彼の旅は、実家の近所のお宅の勝手口の以前から
既に始まっていたのだ。
次に出くわしたのは遥か遠いお宅の玄関先。
長老ならではの知恵と天性の愛嬌で
数々の場を切り抜けてきたのだろう。
最初に出会った時からすれば
みるみる痩せて、毛の艶も減り
背中の骨が触ると解るほどになった。
受け口だった下の牙も抜けてしまったが
結構高い塀の上に居たりする。
しかし、『灰縞さん』の凄い所はそれだけではない。
いつも出会う場所は違えど、
必ず猫を飼っているお宅の近所に
新居(居場所)を構えていることだ。
猫を飼っている(=猫好き)人がいるという事は
必ずご飯のおこぼれにありつけるという事を知っているのだ。
恐らく人間の私よりも正確な猫の住所録を
既に頭の中に持っているのかもしれない。
猫は歳をとると人の言葉を理解し
猫又になるという伝説があるが、
「元気だった?久しぶり!」という
私の言葉をちゃんと理解しているようだ。
律儀にも挨拶をする為に高い塀から降りて来る。
そして、私の周りを感謝の儀式の様にグルグル回り
再会を喜ぶ旧友のように挨拶してくれるのは
やはり人の言葉を理解しているからとも思える。
そんな彼が快挙を成し遂げた。終の棲家を手に入れたのだ。
猫を飼っているあるお宅の玄関先にいたのを発見した時の事、
いつもの様に塀の上から律儀に降りて来る姿が見える。
頭を撫でると、彼の首には可愛い赤色の首輪が付いていた。
私は彼の様に、例え長い道程になろうとも
確固たる自分の居場所を作る事が出来るのだろうか。
昨日は?位
←いつもありがとうございます。
昨日は?位
←感謝、感謝でございます。