さくらインターネットが北海道石狩市で運営する石狩データセンター
発電した電気を無駄なく運ぶ夢の技術が「超電導送電」だ。データセンター(DC)が集まる北海道石狩市で実用化を見据えた実証が進む。国内随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを生かし切るにはテクノロジーの革新が欠かせない。
雪の積もる石狩市内を車で走ると、海に近づくにつれて石狩湾新港の風力発電の風車が見えてくる。道路沿いに銀色にそびえる巨大な建物が、さくらインターネットのデータセンターだ。
DCには膨大な電力が必要になる。石狩データセンターで消費する電力は100%再生エネだ。
現在は二酸化炭素(CO2)排出が実質ゼロとなる北海道電力のプランを使っているものの、目標は「再生エネの地産地消」(さくらインターネットの澤村徹執行役員)にある。
北海道石狩市にある超電導送電の研究設備(中部大学提供)
2023年12月、さくらインターネットは「石狩データセンター」(石狩市)での超電導送電に必要な冷凍機や長さ500メートルのケーブルなどを取得した。
将来、超電導ケーブルを使って自社の再生エネ発電所から直接送電することを模索する。送電ロスが少ない超電導は「最適なソリューションの1つ」(澤村氏)といえる。
電気を電線で送ると一部は熱などに変換されて、電力の5%前後が失われる。ただケーブルを液体窒素でマイナス196度まで冷やすと電気抵抗のない「超電導」状態になる。理論上は送電ロスがゼロになる。
石狩湾新港では中部大学(愛知県春日井市)やさくらインターネットなどで構成する石狩超電導・直流送電システム技術研究組合が、研究を続けてきた。
経済産業省の委託事業として500メートルと1000メートルの区間で施設を設け、超電導送電の実証を重ねてきた。
電気のロスを最小限に抑えて長距離送電する技術を確立できれば、その恩恵は北海道全体に及ぶ。
北海道の沖合は絶えず強風が吹き、洋上風力発電プロジェクトが相次ぎ表面化している。
北海道で発電した再生エネを需要地まで運ぼうと、国は北海道と本州を結ぶ200万キロワット分の海底送電ケーブルを30年度までに新設する計画を持つ。送電容量はさらに増強する考えだ。
送電時のロスは距離が長くなるほど増える。超電導ケーブルを長距離の海底送電用に実用化する日がくれば、送電ロスは大幅に減らせる。
「日本列島を縦断するように1000キロメートル級の送電網があれば最大限強みを発揮できる」(中部大の本島修理事)
課題は導入コストだ。ケーブルを常時冷やす必要がある。本島氏によると10キロメートルあたり1台の間隔で冷却装置を置くことになるという。コ
ストを下げようと冷却温度がより高くてすむ素材を開発したり、より安価な冷却材に切り替えたりする研究が進んでいる。
中部大の試算によると100キロメートルの区間を超電導で100万キロワット送電した場合、従来の送電(ロスは5%と想定)と比べて年44億円の増収につながるという。
超電導ケーブルの敷設コストは100キロメートルあたり約400億円と見積もる。コストを同100億円程度まで削減することができれば「実用化が一気に進む可能性が出てくる」(本島氏)。
超電導送電は、遠隔地に大量の電気を送ることに向いている。地域間で効率よく電気を融通する広域送電網の整備は北海道と本州間にとどまらず、全国共通の課題だ。
超電導送電が脱炭素社会を支える次世代インフラとして役立つためには、さらなるコスト削減が求められる。
(神野恭輔)
◇
絶えず強風が吹く北海道は洋上風力発電の適地で、再生可能エネルギーを活用するプロジェクトが相次ぐ。再エネを無駄なく使うため注目を集める最新技術を追った。
【関連記事】
日経記事 2024.01.30より引用