ルネサスは甲府工場でのパワー半導体量産を延期する(写真:日経クロステック)
電気自動車(EV)や産業機器の市場低迷が国内半導体メーカーの業績を直撃している。
中国経済の停滞も重なり、人工知能(AI)向け以外の半導体需要は回復が鈍い。ルネサスエレクトロニクスやロームは電力制御用半導体の設備投資を大幅に絞る。
2024年7~9月期決算発表での各社幹部の発言から市場の先行きを見通す。
SiCへの参入延期
「EVの立ち上がりが想定より遅い。甲府工場は量産開始をできるだけ先送りし、SiCも事業立ち上げを急がない」(ルネサスエレクトロニクス社長の柴田英利氏)
ルネサスは2024年1~9月期の純利益が前年同期比26%減の2002億円だった。売上高に当たる売上収益は5%減の1兆558億円。
日本や欧州でEV向け半導体需要が低迷し、ファクトリーオートメーション(FA)など産業機器向けも回復が遅れている。「アップターン(市況回復局面)を逃がさないことを重視する経営から、ブレーキを少し強く踏む経営に切り替える」(柴田氏)と話した。
国内半導体メーカー大手はキオクシアを除き低調だった
自動車や産業機器向けのシリコン(Si)パワー半導体を生産する甲府工場(山梨県甲斐市)の量産開始を延期する。
300mmウエハーを使う製造ラインで2025年初頭からの量産を予定していたが、同年内に量産を始めるかも不透明になった。
高効率の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体は高崎工場(群馬県高崎市)で2025年に量産を始める計画だったが、これも見直す。
「EVの普及がかなり先送りになっており、パワー半導体の成長は限定的だ。産業機器も厳しく、太陽光パネルやFA向けの需要が弱い」(ローム社長の松本功氏)
ロームは2025年3月期の最終損益が60億円の赤字(前期は539億円の黒字)になる見通し。最終赤字は12年ぶりだ。
EVや産業機器向けのパワー半導体の需要低迷が響く。生産拠点を再編したりファウンドリー(半導体製造受託会社)への生産委託を増やしたりし、今後3年で固定費を年200億~300億円削減する。
ロームは宮崎第二工場でのSiC基板生産を2025年に先送りする(出所:ローム)
注力事業のSiCパワー半導体は2028年3月期までの7年間に5100億円の投資を計画していたが、4700億~4800億円へ引き下げる。
宮崎第二工場(宮崎県国富町)では2024年内にSiC基板の生産を始める計画だったが、2025年に遅らせる。
ロームのSiC関連の市場シェアは約10%で、30%への引き上げを狙い先行投資してきた。
中国や欧州の自動車向けSiC事業は順調だが、EVの失速で「投資を少し緩めないと危ない」(松本氏)との判断に傾いた。
競争力強化に向け、東芝、デンソーとそれぞれ半導体分野の協業に関する協議を始めた。
東芝とは開発や販売での協力のほか資本提携も視野に「(東芝を買収した)日本産業パートナーズを交えた3者で7月に話し合いを始めた。1年以内をめどに(協業の形を)決める」(松本氏)。
デンソーはロームの大口顧客で、アナログ半導体の共同開発も手掛けてきた。今後どのような協業ができるか検討している。
中国リスクが顕在化
「中国の通信機器関連の需要が弱い。FAなどの産業機器や事務機器向けの需要も低調だ」(ソシオネクスト社長の肥塚雅博氏)
ソシオネクストは2025年3月期の純利益が前期比25%減の195億円、売上高は10%減の2000億円となる見通し。
注力市場である中国の不況を背景に、カスタムSoCと呼ぶ特定顧客向け半導体の需要が通信機器や産業機器向けで低迷している。
2026年3月期も「中国需要を厳しく見ている」(肥塚氏)といい、売上高は前期比横ばいまたは減少を想定する。2027年3月期から成長路線に戻す計画だ。
ここ数年、米国や中国の顧客向けを中心に、自動車やデータセンター用の半導体受託開発を伸ばしてきた。2024年7~9月期に米国のデータセンター向けプロセッサーの大型商談を獲得。3nm世代技術を使い、2027年3月期の量産を目指す。
メモリー市況回復で上場へ
「パソコン市場は回復が遅れているとされるが、オンデバイスAIの搭載による買い替え需要に期待ができる」(キオクシア副社長の渡辺友治氏)
キオクシアホールディングスは2024年4~9月期の最終損益が1760億円の黒字(前年同期は1891億円の赤字)となり、4~9月期の最高益を更新した。
主力のNAND型フラッシュメモリーの需要がAI向けを中心に増え、価格も上昇した。
最終黒字は3四半期連続で、10~12月期も560億~840億円の最終黒字(前年同期は649億円の赤字)を見込む。
2023年10~12月期まで5四半期連続で最終赤字を計上したが、稼ぐ力が戻ってきた。
足元ではNANDの価格が再び下落基調にあるが、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)など競合企業を含め「メーカーは規律ある投資をしている」(渡辺氏)と話す。
AI向け需要が強いこともあり当面、価格の暴落はないとみる。今後の需要に応えるため、北上工場(岩手県北上市)の新製造棟を2025年9月に稼働させる。
2024年11月8日には新規株式公開(IPO)に向け、有価証券届出書を金融庁に提出した。東京証券取引所への2025年6月までの上場を目指し、資金調達の選択肢を広げる。
スマホ市場は回復基調
「大手顧客への集中リスクは昨今始まった話ではない。技術を磨きいろんな顧客に使ってもらえるようにすることが重要だ」(ソニーグループ社長の十時裕樹氏)
ソニーグループは半導体などイメージング&センシング・ソリューション分野の2025年3月期の売上高と営業利益見通しを下方修正した。
2024年8月時点の見通しと比べ、売上高を800億円、営業利益を250億円引き下げた。
主力のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーの販売数量の減少によるもので、売上高は前期比10%増の1兆7700億円、営業利益は29%増の2500億円を見込む。
「顧客の生産計画の見直しに合わせた下方修正」(十時氏)という。米Apple(アップル)のスマートフォン「iPhone」の生産調整を指すとみられる。
スマホ市場全体は中国と欧州の成長に加え、米国も回復基調にありグローバルで緩やかに回復していると説明した。
ソニーグループのイメージセンサーは一部製品で製造歩留まりの低い状態が続いてきたが、2025年1~3月期には「正常なランレート(稼働率)に戻る」(執行役員の早川禎彦氏)とした。