理入りを決定。2月8日に口頭弁論を実施する。
トランプが2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃(米政府に対する反乱だ)に関与したとしても、次の大統領になる資格があるのかどうか──この点を判断するため、時間的余裕がないなかで口頭弁論の開催を決めた最高裁の対応は、選挙戦が本格的化する前に少なくとも問題解決の糸口を示すことの重要性を示唆している。
「スーパーチューズデー」にどう影響する?
トランプの候補資格を否定したコロラド州最高裁が法的根拠としたのは、南北戦争後に南軍出身の元将軍を公職に就かせない目的で導入された憲法修正第14条3項だ。これについての連邦最高裁の判断は、全米に適用される憲法解釈の決定打となる。
コロラド州共和党は同州予備選が行われる3月5日以前に結論を出すよう求めている。
この日は多くの州で予備選や党員集会が開かれる「スーパーチューズデー」だ。メーン州の州務長官は既にトランプの予備選出馬を認めない決定を下した。マサチューセッツ州とイリノイ州でも、出馬資格の剝奪を求める動きが出ている。
この騒動は最高裁にとって最悪のタイミングで起きた。「財布も剣も」持たない司法の力の源泉は、その威信と国民の信頼にあるとよく言われる。
だが19年以降は保守化が進み、道徳的スキャンダルが相次いだことで、国民の支持は20%も低下した。
もし最高裁がトランプに不利な裁定を下すか、口頭弁論でコロラド州の決定に理解を示す表現が飛び出したりすれば、ヘイリー大逆転の芽が出てくる。
トランプの大統領職に就く資格に疑問符が付けば、バイデン現大統領との直接対決ではヘイリーのほうが勝算が高いとする世論調査の結果と相まって、トランプ指名確実の流れは一変するだろう。
最高裁がトランプの政治生命を一撃で終わらせる確率は?
とはいえ最高裁に対する国民の信頼が急低下している今、トランプを全面的に断罪するか、逆に反乱扇動を完全に免責するような判断が出る可能性は低い。
ジョン・ロバーツ首席判事は最高裁の独立性と公平な裁定者としての地位を守ることに強いこだわりがある。最高裁判事は誰もが注目するプレーヤーではなく目立たない審判であるべきだと、数十年前から主張し続けている。
2月8日には、ロバーツや他の判事から、トランプの反乱扇動問題を正面から取り上げる権限が最高裁にあるかをめぐる3つの論点が提起される可能性が高い。
第1に、コロラド州が引用した憲法修正第14条の条文には、就任できないとされる公職に大統領が含まれていない。
第2に、誰が何をもって反乱分子と認定するのか、明確な定義はない。第3に、政党の予備選はこの法的問題を判断する対象として適切ではない。予備選はあくまで政党内部の手続きであり、問題にするなら本選挙で、ということだ。
賭け市場では現在、トランプが共和党候補指名を獲得する確率は80%、ヘイリーは16%とされている。この16%の大半は、トランプの法的トラブルに対する懸念だろう。
ただし、2月8日に最高裁がトランプの政治生命を一撃で終わらせる確率は、トランプがアイオワで負けるのと同じぐらい、つまりほぼゼロだ。
NEWSWEEK記事 2024.01.18より引用
プーチンに背を向ける習近平(2019年、クレムリン)
<「中国はロシアのエネルギーや鉱物資源を爆買いし、メイド・イン・チャイナでロシア市場を席巻しようとしている。しかしロシアへの直接投資は微々たるもの」 いつでも逃げられる>
経済的な孤立を深めるロシアから、いよいよ中国企業も手を引き始める兆しが見えてきた。
中国の国有銀行がロシアの顧客のデューディリジェンス(リスク評価)を厳格化する方針を示したと、ブルームバーグが1月16日に伝えた。
米政府が打ち出したロシアに対する二次制裁(ロシアと取引した第3国企業などへの制裁)の対象になることを警戒して、融資案件等の審査強化に踏み切ったとみられる。
ここ数週間に少なくとも2行の中国の銀行が、融資や決済支援などロシアの顧客との取引を見直し、米政府の制裁リストに載った顧客との取引を中止する方針を示した。
関係者によれば、この2行はまた、ロシアの軍事部門に対する金融サービスを打ち切り、またロシアで事業を行うか、第3国を介してロシアに重要物資を輸出している企業との取引も見直す意向だという。
こうした動きは、米財務省が昨年12月、外国の金融機関に二次制裁を科す方針を発表したことを受けたもの。
今後は、ロシアが兵器や軍用品を輸入する際の決済を行うなど、ロシアのウクライナ侵攻に加担したと見なされた金融機関も制裁対象となる。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は、これについて関係企業にとっては非常に慎重に対処すべき問題だが、ロシア政府が関知する事柄ではないと述べた。「われわれは引き続き中国との関係強化に務める。中国はロシアにとって極めて重要な戦略的パートナーだ」
西側の穴を埋めた中国
2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始すると、西側の銀行はロシアの金融部門から撤退。
その穴を埋めるように中国の銀行が参入した。中国の金融支援がなければ、ロシア経済は今よりはるかに弱体化していたはずだ。中国のロシア産石炭の輸入量は2020年以降2倍以上増え、今や中国はロシア産化石燃料の世界最大の輸入国となっている。
頼みの中国に見捨てられたら、ロシアとプーチン政権はたちまち窮地に陥るが、その危険性は否めない。
中国の指導層はウクライナ侵攻開始後もロシアと親密な関係を保ってきたが、伝えられるように国有銀行が二次制裁に神経を尖らしているとすれば、習政権もロシア寄りの姿勢がもたらす経済的コストを警戒し始めた、ということだ。
と同時に、この動きはウクライナ侵攻開始直後から中国が見せていたどっちつかずの態度を改めて示している。
中国政府はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に外交上の支援を提供し、2国間貿易の拡大を約束しつつも、ウクライナ侵攻を全面的に支持することは避け、軍事援助も渋ってきた。
だが経済面では、西側の制裁でジリ貧になったロシアが頼りにしたのは中国だ。
ロシアの中央銀行は外貨準備のおよそ半分を凍結され、金(ゴールド)か人民元に頼らざるを得なくなった。また侵攻後、ロシアではビザとマスターカードが事業を停止したため、ロシアの民間銀行は代わりに中国の銀聯カードを発行するようになった。
ロシアのコンサルティング会社マクロ・アドバイザリーのCEOで、ロシア経済の権威として知られるクリストファー・ウィーファーは以前本誌の取材で、ロシアは対中依存を深めることに慎重になるべきだと警告した。
「中国はエネルギーや鉱物資源を爆買いし、メイド・イン・チャイナでロシア市場を席巻しようとしている。
しかしロシアへの直接投資は微々たるものだ。ロシアから大脱出した西側資本の穴を埋めるには、とうてい足りはしない」
ロシアの反政権活動家ナワリヌイ氏(47、写真)は17日、「プーチン(大統領)の国」は賄賂で動き権力欲に満ちた二枚舌の旧ソ連エリートと共にいつか崩壊するだろうと述べた。2023年4月、モスクワの裁判所で撮影(2024年 ロイター/Yulia Morozova)
ロシアの反政権活動家ナワリヌイ氏(47)は17日、「プーチン(大統領)の国」は賄賂で動き権力欲に満ちた二枚舌の旧ソ連エリートと共にいつか崩壊するだろうと述べた。
北極圏の刑務所に収監されている同氏は、支持者らが運営するソーシャルメディアに「わが国では一夫多妻主義者が保守派になった。
旧ソ連共産党員はロシア正教徒に、(一定額の投資と引き換えに国籍を与える)ゴールデンパスポートと海外預金口座の保有者は好戦的な愛国者という状態になっている」と投稿。
さらに「偽りばかりだ。プーチンの国は存続不可能であり、崩壊するだろう。いつかその座に(プーチン氏は)いなくなる」と主張した。
NESWEEK 2024.01.18より引用