キーエンスが25日発表した2024年3月期の連結決算は、純利益が前の期比2%増の3696億円だった。
欧米の設備投資需要を取り込み、工場を自動化するファクトリーオートメーション(FA)機器が伸びた。
競合他社が中国の景気減速に苦しむ中、3年連続で最高益を達成した。顧客と協力会社から寄せられる2つの信頼が高収益を支えている。
純利益は直近の市場予想平均(QUICKコンセンサス)を128億円上回った。売上高は5%増の9672億円、営業利益は1%減の4950億円だった。
地域別の売上高は米州が15%、欧州は19%増えた。中国含むアジアは2%減った。
「付加価値の高い商品の企画開発、直販体制の強化を継続した結果だ」。キーエンスの中田有社長は25日、大阪市内で前期決算をこう振り返った。
キーエンスの中田社長は最高益について「一定程度、我々の役立つ商品が
受け入れられた結果だ」と話した(25日、大阪市)
売上高営業利益率は51%と3ポイント低下したが、競合のファナック(18%)と比べ高水準だ。オムロンの予想利益率は3%にとどまる。
同社首脳は「中国の依存度が高まっていた」と語り、中国市場の不振を理由に挙げる。
中国の製造業は新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後は成長軌道に戻るとの見方が多かった。
しかし、中国本土の経済が減速し消費が落ち込むと状況は一変。FA機器は要らなくなり、各社は在庫の山を抱えた。オムロンの場合、約200億円の在庫引当金が発生したもようだ。
顧客から寄せられる信頼がキーエンスと他社との明暗を分けた。ゴールドマン・サックス証券の諌山裕一郎アナリストは「当日出荷を代名詞とする即納体制が功を奏した」と指摘する。
キーエンスは国内外を問わず、注文が寄せられた当日にFA機器を出荷する生産・物流体制を構築する。
顧客は「注文すればすぐに製品を持ってくる」安心感から「必要なときに必要な量だけ注文を出す習慣がついている」(諌山氏)。
このため、顧客から余分な注文が寄せられず、ムダな在庫を抱えず済んだ。逆に注文から納品まで時間がかかる競合他社は、顧客から一定量の見込み注文が入り、在庫が膨らんだ。
キーエンスは在庫が入れ替わるまでの期間を示す在庫回転日数が31日と短い。
ファナック(約164日)の5分の1だ。景気変動時に損益悪化リスクが高まる在庫を極力もたない姿勢が、中国事業の傷を浅くした。
ファブレス企業のキーエンスは、生産を委託する協力会社からFA機器を仕入れる。
需給に合わせて協力会社の生産量を調整し、即日出荷を実施する。在庫を多めに持たなくても機会損失を出さないのは、協力会社もキーエンスに信頼を寄せるためだ。
同社が協力会社に通知する生産見通しは精度が高い。ほぼ事前の見通し通りに生産を頼まれるので、協力会社は通知を受けると、すかさず生産準備に入る。
代金は納品の翌月に支払われる。SBI証券の小宮知希シニアアナリストは、取引条件の良さから協力会社がキーエンスに「『うちに作らせて』と申し出ている」と語る。
顧客と協力会社の信頼は実績を重ねて獲得したものだ。キーエンスは今期の業績見通しを開示していないが、4年連続の最高益を予想するアナリストが多い。
市場予想平均は売上高が創業以来初めて1兆円を超え、純利益は3903億円になると見込む。
(柘植衛)
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日経記事2024.04.25より引用