読了。
本を読む気にもならなかったのだけど、「ぼんくら」「日暮らし」の続編が出るとなったら
二日かけて読了。今回は文庫も発売ということで、お財布に優しい。
宮部みゆきのこの時代物は、優しい。江戸に生きたい・・・なんて思ってしまうくらいだ。
呑気な八丁堀のだんなと、その甥っ子の謎解き。周りの気のいい江戸っ子たちが魅力的で、切なくて、あったかくて、泣ける。
江戸では生来の仕事を継がなくてはいけない縛り、身分制度の縛りなんかがあり、そのなかで精一杯生きる人々がいる。
家を継げない武家の次男・三男なんかは、自分の特性を生かして、自分の生きる道を探さねばならない。
町人は大店でなければ、やはり自分にむいた道をさがし、自分で食っていけるようにならねば生きていけない。
今回は「跡継ぎ」以外の「余計ないのち」というものが底にあるテーマだった。
長男の跡取り以外は、養子にいったり、他の商売・ここでは医学の道に進んだりするわけだが、跡取り以外は余計モノであった江戸の時代。
そのために身を誤まる者もいたわけで。
なんか、身につまされた。
わたし、リツコは3人姉弟。上に姉、下に弟である。
わたしが産まれた時、父は母に「もう一度だな」と言ったそうである(父はそんなことは言ってないと言うが。それを当の本人に言う母も母である)。
東北の地主だった父の生家は弟で10代目。とにかく「男の子を、跡取りを!」という家であった。
そこに女の子、次はぜひにも男!と思っていたところ、また女だったわけだから、父もそう言いそうである。
それで次に産まれたのは弟だった。
父の実家に行った時に、弟は下にも置かない扱いだった。どこにいっても「10代目」。
祖父は金融機関の会長をしていたが、商売を継ぐとかではないのに、家を存続させてくれる男の子の扱いは格別であった。
わたしのような「2人目の女」はいとこたちにもなく、ある人からいとこたち全員にもらうおもちゃをもらえない事もあった。
「ああ」と、わたしは小さいうちに感じた。
だから、良い子で、親の自慢になる子でいなければ、と思った。
身体が弱い姉のことを母に頼まれた。弟の面倒を見てと頼まれた。「しっかりした子」としてやってきた。
大学も推薦で合格した。姉が働いている関西の大学を選んで進学し、姉の世話をし、浪人して一緒に暮らした弟の面倒を見て、家事を一手に引き受けてきた。
弟は1浪し、4留年した。
わたしは家族から離れて東京で仕事をしていた。そこに仕事を辞めた姉が転がり込んできた。
姉と一緒に暮らしながら、ほとんどの生活費はわたしが出していた。弟が上京すると、必ずお小遣いをあげていた。
それから、両親のどちらかがひとりになった時、面倒がみられるように、姉夫婦と同じマンションを購入した。
でも、今考えると、それは当然なのだ。
だって、余計ないのちだから。
育てて、大学を出してやって、きょうだいの面倒を見るなんて当然なのだ。
母はわたしが結婚をしないで、ずっと自分の側に居て稼いでくれていたらいい、と思っていたようだった。
あまりに自虐的・・・
と思うが。田舎というところは、江戸時代からあまりかわっていないのだろう。
実際、祖父の時代では、長男が財産を総取りするから、次男は家を建ててやる、三男は婿養子に出すってのが普通だった。
両親は、愛情と慈しみを持ってわたしを育ててくれたと思うが、子どもを産んだ今、よく分かる。
たった一人のこの子を、大切に育てようと思う。
うちはお金がないし、わたしの身体がもたないから子供は1人だが、これでもう1人いたら、どうなのか。
それを考えると、両親の気持ちも分かる。
父は、男の子より、弟より元気が良くて活発だったわたしを「○ん○んをお母さんのお腹のなかに忘れてきた」とよく言った。そしてよく泣いてばかりだった弟を「女の腐ったの」と言った(これも女性に失礼な話だほんとに)。
「リツコが男だったら」
とよく言っていた。
でも、今は弟も立派になり、頼れる男になった。男だけあるな、というのが今の両親の評価である。
男であったら。
わたしもよく考えた。男だったら、どんな人生だっただろう。
そしたら、父も母も、わたしのことをよく考えてくれただろうか。
中学の卒業式は、母が姉の試験についていって、父は会社の関係の葬儀があると、来なかった。
大学も自分で調べて決めた。転職も自分で考えてやってきた。
男だったら。もっと親身になってくれただろうか。
「おまえさん」は謎解きが終わり、みんな一段成長する。
どうしようもないこともある。でもそれでも生きていかねばならぬ。
宮部みゆきさんの江戸ものはあったかい。
わたしも、自分の向いた仕事をやって、自分を食べさせていけたら、と思う。
自分に与えられた分のなかで、つつましくやっていけたら、と。
前作のなかで「人の見た目の美しさ」について、ぐさりと刺さることばが、八丁堀の細君のセリフであった。
これを読むだけでも価値がある。
見た目で伴侶を選んでしまったわたしには、痛いことばである。
長いけど、良いです。ぜひ秋の夜長に読んでみてください