路地猫~rojineko~

路地で出会った猫と人。気付かなければ出会う事のない風景がある。カメラで紡いだ、小さな小さな物語。

陰 膳

2009-11-07 | 『小鉄』


小鉄』が長い旅に出てから

殆ど川沿いの路は通らなくなっていた。

ふと、違う用事でその道を通り気付いた事がある。





納骨堂の裏のベンチの上に

こっそりと置かれた一握りの炒り子の山だ。





『小鉄』が来るのを楽しみにしていたおばあちゃん

今でも、納骨堂の裏で煙草を吸うのが日課らしいのだが

毎日ベンチに炒り子を一握り置いて帰る。

多分『小鉄』が自分と違う時間にココへやって来て

お腹が空いていたら可哀想だからと

こっそりと置いていくのだ。

すると不思議な事に

翌日には綺麗になくなっているという。





勿論、『小鉄』が食べてなくなっている訳ではない。

近所に住む他の野良猫が平らげているだけなのだが

おばあちゃんは『小鉄』が食べたと思っている。




何だか切ない話だが

多分、

おばあちゃんにはそんな事はどうでも良いのだ。





こっそり積まれた炒り子の山は、

家を長く離れている者が無事でいるようにと

留守の者がそなえる「陰膳」のようで

河原の夕日が眩しく少し歪んで見えた。




おばあちゃんの煙草の煙が

少しだけ

目に沁みたのかも知れない。










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贐(はなむけ)

2008-04-21 | 『小鉄』

去年の年末あたりから、『小鉄』の放浪の旅は始まった。

その頃から川沿いで出会う人達ともすれ違いで

煙草を吸いに来るおばあちゃんとも、犬の散歩のおじさんとも

猫缶のおばさんとも会えなかった。




いつも通る道から前に住んでいた団地の窓が見えるのだが

今年に入ってから、

私の次の住人であるおばさんの家に

ハトロン紙のカーテンが退出の旨を伝えていた。




名古屋の御子息の家に引越されたのだろう。



『小鉄』とは、別れの挨拶は出来たのだろうか。

そんな事をぼんやり考えながら窓を見上げていると、

ベランダにハトが二羽、止まっていた。



もしや、「鳩山さん」



仲睦まじく並んで止まっているが、親子か夫婦か解からない。

少子化問題に貢献出来たのだろうか。

おばさんは名古屋でご家族と上手く生活出来ているのだろうか。




お節介かもしれないが、ただ祈る事で

その人が幸せになれるのならば

遠くからでも、祈りたいと思う。



「幸せであるように」



そして小さな命達が運んだ、

不思議な出会いに感謝を捧げたい。







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男の背中

2008-03-09 | 『小鉄』

団地で『茜』と一緒に居た頃の『小鉄』は、弱虫で

『ボス猫』が時々現れると、いつも逃げてばかりいた。

橋向こうからやって来る大人しい年寄りの『影虎』の姿ですら

やはり、遠くから確認していたくらいだ。


まだ、川沿いから四丁目の路地裏へ逃亡の日々が続いている模様で

朝の通勤時に良く会うようになった。

再会すると、喜んでお腹を見せてはゴロンゴロンと転げ回る。

少し薄汚れた体で、川沿いに居た頃よりは痩せたみたいだ。

顔を見ると、傷がある。

耳にも少し。

人間からの虐待でない事を祈りつつ、

子供の頃、猫を3匹飼っていた友達が言った事を思い出した。



「雄猫はね、弱虫ほど後ろ足の方に怪我をして帰ってくるんよ。

 強者は逃げないから頭や耳に怪我をするったい。
 
 ほら、「じゃりん子チエ」の小鉄は額に傷があるやろ。勇者の証やん。」



子供ながらに妙に納得した覚えがある。

勿論、『小鉄』の名前は「じゃりん子チエ」から来ている。

あんな風に、人間のテツなんかより頼りになる

強くて優しい雄猫になって欲しかったからだ。



『小鉄』の傷が勇者でなくとも、強者の証であれば良い。

ひとしきり私と遊んで、ブロック塀にマーキングをした後

妙に納得したように、ゆっくりだが

しっかりと歩き出す『小鉄』の背中が大きく見えた。




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虐 待

2008-02-03 | 『小鉄』

明るい内に写真を撮りたかった。

逃亡者、『小鉄』の元(犬の散歩のおばさんの所)へ急いだ。

が、 『小鉄』の姿は無い。

仕方なく帰ろうとしていると、犬の散歩のおばさんが仲間を引き連れて帰って来た。

「小鉄やろ、さっき一本裏の通りの駐車場におったよ。」

と、一つ裏の通り迄聞こえる声で『小鉄』の名を呼んでくれた。

なかなか出て来ない。

暫くして、私も『小鉄』の名を呼んだ。

一本裏の通りから、家と家の隙間を抜けて『小鉄』が姿を現した。

「やっぱり、貴方の声は聞き分けるとよ。出てきたやん。」

関心しながらおばさんは言う。

一週間振りの再会に撫でていたら、ザラっとした感触が手に残った。

怪我をしている。

「最近ね~、小鉄は怪我ばっかりよ。喧嘩して帰って来るけんね。

 …それに、猫嫌いの人に虐待されとるみたいでね…可哀想に。」



そう言えば、川沿いに居た頃も散歩の人達から聞いた事がある。

納骨堂の裏で煙草を吸うおじさんの中には猫嫌いが居て、

皆に可愛がられる『小鉄』を目の敵にしている輩が居るらしい。

歳を取り、家族に相手にもされないので小動物をいじめて憂さを晴らしているのだ。

小さな命を傷つける権利は誰にもない。

下等動物と彼らが言う猫達ですら、自らの子供では無くとも幼い命を傷付ける行為はしない。


もしかしたら、『小鉄』は虐待が嫌で川沿いから逃亡したのかもしれない。

犬の散歩のおばさんのお向かいさんは大の猫嫌いで有名だ。

逃亡先でも試練の道が待っている。

まるで、「逃げても同じ」と神に言われている気がした。


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続・四丁目の夕日

2008-01-26 | 『小鉄』

『小鉄』が再び姿を消したのは、川沿いで再会して三日後の事だった。

納骨堂の裏を通る度、『小鉄』の名を呼んでみた。

街頭の明かりに照らされたベンチの上には、

おばあちゃんが置いていってくれた、猫用の餌が淋しそうに盛られている。

おばあちゃんも『小鉄』には会えていない様子だ。

休日の明るい内に、近所を捜索していると、

犬の散歩のおばさんに声を掛けられた。

「小鉄にそっくりなのが家の近所でウロウロしとるよ。見においで。」

教えられた場所へ急ぐと、『小鉄』がそのおばさん宅の前でうずくまっていた。

私に気付くと罰の悪い顔をして近付いて来た。一応、安心した所で、帰る事にした。

次の日、再びおばさん宅へ行ってみると、

川沿い散歩の人達の噂を聞いておばあちゃん迄、『小鉄』を探しに来ていた。

腰の曲がったおばあちゃんがここまで来るのは大変だったろう。

でも何より『小鉄』が心配だったのかもしれない。

しかしその日、おばあちゃんも私も『小鉄』には会えなかった。

昨日の様子では、この家の外飼い猫にして貰っている様だったので、

もう捜す必要は無いのかもしれない。




夜遅い帰り道、 「翌檜公園」 (川沿いの納骨堂からかなり離れた場所)に差し掛かると

「ニャ~ッ!」と声がし、何故かここに居る筈の無い『小鉄』が現れた。

可笑しくて泣けてきた。

私の膝に乗り、直ぐに満足気に丸くなる『小鉄』…。


 お前は私を捜してここ迄来たのか?


猫に口が利けるのならば一度、訊ねてみたい。



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電 話

2008-01-19 | 『小鉄』

川沿いで『小鉄』を膝に乗せていると、携帯電話が鳴った。

電話の音が嫌いな『小鉄』は迷惑そうな顔をして膝から降り、川へと水を飲みに行った。

電話の相手は某出版社の方だった。

街に出た時偶然立ち寄った出版社で、その時は写真だけを見せたのだが、

エッセイを書いてみては?と言われ、早速5~6話を書いて送ってみた所、

担当の者が変わったという連絡の電話だった。

その時は知らなかったのだが、悪質な詐欺とネットで噂になっている出版社だった。

騙されたと言う人も、本(商品)は出来ているのだから詐欺ではない。商法なのだ。



私の出版費用は百万円と言われた。

見積書を見ても、何に幾ら使われるという詳細は無い。

百万円は高過ぎると言うと、幾らなら出せるのかと言う。

半分迄なら…と言うと、再び半分の金額の詳細の無い見積と、誤字の多い手紙を送って来た。

正直、笑ってしまった。

勿論、本にする気など猫の写真を携帯カメラで撮っている時点で既に無かった。

誰か他人の意見が聞きたかったのだ。

そもそも、私が行く所を間違えていたのか…いや、間違えてはいない。

例え、営業的意見でも「書いてみては?」と言ってくれた出版社の方にも感謝だ。



私は写真家じゃないし、物書きでもない。ネットも敬遠していた。

何か(猫)に導かれる様に書き始めたのは、昨年の夏からだった。

で、昨秋自宅PCで印刷・製本、本(ほんの数冊ではあるが…)が出来た。

年末には繋いでいないPCを繋ぎ、ブログを始めた。



猫の力は本当に、凄い。



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四丁目の夕日

2008-01-17 | 『小鉄』

『小鉄』が消えた。

師走に入り、急に寒くなったので、ねぐらから出て来るのがしんどいのかと思っていたら、

おばあちゃんも会っていないと言う。

優しい奴なので、寒くなったし迷惑を掛けまいと姿を消したのか、

可愛い雌猫を見付けて旅に出たのかもしれない。

出会った時から既に成猫、拾われる可能性は少ないが

不思議と愛嬌のある猫なので家猫に転身したのかもしれない。

川沿いで犬の散歩をする人達も皆、心配してくれていた。


一週間と一日目、夜遅くなった帰り道、納骨堂の裏で『小鉄』の名を呼んだ。

何の返事も無い。諦めて歩き出す。公園に差し掛かると後ろで声がした。

「ニャ~~ッニャ~~ッ!」

振り向くと暗がりの中、丸い背中が必死で私に向かって駆けて来る。

『小鉄』だ。

久し振りの再会に嬉しくて、膝に乗せてもみくちゃに撫でていると

『小鉄』の心配をしてくれていた犬の散歩のおじさんが通りかかり、

「やっと戻って来たね、小鉄がここに居らなみんな心配するやろ~」と、

『小鉄』の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。


おじさんは私の名前も知らない。縁もゆかりも無い。

でも、犬の名前は『ムック』…これが普通で、これが日常。

私が知らない人達迄、何故か『小鉄』の名前は知っている。

ここ(川沿い)の噂は、インターネットよりもきっと、早い。


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時 間

2008-01-14 | 『小鉄』

今の家へ越す前は、公団に住んでいた。

引越しの時にはいつも、

私の前と後にはどんな人がここに住むのだろう…と考える。

大抵会う事は出来ないが、不思議な縁で出会う事も希にはある。



『小鉄』に会う為、引越してからも前の家の近くの河原迄毎日通っていた。

『小鉄』と並んで座っていると、

「ここに居ったとね。ご飯持って来たよ。」と、年配の女性が声を掛けて来た。

『小鉄』も慣れた様子で近付いて行く。常連さんの様だ。

その後も何度か会う機会があり、

帰って行く後ろ姿を見送っていると、

私の前に住んでいた団地の部屋へと入って行った。

前原方面から御子息の嫁との折り合いが悪く、

追い出される形で一人ここへ越して来たが、

次は名古屋の御子息の所へと身を寄せる予定だそうだ。

名古屋で幸せに暮らせると良いが、慣れない土地では大変だろう。



映画「イルマーレ」では、時を超えた男女が、海の上に建つ美しい家を舞台に

手紙のやり取りをする。二人を繋ぐのは「不思議な郵便受」で、

私の場合は「猫」だった。

家族がいても孤独な人はいる。

私が出会ったのは、家庭を持つ事を選んだ未来の自分かもしれない。




時間は誰にも「平等」だが、時も猫も孤独な人には「対等」に接してくれる。

「特別な時間」を共に過ごせるからだ。




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生きる

2008-01-12 | 『小鉄』
                (写真は『長老』…イメージです)


『小鉄』の所へ通う様になって八ヶ月が過ぎる。

雨だろうと台風だろうと毎日通った。

犬の散歩の人達ともいつの間にか顔見知りになってしまった。

川沿いの納骨堂の裏にはベンチがあり、散歩の途中に喫煙や休憩出来るスペースがある。

そこへいつも淋しそうなおばあちゃんが一人、煙草を吸いにやって来る。

「猫の名前は、何て言うと?」

「小鉄です。」

「そーね。小鉄ね。」

…こんなやりとりを何度か繰り返した。余り会話をするでもなく、猫と私の姿をずっと見ていた。

どうやら耳が遠いらしく、会話より同じ時間を共有するコミュニケーションを選ぶ事にした。



ある日、私がいつもの時間に行ってみると、

おばあちゃんが先に来ていて『小鉄』に猫缶をあげていた。

すっかりお腹一杯の『小鉄』は、その日を境に私の膝の上で寝るだけになった。

『小鉄』と私に出会ってから、以前より元気になったと、

おばあちゃんの御子息がわざわざ私にお礼を言いに来られた。

ひたむきに食べ、ひたむきに眠り、ひたむきに愛す。

三つの欲しか持たない小さな命だからこそ、

つかの間の触れ合いでも淋しさが癒されるのかもしれない。



「生きる意味」を問う必要はない。

食べ、眠り、愛する事が生きる力を与えてくれる事を、猫は知っている。



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置き引き

2008-01-02 | 『小鉄』

『茜』の連れ、『小鉄』はかなりの甘え上手。

人馴れした飼い猫ですら膝には余り乗らないのに、

公園で出会ってから二週間目に自ら膝に乗って来た時には流石にびっくりした。

ご飯を食べる時に、ニャグニャグ感想を良いながら食べる姿は、

料理番組の「彦麻呂さん」みたいで笑える、憎めない奴だ。



桜が満開のある日、絶好の撮影日和とばかりにくつろぐ二匹の姿を写真に納めていた。

余りに夢中になっていた私は、

財布の入ったバッグを無造作に駐輪場のブロックの上に置いたままにしていた。

そこへ、子供連れの若いお母さんが通り過ぎた後、

そのご主人らしき男性が通り過ぎたが、気にも止めなかった。


「ニャァ~ァ!」

『小鉄』が大きな声で鳴いたので振り向くと、

通り過ぎたはずの男性が私のバックの中から財布を出そうとしていた。

若いお母さんと子供は何処かへ消えて、男性だけが戻って来ていたのだ。

「い、いや。落し物かと思って…」と…変な言い訳を残し男性は逃げて行った。

バックの所有者が近くに居て、注意を逸らしてしる隙に財布を持って行こうとしていたのだから、

明らかに「置き引き」と言う奴だ。

昔から、猫は役に立たないと言うがそんな事は無い。恩返しやお礼位はするのである。



その事件以来、『小鉄』は良く私のバックをベッドに、食後の仮眠を取る様になった。

でも本当は、自分のバックと思っているだけなのかもしれない。


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