晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

伊集院静 『瑠璃を見たひと』

2011-11-16 | 日本人作家 あ
伊集院静さんの作品は、まだ直木賞受賞作の「受け月」しか
読んだことがなく、作家としてというよりは、故・夏目雅子
さんと結婚して、そのあとに篠ひろ子さんと再婚したという
ワイドショーで得たプロフィールしか知らず、あとは、たしか
麻雀が上手い、というくらいですか。

それはさておき、この『瑠璃を見たひと』という作品、いち
おう裏表紙のあらすじには「冒険ファンタジー」とあります
が、ファンタジックかといえばそこまでではなく、かといって
「冒険」というのも、まあ世界各地を飛び回る話ではあります
が、それも、うーんそうかなあ、と。

というのも、そういった範疇では収めきれない、独特な世界が
あるといいますか、多分これを映像化した場合、なんとも捉え
どころの無い、コンセプトの薄い作品になってしまう危険性が
あると思うのです。ところが、文章にしますと、特に時間的に
制約が無い分、余裕を持ってアクションとファンタジーと人間
ドラマとミステリーといった部分の“繋ぎ”を差し込むことで、
それがきちんと形成されるようになるのでしょうね、例えが適
切かどうかわかりませんが、ハンバーグのパン粉のような。

幼いころに中国人の母を亡くし、父も病死、父の生前に、安心
させてあげるために結婚したものの、愛のある夫婦生活を送れ
ていない瑛子は、神戸の自宅から海を眺めています。
ふと、かつて叔父から聞いた、夕暮れの海に、曇り空から薄く
陽が差して、海面を不思議な色に染める光景を「道化師の涙壷」
と教わったことを思い出し、夫の賢一郎と結婚したはいいけど
良妻を演じている自分が道化のように感じ、ふと、このままで
はいけないと思い立って、家を出てしまいます。

父が亡くなる前に、もし瑛子に何かあれば、この人を訪ねなさ
い、と言われており、神戸のしがない普通の洋飾店へ行くと、
マダム・チャンという女性を紹介されるのです。このマダム・
チャンは瑛子の母と知り合いらしく、瑛子が幼いころから知って
いる様子。
家を出てきてしまったと告げると、あとのことは我々にまかせて
と言われ、とりあえず東京のホテルへ。

そこで、マダム・チャンから、あるお願いを頼まれます。それは、
香港へ行って、動物の彫刻の「片割れ」を探してきてほしい、と
いうもの。その彫刻は「タオティエ」という空想上の猫に似た動
物で、一対になっていて、目には翡翠が埋まっていて、その宝石
はこの世にふたつと同じ輝きを持つものは無く、この彫刻を一対
で持つ者には富と権力を手にできる、という伝説があり、世界中
にニセモノが出回っている、というのです。

そんなものを探しに、なぜその日初めて彫刻を見た瑛子が真贋の
判定に香港へ向かうのか判然としないまま、とりあえず瑛子はお供
の男性とふたりで香港へ・・・
そこから、謎の組織に追われることとなり、瑛子は中国の海南島、
いったん日本に戻ってから次にフランス、ベルギーと行くことに
なるのですが、瑛子を待っていたものとは・・・

マダム・チャンはなぜ瑛子にタオティエの本物を探させようとする
のか、追っ手たちの目的とは。

アクション要素はあるのですが、息つまるスリル感はあまり無く、
作者もそこを追求してはいないでしょう。つまり先述したように
範疇に収めてしまうとどうしても「物足りなさ」があるのですが、
いったん頭から取っ払って、文字による表現の微妙な按配という
のを楽しんでみては。



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