三菱ガス化学とUBEはともに石油化学事業で、付加価値が高い製品の比率を高めるための構造改革を急ピッチで進めている。
石化メーカーにとって一般的にはピンチとみられる脱炭素の流れをチャンスに変えることができるのか。三菱ガス化学の藤井政志社長とUBEの泉原雅人社長に、現状認識や今後の戦略を聞いた。
藤井社長は新潟工場の役割の転換を語った
三菱ガス化学・藤井政志社長
――2024年度から次期中期経営計画が始まります。
「長年磨いてきた自社の技術を集約し、医療や食を新しい柱にしていく。
散らばっている関連の研究や事業を集約して専門組織をつくり、医薬品や食に関わる品質基準などへ対応しやすくする狙いだ。M&Aなどの大型投資というよりは、自社の技術をさらに磨く。足元の投資額は合計しても数十億円程度だが、100億円規模まで増やしたい」
「医薬品では培養技術を生かした抗体医薬品や核酸医薬品などを中心に据えたい。食品関連では乳酸菌などの関連技術も保有している。医療や食は当社が約50年培ってきた技術が生きる分野だ。投資を増やし、付加価値の高い商品を提供していく」
「これから世界で食料が不足するような事態になれば、人工光合成やアミノ酸関連などの技術の必要性が高まる。先進国には健康食品など高機能品を供給していく。新興国をはじめとする人口の多い地域には、たんぱく質や人工肉などに関連した技術の応用が考えられる」
脱酸素剤の用途を幅広く
――脱酸素剤「エージレス」は世界シェア首位とされる競争力があります。
「エージレスは、言ってみれば小さな冷蔵庫だ。今後は菓子のほかにも食品の長期保存や医薬品の分野でも利用できる。人工肉とエージレスをセットにして長期保存できる体制で輸出するような使い方も可能だと考えている」
「既存事業では(三菱ガス化学が脳機能の改善作用などがあると考えている)『ピロロキノリンキノン(PQQ)』は米国や欧州で人気があり、付加価値の高い製品として販売していく方針だ」
――天然ガス資源の活用から発展してきた新潟工場は今後どう変わりますか。
「従来は天然ガスを材料に、大量にモノを作る手法だった。これからは付加価値の高いモノに切り替えていく。新潟のように水や空気がきれいな地域は、医療や食品分野の製造に向いている。新潟を、特殊なモノを製造する工場にしていきたい」
「日本国内では今後、10万トン規模の基礎化学品事業は特殊なものでなければ成り立たない。生産量が少なくても単価が高ければ成立する。エネルギーを大量に消費する事業モデルから、付加価値が高い製品を少量生産する方式に切り替えないと生き残っていけない。そんな構造変化が進めば、自然と50年までに二酸化炭素(CO2)の排出量も減っていく」
アジアの半導体需要を注視
――半導体材料の増産の検討は、どう進めますか。
「タイの半導体パッケージに使う樹脂の新工場が25年に稼働する。まずはフル稼働に向けて販売を増やしていく。先端品だけでなく汎用グレードの材料の製造販売にも力を入れるか、検討を進める」
「これは他社が強い分野だが、中国やアジアで半導体の製造が広がれば需要が増える。今後はアジア全体の半導体の需要動向を見て、増産の規模や地域を検討したい」
泉原社長はPBRを改善する方針を示した
UBE・泉原雅人社長
――2024年3月期の連結営業利益は前期比5%増の170億円を見込みます。
「23年は22年に比べて回復する期待があったが、回復の歩みは極めて遅かった。特に基礎化学品は中国の需要が大幅に鈍化するなかでも現地での供給能力の拡大が続き、国内で余った製品が海外市場に出回るようになった。中国で作っているものは全般的に厳しい状況が続いた」
「一方で、機能化学品全体で見れば計画を上回る利益を確保している。基礎化学品が経営全体に与えるインパクトを縮小し、機能化学品を安定した収益源として伸ばしたい。市況回復に期待するのではなく、機能化学品へのシフトを早急に進めていく」
「アンモニアは生産停止の前倒しなどを検討する。ナイロン原料のカプロラクタムでは日本国内だけでなく、中国企業の影響を受けるタイなど海外拠点の生産縮小も検討し始めている。カプロラクタムは環境面で他社との違いを鮮明にして自社生産を維持する方針だったが、ナイロンなど技術的に違いを打ち出せる化学品に注力することも選択肢となる」
分離膜は水素社会でも必要
――機能化学品であるガス分離膜は25年に生産能力を8割増やす予定です。
「これまでも計画を前倒しで進めているが、キャッシュを投入してでも成長を急ぎたい。本来の拡大計画では次の増産は29年ごろと予定していたが、26年には必要になりそうだ。次の意思決定を早々にしないといけない」
「バイオガス用途の分離膜は、天然ガスからバイオエネルギーへの切り替えが進む米欧を中心に需要が強い。分離性能が高く、耐薬品性に優れていて長持ちする点が評価されている。いずれアジアなど他の地域に広がるだろう。水素社会に向けて、水素分離でも必要になる」
――半導体関連の事業では、高純度硝酸の追加投資を検討しますか。
「高純度硝酸は国内でトップシェアと認識しており、山口県宇部市で製造している。主要メーカーの中では最も西に位置しており、半導体関連企業が集積する九州に近いため優位性がある。
高純度硝酸の増産は24年内に完了するが、次の計画も必要になってくる。着手している増設と同じ程度の規模の増設について、早急に決断する」
PBR向上へ利益改善
――PBR(株価純資産倍率)改善に向けた考えは。
「以前からROIC(投資資本利益率)を活用してきたが、重要指標としてどのように打ち出すのか、目標値の水準も含めて検討している。自己資本利益率(ROE)を考えると分母である資産を小さくよりも、分子の利益をどう大きくするかが重要だ」
「投資しにくい要因の一つは、景気の動向や需給環境で業績が大きく変動することだ。これが株価に対する不安定要因になっている。もう一つは、脱炭素の取り組みが実際に達成できるのかという点が不安材料になっていることだ。ともに機能化学品へのシフトが重要で、構造改革を数字で示せるようにしていく」
三菱ガス化学のタイ工場
付加価値品シフトなお必要
中国経済の減速は東南アジア全体の需給の緩和を引き起こし、化学品の市況悪化を招いた。三菱ガス化学、UBEともに共通の課題として、主要な戦略に掲げる付加価値品へのシフトを一段と進める必要がある。
三菱ガス化学は工業製品などに使うポリアセタール樹脂やメタノールの価格下落に影響を受けたが、コスト削減などで影響を最小限にとどめ、2023年11月時点では8月に発表した24年3月期の営業利益予想を据え置いた。
UBEはナイロン原料であるカプロラクタムの価格下落の影響を受けて、23年5月に発表した業績予想を修正した。それでも分離膜などの販売を増やし、24年3月期は営業増益を確保する見通しだ。
三菱ガス化学は天然ガス、UBEは石炭資源を強みに成長してきた。脱炭素社会でも成長できる会社になるには、自社が競争力を持つ事業のうち、中長期の視点で社会課題の解決につながる製品や技術がどれなのか選別するという目利きの力が問われている。
(藤生貴子)
日経記事 2024.01.28より引用
東レや東ソーは中国経済の減速傾向などの逆風を受けながら、自社の得意分野には積極的に資金を投じて競争力を高めようとしている。
東レは技術蓄積が多い炭素繊維の高機能品に力を入れ、東ソーは米国やアジアなどで拡大が見込める半導体材料に的を絞る。東レの大矢光雄社長と東ソーの桑田守社長に成長に向けた戦略を聞いた。
大矢社長はROICで資産効率を見極めていることを明かした
東レ
・大矢光雄社長
――2024年3月期に始めた中期経営計画では、本業のもうけを示す事業利益を26年3月期に1800億円へ増やす計画です。
「23年3月期の事業利益は960億円だったため、3年間で800億円ほど増やす必要がある。
数量の拡大で600億円、戦略的なプライシング(値上げ)で200億円を伸ばす方針だったが、中計を策定した頃と比べて事業環境はかなり変化している。欧州を中心に風力発電所の増設計画が先延ばしになり、汎用型の炭素繊維の供給が鈍った」
「数量分の増益は200億円くらい減るとみている。赤字の事業で固定費を下げるなどで軌道修正し、1800億円の旗は降ろしていない。(中計初年度の)24年3月期は想定の範囲で推移しており、事業利益では当初予想の1200億円を計画している」
炭素繊維複合材料に力
――26年3月期までの3年間で5000億円の設備投資を計画しています。
「圧倒的に多いのは高性能品の需要が伸びている炭素繊維複合材料だ。
3年間で1600億円規模の投資を計画し、米国と韓国、フランスの3工場を25年に増設する。電気自動車(EV)でモーター周辺の電気を制御する部材に使う樹脂フィルムでは茨城県の工場を25年に増設する」
「空調設備部材のフィルター製品では23年10月に、原料の不織布から完成品まで一貫して手がける工場をインドで稼働させた。人口増などで世界的に水の需要が高まっており、工業用水や飲料水の用途で海水などをろ過するRO膜(逆浸透膜)といった水処理部材の事業も強化する」
――脱炭素関連で成長エンジンはありますか。
「水素関連事業では全体の売上収益が23年3月期に約200億円だった。
24年3月期は約300億円に増え、26年3月期に600億円を目指す。ドイツ子会社では水素製造装置向けに(水素と酸素を分離させる)中核部品の新工場を23年10月に稼働させた。水素の貯蔵や運搬など全体の需要拡大をにらみ、他の部材の開発も進めている」
「M&Aの引き合いも何件かある。過去にはオランダの炭素繊維加工大手を約1200億円で傘下に収め、香港の大手ニット会社を約600億円で買収した。案件があれば同程度の買収もあり得る」
2年連続の未達で撤退議論
――化学大手は事業や資産の売却や入れ替えを積極的に進めています。
「当社には勝つまでやる『超継続』と呼ばれる伝統がある。バイオテクノロジーやケミカル分野などのコア技術を長く研究し、長期的な経営で素材をつくってきた。ただしマーケットが激変するなかで、収益力の強化は必要だ」
「24年3月期から投下資本利益率(ROIC)を使って資産効率を定量化している。KPI(主要業績評価指標)に2年連続で到達しない低成長・低収益の事業では撤退・縮小などを経営会議で議論するルールにした。
繊維では高機能品への組み替えを進めてきた。樹脂やフィルム製品などでも価格のプレミアムが取れる高機能品に力を入れる」
桑田社長はベトナムなどに事業を分散する考えを示した
東ソー・桑田守社長
――2024年3月期の連結営業利益は前期比15%増の860億円になると見込んでいます。
「原燃料価格が正常化し、事業環境が良くなる予想だったが、中国の景気減速の影響を受けた。
25年3月期は中期経営計画の目標値(営業利益1500億円)には及ばないが、バイオ医薬関連などは底堅く、需要は全く落ちなかった。変動はあるが、波を少し小さくすることができた」
――戦略事業の投資計画は、どうなっていますか。
「セラミック系材料のジルコニアは既存事業の歯科材料向けとは違う用途が生まれる可能性もあるため、投資を検討していく」
「臭素と特殊合成ゴムについては市況悪化と建設コストの上昇に伴い、まだ投資を決断できていない。コストを低減し、合理的な設備投資にできるか検討を進めている」
「半導体製造で使われる鉱物の石英素材やその加工品は日本と台湾で、薄膜材料は米国で、それぞれ先行投資した生産設備の稼働が24年後半以降に高まると見込んでいる。
水処理設備の製造子会社であるオルガノは工場建設が需要の拡大期にあたる。これら半導体材料の分野では、米国やアジアでの需要拡大に期待している」
ベトナムなどに事業分散
――海外事業については、どんな方針でしょう。
「中国だけで伸ばすというよりも、ベトナムなど東南アジアに分散していく。
中国では現地生産の意識が高まっており、将来的に日本からの輸出が難しくなるリスクがあると考えている」
「中国で需要が伸びると見られるバイオ医薬の検査装置などは、中国国内で組み立て工程をできないか検討する」
――プラスチックなどの原料となる基礎化学製品のエチレンは市況が低迷し、国内で再編への動きが活発です。
「三重県四日市のエチレンプラントは、年間を通してみると高い稼働率を維持できている。中京地区で唯一のエチレンプラントであることは、ある意味で強みだが、他社との連携の容易さなどを考えると、弱みにもなる」
「脱炭素の取り組みなどを進めてコンビナートとして競争力を持てれば、誘導品などへの投資は国内でも増えていく。そのためにはどんな設備や原料が必要なのかコンビナートとして検討を進めたい」
集団地区全体で稼働維持
――エチレンの消費量は自社での生産量を上回っている状況です。
「周南コンビナート内の南陽事業所で、この地域にプラントを持つ出光興産からの調達など年間で40万トン以上のエチレンを購入している。
四日市と合わせた集団地域全体で高稼働を維持しないと利益が出ない。周南地区で設備の稼働を高めることが重要だ」
東レの韓国の生産拠点
成長速度や市況品への投資が焦点
この状況で力を入れるのが炭素繊維複合材料と、水処理施設向け部材などの環境関連だ。
炭素繊維では世界シェアが約4割とされる最大手だが、中国メーカーは増産投資を進め、その地位は安泰ではない。
東ソーは24年3月期の営業利益を860億円、営業利益率が8%と見込む。これは25年3月期までの中期計画で掲げた営業利益1500億円、営業利益率10%以上の目標とは差がある。
収益向上に向けて重要な焦点が市況品での投資判断だ。国内生産量が首位とされる臭素やウレタン原料であるMDIの価格は海外市況の影響が大きい。足元の需給や収益性に加えて技術的な競争力や市場動向も冷静に見極める力が改めて問われている。
(渡辺伸、藤生貴子)
石油化学製品のアジア市況は中国経済の不振や現地メーカーの増産に伴い、悪化傾向にある。日本の化学大手は収益力の低い汎用品事業を縮小し、成長分野へのシフトを模索している。
化学は鉄鋼に次いで国内で2番目に二酸化炭素の排出量が多い業界であり、脱炭素への取り組みも急ぐ必要がある。主要企業の成長戦略を各社の社長に聞いた。
住友化学の岩田社長は脱炭素に貢献する製品に力を入れる姿勢を示した
住友化学・岩田圭一社長
――石油化学事業の低迷などが響き、2024年3月期の連結最終損益(国際会計基準)は950億円の赤字(前期は69億円の黒字)になる見通しです。
短期的な収益改善に向けて売上収益で約2700億円分にあたる約30件の事業で売却や撤退や縮小を進めていますが、その進捗は。
「24年3月期中に(約10件にあたる)3分の1、残りは25年3月期中に、関係先企業との合意や対外公表といった実施にめどをつけたい。
石化関連事業が約40%で、エネルギー・機能材、情報電子化学、健康・農業関連がそれぞれ15〜25%を占める。25年3月期はV字回復を実現したいが、2000億円のコア営業利益目標は現段階では難しい」
成長エンジン探しM&A
――25年3月期までの3年間で、設備投資と投融資を従来計画の7500億円から6000億円に圧縮します。
「補修の一部繰り延べや(サウジアラビアの石化事業)ラービグでの追加出資の回避などで減らす。一方、成長分野への投資は約3000億円を維持したい。
農薬などの健康・農業と、ディスプレーや半導体関連などの情報電子化学で約7割を占める」
「医薬とエネルギー・機能材も多少あるが、石化関連は数億円だけだ。健康・農業と情報電子以外の領域でも成長エンジンを探し、有望な分野ではM&Aを仕掛けたい」
「半導体材料では増産が続く。(回路の形成に使われる)感光材では韓国の新工場が24年の半ばに稼働する。半導体の製造用の洗浄剤でも愛媛県で新しい製造ラインを24年半ばに稼働させる。米国ではテキサス州の新工場が25年の初めに稼働する」
――プラスチックの原料となる基礎化学品エチレンなど、国内石化事業の方針は。
「汎用品である通常のエチレンと異なり、脱炭素に貢献できる製品ならば海外からの輸入品に対抗できる。
他社と組み、30年までにバイオ由来のエタノールからエチレンなどをつくるプラントも新設したい。生産能力は20万トン程度あるとインパクトがある。これと並行して既存のエチレンプラントが止まり、生産量が減ると良いだろう」
「千葉県でエチレンプラントを共同で運営する丸善石油化学や周辺にプラントを持つ三井化学と、バイオマス原料など脱炭素の取り組みで連携を検討している。共同運営による合理化も考えたい。プラント新設と合理化の施策はタイミング的にリンクしており、それぞれ26年3月期ごろには方向性を決めたい」
製薬子会社でコスト削減
――サウジの石化事業や医薬事業が大きな赤字に陥っています。
「ラービグが赤字となっている最大の要因は石油精製事業で重油などの安価な製品が多く、競争力がないことだ。
石油精製を切り離すなど様々な方法を合弁先のサウジアラムコと議論したい。製薬子会社の住友ファーマは23年7月に米国で7社の事業会社を1社に再編し、年間4億ドルのコスト削減となる。この効果を見極めながら、複数の再建プランも練っている」
三井化学の橋本社長は医療関連で米国でのM&Aなどを検討していると明かした
三井化学・橋本修社長
――ライフ&ヘルスケア、自動車関連(モビリティ)、半導体材料などICT(情報通信技術)関連の成長3領域は合計のコア営業利益で2024年3月期に1210億円と、過去最高の見通しです。26年3月期ごろの目標(1720億円)への手応えは。
「ライフ&ヘルスケアは(今期予想の)360億円から650億円に増やす挑戦的な目標で、そのギャップをどう埋めるのかが一番の課題だ。
(入れ歯などの)歯科材料事業では独クルツァーを買収し、日本の松風にも20%を出資している。米国でM&Aや提携などを検討している」
「モビリティのリソースは比較的厚い。自動車関連の市況は戻っており、26年3月期の計画に向けて進んでいる。ICTは半導体市況が回復すれば伸ばしていける」
複数の買収案件を検討
――今後の投資計画は。
「M&Aは、ここ数年間で1件あたり500億〜600億円の買収も実施している。その水準は可能だ。成長3領域では常にM&Aや提携を検討しており、複数の案件がある。
設備投資は24年3月期が1800億円の見通しで、25年3月期以降も実行する」
「研究開発費は(21年3月期までの350億円前後から)24年3月期には450億円まで増える。
25年3月期も450億円前後だろう。ほとんどが人件費で、成長領域やデータ関連などで中途や新規の採用を増やしている」
――石化関連のベーシック&グリーン・マテリアルズ(B&GM)の状況は。
「過去の構造改革によりコア営業利益で200億〜300億円を出せると認識していたが、24年3月期予想は30億円の赤字だ。
中国による石化製品の増産投資が止まらず、今後3年くらいは市況の低迷が続くと思う。もう一段の基盤強化が必要だ」
「(エチレンから派生する誘導品では)23年にシンガポールの子会社を売却しており、24年もペットボトル原料の国内生産を停止する。B&GMは25年3月期に少なくとも黒字化し、できれば100億円以上を達成したい」
誘導品は離れた地域と連携も
――エチレン生産能力は日本最大です。事業再編の構想は、どうなっていますか。
「まず誘導品をどの程度残すかを決めて、上流のエチレンで生産能力の最適化を考える。それぞれ26年3月期ごろまでには青写真をつくりたい。
フェノールは国内外3カ所にプラントがあり、削減幅や対象地を検討したい。ポリオレフィンも他社との連携を検討するが、誘導品では離れた地域との連携もありうる」
「エチレンは地理的に近いとシナジーが出るため、千葉県市原の工場では丸善石油化学と住友化学との3社連携を組んだ。出光興産と話すことも考えられる」
「大阪工場では瀬戸内海周辺のプラントとタンカーやタンク、(脱炭素で)新技術の共有などの連携が想定できる。この地域には(三菱ケミカルグループと旭化成による岡山県の)水島、(出光興産の山口県)周南、(レゾナック・ホールディングスの)大分がある」
三井化学が運営するエチレンプラント(大阪府高石市)
千葉で「良縁」つくれるか
住友化学の業績悪化の主因は中東の石化事業など、市況に左右されやすい分野への増産投資が裏目に出たことだ。
とりわけ飼料添加物のメチオニンは米欧の競合企業に対抗して18年に愛媛県で増産したことが損失につながった。証券アナリストからは「最悪の経営判断だ」との声もある。
一方で、三井化学は石化事業の売却や縮小を進めながら実施した成長3領域への投資が奏功し、業績は比較的堅調となっている。両社の明暗が分かれた格好だ。
両社は03年に経営統合が破談となった因縁の関係にある。住友化学は15年に千葉でエチレンプラントを停止しており、三井化学も同年に別のエチレンプラントの株を売却して離脱した。
岩田社長と橋本社長は、それぞれ26年3月期をめどに再編案をまとめる考えを示した。
単なる能力削減だけではなく、脱炭素に貢献できるプラントを目指す方向性も共通する。
千葉での石油化学再編で「良縁」をつくれるかどうかは、両社の今後にとって重要な意味を持っている。
(渡辺伸)
日経記事 2024.01.28より引用
高額商品である有機ELテレビの販売は鈍い
テレビ用有機ELパネルの市況が停滞している。
指標品の大口取引価格は2023年10〜12月期まで3四半期連続で横ばいとなった。高額商品である有機ELテレビは世界的な物価高の影響で販売が鈍い。
大手パネルメーカーは生産を絞り、値下がりを食い止めている。テレビ販売の速やかな回復は見込めず、市況の低迷が続きそうだ。
有機ELテレビは液晶テレビよりも値段が高く、先進国が集まる欧米が2大需要地とされる。
主要部品である有機ELパネルの大口取引価格は、売り手となるアジアの大手パネルメーカーと、買い手となる国内外のテレビメーカーが四半期ごとに決める。
23年10〜12月期は、流通量が多い55型品が1枚412ドル前後。3四半期連続で横ばいとなった。前年同期比では1%安い
大型の65型品は1枚635ドル前後。前四半期に比べ1%下落し、前年同期比では5%安となった。
10四半期連続で値下がりしたものの、下落幅は段階的に縮小している。
大口取引価格は21年後半から下落基調に入った。新型コロナウイルス禍で盛り上がったテレビの巣ごもり需要が一段落したほか、世界的な物価高で有機ELテレビの販売が縮小し、テレビメーカーによるパネルの調達意欲が鈍ったためだ。
有機ELパネル大手の韓国LGディスプレーなどは、市況の悪化と価格の下落で採算が大きく悪化した。パネルメーカーは一層の値下がりを回避するために生産量を抑え、需給バランスのコントロールを図っている。
米調査会社DSCCによると、テレビ用有機ELパネルの生産ラインの稼働率は23年の全体平均が49%だった。22年の61%と比べて12ポイント低く、21年の89%からは40ポイント低下した。
世界出荷枚数は23年が前年比29%減の540万枚だった。パネルメーカーの減産の効果で、大口取引価格は横ばい圏での推移が続いている。
液晶パネルは値下がりした。23年12月の大口取引価格は大型品の指標となるTFT55型オープンセル(バックライトがついていない半製品)が1枚122ドル前後。前月比3ドル(2%)安い。小型品で指標となるTFT32型オープンセルは2ドル(6%)安の1枚33ドル前後だった。
液晶パネルは有機ELパネルに比べてメーカー数が多い。需要の減少で中国の液晶パネルメーカーは生産ラインの稼働率を落としているが、全体の生産量を抑えきれてはいない。
DSCCは有機ELと液晶を含む薄型テレビの世界出荷台数が24年に前年比3%増の2億3000万台になると予測する。22年並みに戻るが、21年の2億4500万台には届かない。
同社の田村喜男アジア代表は「市況の回復には時間がかかる。有機ELパネル価格はしばらく低位で推移するだろう」とみる。(桝田大暉)
日経記事 2024.01.28より引用