休日、『小鉄』の居る納骨堂の近くを通った。
橋の下に白黒の小さな背中が見えた。
日陰に避難している、小さな貴婦人だ。
この辺りではあまり見掛けない猫ではあったし、
警戒されるとまずいので静かに静かに橋の上からキャットフードを落としてみた。
むむっと気付いた猫は、もぐもぐと食べている。
少しづつ、橋の上からのプレゼントだと言う事に気付いてもらうべく
猫に分かる様に投げてみた。
気付いた猫は私の心配をよそに、ぐんぐん近付いて来た。
どうやら飼い猫の様で、人を怖がらない。
河の土手を登って来た猫と遊んでいると、日傘を差した年配の女性に声を掛けられた。
「まぁ、変わった柄の子ね。珍しいわ。連れてお帰りなさいよ、何万匹かに一匹の猫かもよ。」
確かに駄猫には珍しい柄が多い。三毛猫の雄位なら珍しいと言えるかもしれないが、
この子はどう見ても、普通の猫だし飼い猫だ。連れて帰る訳にはいかない。
少し話しているとどうやらかなりの猫好きの様で、自分の愛猫の写真迄見せてくれた。
まるで恋人の写真を見せる様に、毛長種の高そうな猫の写真を差し出す。
「これがレオ、こっちがルナ。」
ふと、亡くなったご主人の名前は痴呆で忘れても愛猫の名前はしっかりと覚えていた老女の話が頭に浮かぶ。
近所の野良と触れ合ううちに、老女はご主人の名前も癖も思い出すのだ。
記憶と言うものの儚さよ。
忘れえぬ愛を教えてくれるものが、人でなく猫でもいいのではないかと思う。
他生の縁も、永遠の愛…。
「この子の名前は『華』ちゃんが良いわ。うん、そんな感じ。」
愛猫の写真を大事にしまいながら、彼女は言う。
視線を落とすと、橋の下の貴婦人『華』が
私達二人を静かに見上げていた。
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