10日、ゴラン高原の国境近くのシリア領内を走行するイスラエル軍の戦車=ロイター
【カイロ=岐部秀光】
イスラエル軍が隣国シリアとの間に設けられた「緩衝地帯」からさらに先に進みシリア領内で軍事活動をしていることが10日明らかになった。
両国の停戦協定に違反する行動だ。アサド政権崩壊後の混乱に乗じたイスラエルの動きはシリアの復興妨げとなり地域の緊張を一段と高めかねない。
イスラエル軍スポークスマンは10日、「分離エリア(緩衝地帯)といくつかの追加的な地点」で作戦を実施していると発言した。
「防衛の観点から安全と安定を保つプロセス」の一部であると説明した。イスラエル軍がダマスカスに向けて進軍しているとの一部アラブメディアの報道は否定した。
ゴラン高原はイスラエル、シリア、レバノン、ヨルダンの国境に位置する。第3次中東戦争でイスラエルが占領し実効支配した。
1974年の停戦協定の一環で緩衝地帯が設けられた。イスラエルはゴラン高原を一方的に併合し、2019年に当時のトランプ政権がこれを承認した。
アサド政権の崩壊を受けイスラエル軍はゴラン高原の緩衝地帯にあるヘルモン山脈に部隊を送り、シリア軍が放棄した稜線(りょうせん)上の監視拠点を管理下に置いた。
約30キロ離れたダマスカスの状況を見渡すことができる軍事的要衝だ。ネタニヤフ首相は「シリアの政権が崩壊したことで停戦協定は無効になった」と指摘した。
イスラエルメディアによると、イスラエル軍はアサド政権崩壊後のシリアで320以上の「戦略的目標」を攻撃した。
親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、アサド政権を倒した旧反体制勢力にシリア軍の武器が渡ることを阻止するためという。
ダマスカスや地中海の港湾都市タルタスにあるシリア軍の防空システム、ミサイル、弾薬庫、ドローン(無人機)、ヘリコプター、戦車などを破壊した。
複数の化学兵器関連施設も標的とした。戦略的な軍事能力の70%以上が取り除かれたという。
シリアはイランがレバノンの親イラン武装勢力ヒズボラに武器を送るための重要な補給路として機能していたとみられる。
イスラエルは敵対するアサド政権の崩壊を歓迎するが、暫定政権の中心である旧反体制派シャーム解放機構(HTS)への警戒もある。HTSは近年、イメージ改善に取り組んだが、国際テロ組織アルカイダを源流とする組織だ。
カッツ国防相は10日、「国境を越えてイスラム過激派のテロ組織がイスラエルを攻撃することは許さない」と述べた。
国連のグテレス事務総長のスポークスマンは10日、シリアにおけるいかなる領土保全の侵害にも反対する立場を表明した。「シリアの転換点(の混乱)を利用して国土を侵してはならない」と述べた。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)もイスラエル軍のゴラン高原での軍事作戦を批判した。
パレスチナ自治区ガザの衝突はレバノンにも拡大した。レバノンでは停戦が発効したがイスラエル軍とヒズボラの双方が「停戦違反」を主張し衝突は収まっていない。
シリアでのイスラエルの軍事行動は衝突の火種をさらに広げるおそれがある。
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報道によれば、イスラエル軍はシリア領内に入ったといわれている。いつの時代も同じことだが、歴史はこのように書き換えられる。
アサド政権が10年少々で崩壊したつけはシリア領土の縮小であろう。イスラエルにとってゴラン高原の軍事的な重要性は一目瞭然である。
イスラエルはいったんそれを抑えると、二度と手放さない。だからこそどんな独裁者でも、自国民を大切にしないと、国家のほころびが避けられない
イスラエル軍は2024年10月1日、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラに対し、イスラエルと国境を接するレバノン南部で「限定的」な地上攻撃を始めたと発表しました。
その後、イスラエル軍は、イランがイスラエルに向けて同日にミサイルを発射したと発表しました。最新ニュースと解説記事をまとめました。
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