倉庫に備蓄された半導体(写真はコアスタッフの倉庫)
日本の半導体商社が中国市場に接近している。レスターは台湾の同業と連携を深めて中国製半導体の調達を増やし、リョーサン(東京・千代田)は中国の電気自動車(EV)開発大手との合弁会社を情報集めに活用する。
米中の貿易摩擦が激しくなるなか、複雑な取引を担う商社の本分を磨き、合従連衡が続く業界で生き残りを図る。
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「トランプ氏の米大統領就任後はサプライチェーン(供給網)の不確実性が増す。当社は台湾のワールド・ピース・グループ(WPG)と連携して供給網を強力にする」。半導体商社大手のレスターの柴田真裕専務執行役員はそう語る。
台湾企業の物流システム活用
レスターは2025年にも、WPGがグローバルで展開する物流管理システムをシンガポールの販売会社に導入する。世界の半導体メーカーの供給余力がリアルタイムでわかり、レスターの顧客とつなぐことができるようになる。
WPGは米アロー・エレクトロニクスや米アヴネットと並ぶ半導体商社の世界大手で、特に中国の半導体メーカーとのつながりが深い。
レスターは23年にWPGの日本子会社、AITジャパン(現レスターWPG)を買収した。同社の株を共同保有するなどWPGとは良好な関係を築いており、幅広い事業での協力を模索する。
リョーサン菱洋ホールディングス(HD)傘下のリョーサンは、中国EV開発大手の阿爾特汽車技術(IAT)と設立した中国・成都の合弁会社を活用し、現地での半導体の調達と情報収集に力を入れる。
当初は中国の自動車メーカーに日本の半導体を売り込む拠点だったが、日本の取引先から中国製半導体を取り次いでほしいという要望が相次ぎ、中国における戦略拠点になった。
各社が中国や台湾の企業との連携を強める狙いは、混沌の到来を見据えた供給網の強化だ。
「自国主義の台頭によってモノの流れがグローバル化から分断される。在庫や物流などインフラ機能を持つ半導体商社の価値が問われるようになる」と中堅商社サンワテクノスの田中裕之会長は話す。
「冬の時代」到来も
少し前まで、半導体商社は「冬の時代」を迎えようとしていた。自動車などの大手メーカーは開発期間の短縮やコスト削減を狙い、半導体商社を通さずに、半導体メーカーと直接取引をする傾向を強めていた。
調達先も収縮した。1990年代まで世界を席巻していた日本の半導体メーカーが没落し、系列の販売機関だった商社の役割は減った。メーカーの再編に伴って商流は絞り込まれ、商社の合従連衡も始まった。
24年の国内上位のラインアップは、14年の時点から変化した。15年にマクニカ(現マクニカホールディングス)が富士エレクトロニクスを取り込み、19年にはUKCホールディングスとバイテックホールディングスが経営統合した。
加賀電子も富士通エレクトロニクスを買収した。
この間、自動車や機械などあらゆるものの電子化が進み、半導体の流通量は増えた。カナダの調査会社テックインサイツによると、世界の半導体出荷数は4000億個前後と10年前の2倍近い水準で推移する。
取引が増えると商社の仕事も増えそうだが、グローバル化が加速するなかでは、豊富な在庫と幅広い情報ネットワークを持つ世界大手に仕事が集まった。業界の「商社切り」は続くかに見えた。
寒風は思わぬ形で弱まった。きっかけは新型コロナウイルスの流行だ。2
0年春以降、半導体の生産や物流が大混乱し、供給網が分断された。半導体は価格が高騰して一部は市場から消え、自動車などの生産が滞った。
「コロナ禍の悪夢」も後押し
この「コロナ禍の悪夢」は今も製品メーカーの記憶に残っている。そして、自国優先で中国などからの関税を高めることを公言するトランプ氏の大統領就任を前に、再び供給網の混乱への不安が頭をもたげている。
中国の半導体は技術水準が高まり、応用範囲も広がっている。米中摩擦を意識して工場を中国外に移す製品メーカーも増えているが、コスト競争力に優れた中国製半導体への引き合いは強い。
米国が中国との取引を規制しているのは、現状では先端品など一部の半導体だけだ。日本の企業が中国製の汎用品を利用すること自体に、なんら問題はない。
ただ、突如として規制対象が広がる可能性もあり、メーカーとしては、どの程度のものなら安心して取引を続けられるかといった懸念は残る。
半導体業界に詳しい英調査会社オムディアの南川明氏は「製品メーカーの意図を先取りして半導体会社に伝えるなど、仕事を作り出せる商社が求められる」と指摘する。
今年4月に発足したリョーサン菱洋HDの中村守孝社長は「売上高1兆円規模を目指してM&A(合併・買収)を進めていく」と話す。米調査会社ガートナーによると、13年に34%だった国内上位5社のシェアは23年に5割を超えた。
再編劇は今後も続きそうだが、頼りになる相手を求める仲間づくりのムードは高まっている。物流の分断を商機として生き残るには、リスク管理を万全にしつつ、精査された情報へのアクセスをいかに確保するかが重要となる。
(為廣剛)