晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『錦繍』

2010-10-16 | 日本人作家 ま
この作品は、原題小説にしてはめずらしい「書簡形式」
をとっていて、つまり、全体的に手紙のやりとりのみ。
有名なものでは「あしながおじさん」がそうですね。

もっとも「あしながおじさん」は、長期に渡って主役
の成長もわかるようになっているので、それはそれで
物語といえるのですが、『錦繍』の中での元夫婦の
やりとりは、短期での手紙の中から過去、現在そして
未来と紡がれてゆくので、これはちょっとヘタすれば、
説明くさくなってしまいがちになり、そこはさすが宮本輝
(はじめからヘタすればなんて心配してませんが)、
手紙のやりとりではあるけれど、自然な「物語」として
読めてしまうのがスゴイ。

別れてしまった夫婦が、東北の蔵王のゴンドラリフトの
中で、偶然再会します。
そこから、元妻である亜紀が、元夫の靖明にむけて手紙
を出す、というかたちでこの小説はスタート。
ふたりは大学で出会い、靖明は若いころから苦労し、
亜紀は建設会社の社長令嬢。やがて交際するようになり、
そのまま亜紀は父に恋人を紹介。
父にとっては、娘婿というよりは後継者候補として見て
いて、その眼鏡にかない、ふたりは結婚。靖明は岳父の
会社に就職します。
ところが、夫の浮気が発覚。それどころか、靖明は寝て
いる間に相手の女性に刺され、その女性は自害します。
このセンセーショナルな「事件」に亜紀は狼狽、入院
している靖明のもとへ見舞いにいくも、怒り狂えばいい
のか、冷静に夫を信じればいいのか分からなくなります。
が、靖明は全面的に浮気を認め、そして離縁。

その後、靖明の人生は転がり落ちるように不運な人生
となり、亜紀は大学の助教授と再婚、子どもを産みますが、
男の子は脳に障害があり・・・

抗えない「運命」、そして「生と死」を考えさせられます。
離婚後、無気力となってしまった亜紀が、ふらりと寄った
近所の喫茶店。そこのマスターは大のモーツァルト好きで、
しだいに亜紀も感化されます。
モーツァルトのあるコンチェルトを聴き、亜紀は
「生きていることも、死んでいることも、じつは同じこと
なのかもしれない」
と感じるのです。

「じぶんはこういう星のもとに生まれた」という言葉を
否定的に考えれば、すべての事象が否定的となります。

ふと、「ネコの幸せ」ということを考えました。
飼い猫は、雨もしのげて、餌ももらえますが、「自由」
ではありません。では野良猫は、自由はあるけど、危険が
いっぱい。
どっちが「幸せ」なのか。

「気のもちよう」ってことなんですけどね。
コメント (2)
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