その日私はちょっとした野暮用があり、
人並みにキチンとした恰好をしていた。
いつもなら行かない場所へ出向いた事もあってか、
記憶も曖昧で、誰かに道を聞こうと見回した。
横断歩道で見付けたのは
目の前に気の良さそうなおじさん一人と、
険しい顔をした昼食へ向かうＯＬさん一人。
普通なら、気の良さそうなおじさんに声を掛ける所だが、
私は何故か険しい顔をしたＯＬさんに声を掛けた。
「すみません、○○に行くにはあの道ですか？」
満面の笑みで尋ねると案の定、
愛想の一つもなくＯＬさんは
「そうですよ」
と、答えた。
そのまま、信号が青になるまで待っていると
そのＯＬさん、細かい事が気になったのか（面倒臭そうに）
「○○商店街ならそっちだけど、○○だったらあっちの道です」
と、再び愛想もなく付けたした。
「はい、商店街の方で良いんです。」
と言った瞬間、信号が青に変わり、歩き出しながら笑顔で礼を言った。
ついに最後までＯＬさんは笑顔にはならなかった。
しかし、聞く相手を瞬時に選んだのだが、道は間違わなかった。
夕方になっての帰り道、
駐車場で以前写真を撮らせて貰った縞三毛猫に出会った。
縞三毛は私の事を覚えていたらしくすぐに立ち止まったので、
こちらも、しゃがみ込んで挨拶をした。
しかし、
既に薄暗くなってきていたし手荷物も多かったので、
じっくり写真を撮るのは諦めた。
その後、帰宅したマンションロビー。
大抵、同じビルの住人に出会うと
挨拶はこちらからするように心掛けてはいるが、
掛けた声が宙に浮く結果になる事も多いここの住人。
（注：全ての人が、ではないですが）
小さな子供に至っては、
親達から「知らない人には挨拶でも口を利くな」
とでも言われているかと思う位に、
掛けた挨拶の言葉が宙に浮く事が多い。
しかし、その日は
向こうから、挨拶の言葉が飛んで来た。
「こんばんは」（しかも、満面の笑みで）
可笑しなものだ。
その相手は、
いつも私が声を掛けても挨拶を返さない人だった。
何でだろうな？…と思いながら
自宅の鍵を開け玄関横の鏡を見た。
なるほど。
キチンとした恰好に声を掛けたのかも知れない。
詐欺師というのは割とキチンとした恰好をしているらしい。
「人を見た目で判断してはいけない」と言うが、
「人は見た目でしか判断できない」のだ。
しかし、以前会った時と恰好は違っても、
縞三毛はしっかりと私だと見抜いていた。
動物というのは、
「恰好」よりも「行動」を見ているのかも知れない。
横断歩道で道を尋ねたのが、
あの気の良さそうなおじさんだったら
私は目的地へ最短距離で行けたのだろうか。
ふと、そんな思いが頭を過ぎった。
昨日は51位
←「恰好」よりも「行動」に、クリック一つ。
昨日は18位
←でも笑顔には笑顔で、クリックもう一つ。
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