晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『酒田さ行ぐさげ』

2024-03-03 | 日本人作家 あ
ようやく寒さのピークが過ぎたと思ったら、今度は花粉症の季節です。じつは10年ほど前にだいぶ大人になっての花粉症デビューしまして、それまでは花粉症で苦しんでる人を見ては生活の乱れ、食事の栄養バランスが悪い、だから花粉症になるんだ自業自得だと下に見てたのですが、もう心の底からごめんなさい。

以上、反省してまーす。

さて、宇江佐真理さん。この作品はサブタイトルに「日本橋人情横丁」とあります。

日本橋富沢町にある「上総屋」は、葬儀で亡くなった人の形見の着物を加工して棺を覆う天蓋を作る店で、娘のおすぎはケチで他人の悪口が大好きな両親のことがいやだと考えるようになります。じっさい、手習所に通いたいと言ったときも「おなごに学問は必要ない」といって認めてくれず、といって同業者に娘の自慢をされて悔しくて急に「明日から手習所に行け」と言い出したり。ところがおすぎは「わたし行かない」と・・・という「浜町河岸夕景」。
北町奉行所の同心、戸田勝次郎は妻を亡くして一周忌が過ぎても後添えをもらう気になれずにいます。さらに気が滅入る御用を命じられます。それは、筆頭同心の森川が奉行所の金を持ち出して金貸しをしているという噂があり、それを調べてくれ、というもので・・・という「桜になびく」。
呉服屋「一文字屋」は、古びた狭い貸家に引っ越します。というのも、番頭が金を持ち逃げして一家は夜逃げ同然で引っ越したのです。近所に挨拶にまわっていると、裏店の長屋にお武家と思われる一家がいて、じつはかつて一文字屋で買ったことがあるというのですが・・・という「隣の聖人」。
花屋の「千花」の息子、幸太は、父の仕入れの手伝いで駒込や巣鴨まで行きますが、ある日のこと、仕入れに行った途中に蕎麦屋によって食べてると、知らない男が「滝蔵じゃねえか」と父の名前を呼び、父は「久しぶりです」といいます。こいつは倅で、などと話してその男は去りますが、父は幸太に「今日のことはおっ母にはいうんじゃねえぞ」と言われて・・・という「花屋の柳」。
蚊帳商「山里屋」大女将の美音は、近所の娘たちにお稽古ごとを教えています。じつは美音は武家の娘でしたが父が浪人になり、女中奉公に出て山里屋に嫁ぎます。さて、教え子のひとり、小普請組の娘のあさみが「本意ではない縁談はお断りしてもよいのか」と聞いてきて、なにごとかと思いますが、じつはあさみに還暦近い隠居の後添えにならないかという話があって・・・という「松葉緑」。
廻船問屋「網屋」の一番番頭、栄助は、掛け取りから戻るとお客が来ています。聞くと「酒田の番頭が江戸に来てる」といいます。じつはこの酒田の番頭とは権助といって栄助とは網屋に同じ時期に奉公に入った仲間でしたが、仕事が遅く失敗ばかりで支店の出羽の酒田に飛ばされたのです。栄助は権助の尻拭いをやらされてばかり迷惑だと思っていました。ところが、そんな権助はなんと酒田の店主になったというのです・・・という表題作「酒田さ行ぐさげ」。

江戸時代の日本橋といえば商業の中心地でしたが、メインストリートから一本裏に入ると、そこには裏店があり煮売屋があり銭湯があり、といった庶民の暮らしがありました。江戸というビッグシティのなかの武家や商家にフォーカスを当てた作品も好きですが、こういった市井の人々のハートウォーミングな作品はドラマチックな展開こそありませんが、年を取ってくると、こういうのがなんともいいですね。

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