晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(二) 足抜』

2017-05-14 | 日本人作家 さ
シリーズ2作目。ざっと説明をしますと、江戸の遊里、
吉原には公式に町奉行の出張所が設けられていまして、
ですが、彼らはお飾り、廓内の揉め事は廓内で解決して
くださいというスタンス。
そこで、吉原会所(自治組織のようなもの)は、ある
浪人、神守幹次郎を用心棒に、つまり吉原の(裏)同心
に雇います。

この幹次郎という男、じつは汀女という(人妻)を連れ
て九州の某藩を逃げ出して来たのです。
これにはいろいろあったのですが、なんだかんだで江戸
まで逃げてきて、追っ手と幹次郎が吉原でゴタゴタが
あって、吉原の会所名主、四郎兵衛が幹次郎を用心棒に
スカウトしたのです。

汀女は遊女たちに俳句を教えています。

さて、今作では「足抜け」がテーマ。つまりは「脱走」
ということなんですが、遊女たちは、借金を完済する
まで辞めることができません。まあ中には「身請け」
といって、お客さんがお金を払って辞めさせるという
こともあります。

吉原は、周囲を堀で囲まれていて、出入りできるのは
「大門」と呼ばれる1か所のみ。これは「足抜け防止」
の役割でもあったわけですね。

この時代、八月一日を「八朔」と呼び、江戸では天正
十八(1590)年のこの日に徳川家康が関東入り、
江戸城入城したということで、大名や幕臣の旗本たちは
八朔に江戸城に登城するさいは、白帷子を着て将軍に
ご挨拶をするという「式日」で、これが吉原にも伝わり、
八朔に花魁たちが廓内を白い着物を着てパレードをする
というイベントとなりました。

この花魁道中は、ふだん吉原に行かない一般庶民や女性も
観に行ったそうです。

で、幹次郎は四郎兵衛に、八朔の花魁道中をぜひとも見学
してらっしゃいと勧められます。
ところが、なにやら異変が。太夫と呼ばれるトップ遊女の
ひとりが道中に出てきません。

香瀬川という太夫は部屋にもいません。誰に聞いても行方は
知らず、もしや足抜け・・・?

じつは、この年に入って、遊女の足抜けは香瀬川の前にも
二人がいなくなっていました。
これにはなにか組織的なものが絡んでいるのでは・・・。

さっそく、捜査に乗り出す幹次郎たち。

香瀬川の以前に足抜けしたとされる遊女の行方があと一歩
でわかるというところで、遊女とその家族は何者かによって
殺されてしまいます。

この間にも、吉原の近辺で多発していた掏摸事件を解決
したり、赤穂浪士の子孫という武士が店に居座って、お代
の踏み倒し疑惑が出てきたりとあちこちでトラブルが。

そんな中、汀女の紹介で、もうひとりのトップ遊女「薄墨」
に会えることになった幹次郎。そこで、香瀬川の失踪の
手がかりが・・・

足抜けしたとすれば、どのように、どうやって大門の見張り
の目をかいくぐり、外に出られたのか。

江戸の遊里、吉原が舞台となっていますが、会所の名主を
はじめここで働く男たちは「自分たちは所詮、遊女たちの
生き血を吸って生きています」と、吉原を肯定したりは
していません。

香瀬川失踪の件で、幹次郎がトップ遊女「薄墨」に意見を
聞きに行ったさいに、幹次郎は「遊女三千人の頂点に立ち、
比類なき権勢を手中にした天下の花魁がなぜ足抜けをした
のかわからない」と疑問を投げかけます。その問の薄墨の
答えがとても切ないですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする