
モルドバのサンドゥ大統領(3月18日、首都キシナウで)=ロイター
旧ソ連で親欧米政権が率いるモルドバがロシアの干渉に苦しんでいる。今年後半には大統領選や欧州連合(EU)加盟に関する国民投票などを控えるなか、ロシアが経済的圧力や情報戦を仕掛け社会の不安定化を図っているからだ。
同様の危険は選挙を控える欧州全体に及んでいる。
モルドバはウクライナと、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するルーマニアに挟まれ、面積は約3万3800平方キロメートルと九州よりやや狭い国土に250万人強が住む。
ロシア語が一般に通用するが、国民の7割以上を占めるのはルーマニア系のモルドバ人でルーマニア語を話し、欧州志向は根強い。

特に2020年の大統領選で勝利したサンドゥ氏のもと親欧米路線は明確となった。22年2月にロシアがウクライナを侵略するとその傾向は強まり、同年6月にはEU加盟候補国となった。今年末までにEU加盟手続きを憲法に明文化する是非を問う国民投票と、サンドゥ氏が再選を目指すとみられる大統領選が実施される見通しだ。
これに穏やかでいられないのがロシアだ。露骨な揺さぶりが始まった。勢力圏と見なすモルドバを再び親ロシアに転換させようと「政権転覆を企てている」(サンドゥ大統領)。
エネルギー供給で揺さぶり
まずロシアが利用したのがエネルギー。
ロシアにほぼ全面的に依存していただけに天然ガスの値上げや供給停止などを迫られたことによる影響は大きかった。
そもそもロシアの安いエネルギーに安住し続けたことが原因だが、それがロシアの戦略だったともいえる。

モルドバ政府は23年2月にエネルギー省を新設し、欧州からの調達を本格化し始めたが、価格上昇は避けられず、国民の不満が高まる要因となっている。
国内2地域がロシアに支援要請
次に利用したのがモルドバが国内に抱える親ロシア地域。ひとつはウクライナとの国境沿いの分離独立地域「沿ドニエストル共和国」だ。
この地域はソ連崩壊にともない一方的に独立を宣言した未承認国家でロシアは軍を駐留させている。その「議会」が2月28日にモルドバ政府から圧力を受けているとしてロシアに保護を求めた。
ロシアにとって沿ドニエストルを抱えるモルドバの重要性はウクライナ侵略で高まっている。ウクライナの黒海沿岸を占領すれば同国を地理的に孤立させることができるからだ。
もうひとつの親ロ地域が南部ガガウズ自治区。その指導者が3月6日、訪問先のモスクワで支援を求めるとプーチン大統領は「ガガウズの人々の権利を守るための支援を拡大することを約束する」とこたえた。
獅子身中の虫ともいえる両地域が同じ時期にこのような行動に出ているのは偶然ではないだろう。

サンドゥ大統領の親欧米路線に反対するデモも発生している(2月、キシナウで)=AP
モルドバには徴兵を避けるためロシア人が多く流入しているが、そのなかにデモなどをあおる工作員が紛れているとの報道もある。
SNSなどで世論介入も
社会不安の種を着々とまいているロシア。そのうえで仕掛けているのが「インフルエンスオペレーション(影響力工作)」だ。
これはSNSといったメディアなどを通じて世論に介入し、特定の政策や選挙に影響を与えることを目的とする。ここではもちろんモルドバの政権交代と親ロシアへの転換が目的だ。
23年末にはSNSにサンドゥ大統領が自国の生活水準を皮肉るような映像が流れたが、人工知能(AI)による偽動画であることが判明。
このほか、中東欧の偽情報を監視している団体によると、「米国がルーマニアによるモルドバ併合を準備している」「ウクライナとモルドバが沿ドニエストル共和国への攻撃を準備している」などの偽情報が確認された。
インフルエンスオペレーションの対象はモルドバだけではない。
サイバーセキュリティー大手トレンドマイクロによると、ウクライナ侵略が始まった22年に「ドッペルゲンガー」と呼ばれるインフルエンスオペレーションが活動を開始した。対象国はウクライナや欧米諸国で、ロシア政府が関与していることがのちに分かっている。

今年は6月の欧州議会選や11月の米大統領選など世界で選挙が目白押しの選挙イヤー。
ドッペルゲンガーの活発化が予想されている。狙いはウクライナやモルドバなどを巡り欧州の世論を分断させ、民主主義陣営の結束を弱めることだ。
民間も対策に乗り出した。グーグル、メタ、マイクロソフトなど米テック企業20社が今年2月、協定を締結。選挙におけるAI不正利用に対抗するため各社が協力することで合意した。
すでに被害を受けているモルドバをはじめ選挙への不当な干渉をどう防いでいくか。民主主義の根幹が問われる年でもある。
<picture class="picture_p166dhyf"><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=515&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=c3549f43fb4830406bc4e675a6b4a72b 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1030&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=b03eb2cc9d3bb57c20abe9e78f655e5b 2x" media="(min-width: 1232px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=515&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=c3549f43fb4830406bc4e675a6b4a72b 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1030&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=b03eb2cc9d3bb57c20abe9e78f655e5b 2x" media="(min-width: 992px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=484&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=dafcff915590107b57564ec3f5fed984 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=968&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=a3a902c01fefe850e822f671dca94f59 2x" media="(min-width: 752px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=484&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=dafcff915590107b57564ec3f5fed984 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=968&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=a3a902c01fefe850e822f671dca94f59 2x" media="(min-width: 316px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=484&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=dafcff915590107b57564ec3f5fed984 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4682917008042024000000-2.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=968&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=a3a902c01fefe850e822f671dca94f59 2x" media="(min-width: 0px)" /></picture>