Renaissancejapan

哲学と宗教、財閥、国際政治、金融、科学技術、心霊現象など幅広いジャンルについて投稿しています

サムスン、「ドル箱事業」に黄信号 DRAMのシェア急落

2024-01-09 20:48:41 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業


   30年間首位を守ったDRAMでSKの猛追を受ける(サムスンの半導体工場)

 

 

【ソウル=細川幸太郎】韓国サムスン電子の稼ぎ頭に黄色信号がともっている。

世界首位を30年間維持してきた半導体メモリー「DRAM」で、2位SKハイニックスの猛追に直面しているためだ。半導体市況の回復局面でサムスンが高収益企業に返り咲くためにはDRAM事業のテコ入れが不可欠となる。


サムスンが9日発表した2023年10〜12月期の連結営業利益は、前年同期比35%減の2兆8000億ウォン(約3000億円)だった。半導体の在庫解消が進んで7〜9月期と比べると15%増益となり、3四半期連続のプラスだった。半導体市況は低迷期を脱して緩やかな回復局面に入っている。






 

サムスンは売上高順にスマートフォンと半導体、家電、ディスプレーの4本柱の事業で構成する。売上高で3割程度の半導体部門が過半の営業利益を稼ぐ構図が長く続いてきた。

それが半導体市況の急激な悪化によって23年通期は半導体部門だけで15兆ウォンほどの営業赤字(22年は24兆ウォンの営業黒字)を記録した。スマホやディスプレーの他部門が穴埋めする格好で、23年の全社営業利益は6兆5400億ウォンの黒字を確保した。


24年は半導体市況の回復によってサムスンの業績も上向く見通しだ。ただスマホやパソコン需要は力強さを欠き、かつての市況回復期のような急激な反転は望みにくい。

さらにサムスン個社の競争力低下を示すデータもある。

調査会社トレンドフォースによると23年7〜9月のDRAMシェアは首位サムスンが38.9%で、2位のSKが34.3%だった。23年1〜3月と比べてサムスンはシェアを4.3ポイント落とす一方、SKは6.1ポイント上昇しており両社の差は縮まっている。




 

サムスンにとってDRAMは長く最大の収益源だった。市況安定期にはDRAM事業の売上高営業利益率は5割を超え、年3兆円超の利益を生み出した。独走体制を築いて高収益を謳歌してきたサムスンが、2位にわずか5ポイント差に詰め寄られている。

SKはAI(人工知能)技術の普及の波に乗って、高速で大容量処理が可能な「HBM(広帯域メモリー)」と呼ぶ次世代DRAMで先行した。


HBMはDRAMチップを積み重ねる構造で、組み立て精度や素材の放熱性能などこれまでにない技術が求められる。SKはHBMの早期普及を見越してサプライヤーとともに後工程の研究開発にも注力し、特許を固めるなど追従するサムスンをけん制してきた。

SKはパートナー戦略でもサムスンをリードした。画像処理半導体(GPU)に代表されるAI半導体の分野で1強体制を築く米エヌビディアとの提携によってSKがシェアを高めた事情もある。


AI普及に伴ってデータセンター事業者が求めるDRAMのスペックが変わる中、サムスンは読みを誤って次世代品の生産体制の準備が後手に回ったのも痛手となった。

 

 

 

 

先代会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏が率いていた10年前までのサムスンであれば、シェア低下を招いた事業部門長は交代を命じられていた。当時のサムスンは人事に信賞必罰が色濃く反映され、厳しい出世競争が組織の新陳代謝を生み、経営・技術の両面で活力をもたらしてきた。

しかし、23年11月発表の定期人事では半導体部門の主要ポストに変化はなかった。DRAMでSKの追い上げを許したことで社内でも「誰かが責任を取らされる」との見方が大勢だった。「無風人事」に競合他社からも驚きの声があがったほどだ。

 

 

現会長の李在鎔(イ・ジェヨン)氏は社内に次世代開発の重要性を説き、先端半導体の研究開発費の積み増しを指示した。製造装置や材料メーカーとの共同研究プロジェクトも次々と立ち上がる。一定の競争は残しながらも社内の協調・安定を重視する姿勢を示してきた。

 

 

 


韓国の代表企業サムスンは「アニマルスピリット」を取り戻せるか(ソウル市)=ロイター

 

 

今や売上高30兆円規模の大企業となったサムスン。文在寅(ムン・ジェイン)前政権の労働規制を背景に、土日も働く「モーレツな社風」は鳴りを潜めた。手厚い大企業での安住を求める社員が増える中で、貪欲に収益を求め続けるかつての社風もかすむ。

既存事業の収益源は先細り、革新的な事業創出のハードルも高まっている。さらに組織の活力まで低下し始める――。今のサムスンはこうした複合危機に明確な打開策を見いだせていない。



M&A不発、豊富な現金活用課題に

「買収対象企業を検討し準備を進めており、今後3年間でM&A(合併・買収)を推進していく」

2021年1月のサムスン電子の決算発表後の電話会見で、当時の最高財務責任者(CFO)はこう宣言した。「保有現金が増えたことに株主も懸念を抱いている」とも話し、この時点で124兆ウォン(約13兆円)に積み上がった現金の有効活用を強調した。



22年1月には韓宗熙(ハン・ジョンヒ)最高経営責任者(CEO)が「(M&Aは)皆さんが思うより早く動いている。近いうちにいいニュースがあるだろう」とも話した。

しかし「ニュース」はないまま3年が過ぎようとしている。米中対立を背景に半導体を中心に各国の競争当局の規制が厳しくなった影響もあったかもしれない。
 
 

サムスン中興の祖、李健熙前会長は「10年間で既存事業の大部分はなくなる」と訴え、事業の新陳代謝の重要性を説き続けた。積年の課題である事業ポートフォリオの拡大・組み替えのため、これまで距離を取ってきたM&Aと真剣に向き合う必要性が高まっている。
 
 

サムスン営業益85%減 23年通期、半導体市況は回復へ

2024-01-09 20:45:01 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業

【ソウル=細川幸太郎】

韓国サムスン電子が9日発表した2023年12月期の連結決算速報値で、営業利益は6兆5400億ウォン(約7200億円)と前の期に比べて85%減だった。半導体市況の低迷で同部門が大幅な赤字に陥り、15年ぶりの低水準にとどまった。昨秋以降に在庫解消は進み、24年の半導体市況は回復に向かう見通しだ。

23年通期の売上高は同15%減の258兆1600億ウォンだった。減収は4期ぶり。全社の純利益や事業部門別の業績は1月下旬に発表予定の決算確報値で公表する。


大幅減益の主因は半導体部門の赤字だ。同部門は23年1〜9月期に12兆6900億ウォンの営業赤字を計上し、10〜12月期も赤字だったもよう。

22年通期で24兆ウォンの黒字だった半導体部門が営業損益を4兆円規模で減らした計算となり、スマートフォンやディスプレーなど他部門の収益では補いきれなかった。



 

 

サムスンの通期の営業利益が10兆ウォンを割り込むのは、米金融危機の08年以来となる。

ただ、四半期業績では回復の兆しも見える。23年10〜12月期の全社売上高は前年同期比5%減の67兆ウォン、営業利益が35%減の2兆8000億ウォンだった。7〜9月期と比べると15%増益で、主力の半導体メモリーの在庫解消が進み、米アップル向けの有機ELパネルの販売も好調だった。


半導体部門の営業損益は23年1〜3月期に底を打って徐々に赤字幅を減らしている。韓国SK証券の試算では、10〜12月期の半導体部門の赤字は2兆ウォンだった。24年4〜6月期に黒字転換し、25年通期の営業利益は22年の利益水準に回復するもようだ。

24年は人工知能(AI)が急速に普及することで、半導体への引き合いが強まるとの期待が大きい。米半導体大手のエヌビディアが手掛ける大量のデータを高速処理する「AI半導体」の需要が旺盛で、補助役を担う主要メモリーの高性能DRAMも品不足の状態が続く。サムスンはDRAM最大手のため恩恵が大きい。


米ラスベガスで9日開幕するテクノロジー見本市「CES」では世界のIT(情報技術)大手が各社各様のAI機能を打ち出しており、今後はスマートフォンやパソコンにもAI機能が搭載される。AI普及が半導体市況全体の底上げにつながる可能性もある。

 

 

<picture class="picture_p1joxgt6"><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=638&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=e917159baa2197f231d5a35f0f0651df 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1276&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=89e9ad70230d450967c943a7bbc38c39 2x" media="(min-width: 1232px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=638&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=e917159baa2197f231d5a35f0f0651df 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1276&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=89e9ad70230d450967c943a7bbc38c39 2x" media="(min-width: 992px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=600&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=4cc7e37b88ac418bd4f8dc2f3dd07569 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1200&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=7e985cae8793df2927e94363d908ef7c 2x" media="(min-width: 752px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=600&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=4cc7e37b88ac418bd4f8dc2f3dd07569 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1200&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=7e985cae8793df2927e94363d908ef7c 2x" media="(min-width: 316px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=600&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=4cc7e37b88ac418bd4f8dc2f3dd07569 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4295899009012024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1200&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=7e985cae8793df2927e94363d908ef7c 2x" media="(min-width: 0px)" /></picture>

マウスで寿命延長、抗老化に道 米ワシントン大の今井氏

2024-01-09 20:33:20 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

米ワシントン大学の今井眞一郎卓越教授らの研究チームは、老化を抑えるメカニズムの一端をマウスの実験で明らかにした。

脳の特定の神経細胞が抗老化に関わっており、その働きを高める実験では寿命が約7%延長した。人の抗老化療法に道を開く成果だという。

 


抗老化の研究で有名な米ワシントン大学の今井卓越教授

 

 

成果は8日付の米科学誌「セル・メタボリズム」に掲載された。今井氏は抗老化研究の第一人者で、「NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)」という物質が生命の維持に欠かせない物質「NAD」の生成を促し、脳の視床下部で働く老化や寿命の制御に関わる酵素「SIRT1」の働きを活性化する仕組みなどを解明してきた。

NADを合成する酵素「eNAMPT」を含む細胞外小胞「eNAMPT-EV」という粒子が脂肪組織から血中に分泌されており、この粒子をマウスに投与する実験で、抗老化作用や寿命延長の効果を報告している。


今井氏らは脳の視床下部にある神経細胞の一種「Ppp1r17神経細胞」に注目した。この細胞がeNAMPT-EVを分泌する脂肪組織の働きを制御していることを見つけた。加齢とともにこうした働きは衰えてしまう。

18カ月齢のマウスを対象に遺伝子導入技術を使い、「アゴニスト21」という特別な化学物質とのみ反応するたんぱく質をPpp1r17神経細胞の表面に作った。アゴニスト21を注射で投与すると、この神経細胞の働きを高めることができた。



22カ月齢から毎週4日投与し続けると、身体活動の上昇とともに老化に伴う死亡率が有意に低下し、最も長く生きた3匹では最大寿命が平均で約976日から1050日に延びた。

成果はeNAMPT-EVを投与してPpp1r17細胞を刺激する人の抗老化療法につながる可能性がある。

今井氏は「血液中から採取したeNAMPT-EVを凍結保存しておき、必要としたときに本人に投与する抗老化療法が考えられる。5年以内に人での臨床試験を始めたい」と話す。

 

 

日経記事 2024.01.09より引用

 

 

 

 


地球へ最後に衝突した巨大隕石、クレーター地点を特定か

2024-01-09 19:06:06 | 宇宙・地球・航空宇宙ビジネス・星座神話・


最後に地球に衝突した巨大隕石がつくったクレーターは見つかっていなかった。このほど、
東南アジアとオーストラリアに広く分布する天然ガラスを手がかりに、その場所を特定した
とする論文が発表された。

 

 

2011年、地質学者のケリー・シー氏は、ベトナムのホーチミン市にある小さな宝石店で、2個の「テクタイト」と呼ばれる黒い物体に目を留めた

テクタイトとは天然ガラスの一種で、かつて地表の砂地に隕石が衝突したときに、熱で溶解して吹き飛ばされた石や砂が空中で冷え固まり、地上に降り注いだものと考えられている。


シー氏が目にしたテクタイトは、約80万年前に隕石が衝突してできたものであり、中国から南極まで、地球表面のおよそ20%に相当する広い範囲に分布している。

このときの衝突は、直径数百メートル以上の天体による大規模な衝突としては地球史上で最も新しい。しかし、その隕石がどこに衝突したのかはわかっていなかった。


その後、シー氏は科学文献や衛星画像を調べ上げ、現地調査も行った結果、隕石はラオス南部のボーラウェン高原に衝突したのではと考えるようになった。

このときに巨大なクレーターが形成されたものの、その後の火山噴火でできた広大な溶岩原に覆い隠され、場所がわからなくなっていたのだろうという。氏による最新の研究成果は、2023年12月4日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。

 

 

現在のボーラウェン高原は、高さ約90メートルの見事な滝と、コーヒーや茶の農園が数多くあることで知られている。

だが論文によると、ラオス南部とタイ東部の低地からボーラウェン高原までの地下には、隕石の衝突で放出された物質が積もった「イジェクタ層」と呼ばれる層があるという。しかも、この層は高原の中心部に近づけば近づくほど厚くなり、最も厚い中心付近では9メートルに及ぶ。


イジェクタ層の底の方にある小石や岩石は、巨大な衝突によって土地がえぐられた岩屑だろうと、シー氏は考えている。

テクタイトは、この小石や岩石の層の上部付近から見つかり、その上をさらに分厚い灰の層が覆っていた。これは、隕石の衝突で舞い上がった巨大な噴煙が後に降り積もったものと考えられる。


同じような重なりを持った地層は、ボーラウェン高原とその周囲約500キロ以内の数百カ所で発見されており、高原の中心に向かって層が厚くなっていくパターンを示していた。シー氏は、ボーラウェン高原に隕石が衝突したことは間違いないと確信した。

「クレーターがあった場所からのものと考えられる粗い石の堆積層が、高原の中心に近づくほど分厚くなり、石はますます粗くなっていきます。ほかに説明のつけようがありません」


シー氏の説に、すべての科学者が納得しているわけではない。オーストラリア、パースにあるカーティン大学の地質年代学者フレッド・ジョーダン氏は、シー氏の説は「十分ありうる」としながらも、証拠は間接的でしかないため、確実ではないと指摘する。

また、東南アジアにある火山活動が活発な地域の多くにも、衝突でテクタイトが形成しえた砂地があるという。

 

 


テクタイトは、シリカを豊富に含んだ天然ガラスで、隕石が地上の砂地に衝突することで形成されると考えられている。

 

 

隕石の衝突でできた天然ガラス

シー氏が宝石店で目にしたようなテクタイトは、隕石の衝突によって形成される。そのため、衝突クレーターが見つからなくても、テクタイトが広く分布する地域は、隕石が衝突したことを知る手がかりとなる。

地球上には4つのテクタイト分布域がある。そのうちの1つがオーストラリアと東南アジアのほぼ全域に広がっており、4つのなかでは最も新しい。


ジョーダン氏は2019年に学術誌「Meteoritics & Planetary Science」に発表した論文で、この分布域で見つかったテクタイトの年代をより正確に分析し、隕石の衝突時期をおよそ78万8000年前と推定した。また、これらのテクタイトが最高で約4000℃の熱で生成されたことも示した。

「動物たちは吹き飛ばされ、蒸発してしまったと思います」とシー氏は言う。実際、タイの地質学者だった故サンガルド・ブノパス氏は、化石化した森林や化石発掘現場から、衝突による大規模な森林火災、大洪水、局所絶滅、動物の大量死を示す証拠を発見し、論文を発表している。


テクタイトは、この分布域で見つかっていない衝突クレーターについての手がかりも与えてくれる。2007年、インド国立海洋学研究所の科学者シャム・プラサド氏は、テクタイトがこれだけ広がるのにどれほどの衝撃が必要なのかをモデル化し、クレーターの直径を33〜120キロの間と推定した。しかし、その後の分析では、この範囲のなかでも小さい方の数字に近いだろうということが示された。

ドイツ、ハイデルベルク大学の地球化学者であるゲルハルト・シュミット氏も、プラサド氏の新しい数値に近い計算結果を1993年に導き出している。シュミット氏は、イリジウム濃度の測定を基に、15億トンの隕石が地球に衝突し、直径15〜19キロのクレーターが形成されたと推測した。



クレーターはどこに

隕石が衝突したと考えられている場所は、他にもある。例えば、東南アジア最大の淡水湖であるトンレ・サップ湖がある地域では、ボーラウェン高原のものよりも大きなテクタイトが見つかっており、その数も多い。

しかしシー氏は、隕石衝突の重要な証拠のいくつかは目に見えないところに隠されていると考える。2019年に「PNAS」に発表した論文でシー氏は、ボーラウェン高原が隕石の衝突よりも後にできた溶岩原で覆われていることを明らかにした。


溶岩は、広いところで幅100キロ、深さは場所によって300メートルにも及び、衝突クレーターを覆い隠すには十分な広さがある。溶岩の年代を測定したところ、隕石衝突よりもはるかに古い1600万年前のものから、3万年前のものまであった。

テクタイトに砂だけでなく火山物質の痕跡も含まれていたのは、衝突前にあった溶岩のせいであり、衝突でできたクレーターは、その後に起こった別の火山噴火によって溶岩に覆われたのだろうとシー氏は主張する。

 

シー氏の2019年の論文には、懐疑的な見方をする専門家もいた。チェコ科学アカデミーの地球化学者イジー・ミゼラ氏は、ボーラウェンの溶岩にはオーストラリアとアジアに分布するテクタイトに見られる化学的な特徴がないと主張し、両者の関連性を疑問視していた。

それなのに今回新しく発表された論文は、隕石衝突でできた堆積物の起源について臆測を書いているとミゼラ氏は批判する。


一方で、英サウサンプトン大学の河川地質学者ポール・カーリング氏は、シー氏の論文を支持し、テクタイトが豊富に含まれたタイ北東部の奇妙な地層を理解するうえで役に立つとしている。

2022年8月30日付で学術誌「Meteoritics & Planetary Science」に発表された論文で、カーリング氏と千葉工業大学地球学研究センターの多田賢弘氏のチームは、タイにある露岩を調査して、3層からなるイジェクタ層を明らかにした。


最も下には衝突時の爆風で元の地面が作り替えられてできた層があり、次は砂利やテクタイトなどの粗い降下物の層が、その上には細かい降下物が堆積してできた層がある。

また、タイの3つの層にはすべて、衝撃石英と呼ばれる鉱物が含まれていた。これは、有名な衝突クレーターであるバリンジャー・クレーターやチクシュルーブ・クレーターなどの内部でも見つかっている。「衝撃石英は、衝撃波を受けた石英の粒子で、その痕跡が亀裂や羽のような特徴的な模様として残されています」と多田氏は言う。これもまた、3つの層が大規模な隕石の衝突によって形成されたことを示す証拠だ。


この論文は1カ所だけを対象にした調査だが、カーリング氏によればその後、タイ全域、ラオス南部、ベトナム、カンボジア北部でも同様のイジェクタ層を含む地層が見つかったという。

また、この現地調査から、ラオス南部の方に向かって層の厚さが増していることも示され、ボーラウェン高原が衝突地点であるというシー氏の主張がここでも裏付けられていると、カーリング氏は語っている。



一方、ジョーダン氏は、クレーターがあると推定される場所を実際に掘ってみるまで決定的な証拠は得られないと指摘する。カーリング氏は、200メートルほど掘れば、大規模な衝突の痕跡が見つかるのではないかと考えている。「隕石そのものの破片も見つかるかもしれません」

それもまた、宝石店に飾られることになるのだろうか。

文=JAMES ROMERO/訳=荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年12月15日公開)


 

 

 

日経記事 2024.01.09より引用

 

 


核融合発電でEV充電可能に ホンダ出資のスタートアップ

2024-01-09 18:49:12 | 環境・エネルギー、資源


  イスラエルの核融合スタートアップ、NT-Taoの実験設備(同社提供)

 

【ヒューストン=花房良祐

ホンダなどが出資するイスラエルのスタートアップ、NT-Taoは次世代エネルギーとして期待される核融合発電のミニ設備を電気自動車(EV)用の充電ステーションなどに活用する。2029年までに実証設備を製造し、30年代の商用化を目指す。

核融合は太陽内部と同じ反応を人工的に再現することを目指す。温暖化ガスを排出しない。燃料の供給をやめれば反応が止まるため、原子力発電所のような事故のリスクは低いとされる。22年に米国の国立研究所が、実験で投入した分を上回るエネルギーを取り出すことに初めて成功した。


NT社が開発する核融合発電設備は出力1万〜2万キロワット。貨物コンテナに収まるサイズを計画し、電力インフラのないへき地でも設置しやすい。米プリンストン大学が開発協力し、イスラエル政府も資金支援する。

NT社にはホンダや三井住友海上火災保険などが出資しており、これまで2800万ドル(約40億円)を調達した。ホンダはEVの充電ステーションに核融合発電を活用することを視野に入れる。NT社の設備を導入すれば1000台を同時に充電することも可能だ。このほか、データセンターや工場に併設する案もある。


NT社のオデド・グールラビー最高経営責任者(CEO)によると、出力2万キロワットの発電設備の推定投資額は7000万〜1億ドル(約100億〜140億円)になる。発電コストは1キロワット時あたり6〜13セント(約8.6〜18.7円)を想定している。

EVは走行の際に温暖化ガスを排出しない。一方、発電を天候に左右される太陽光や風力だけでは、電力を安定供給するのは難しい。核融合発電への期待は大きい。