シューベルトが死の前年、1827年に作った歌曲集「冬の旅」の5曲目
市門の前の噴水のそばに菩提樹が一本立っている。
その木の影でたくさんの甘い夢を見たものだった。
僕はたくさんの愛の言葉をその木の皮に彫り付けた。
うれしいときも悲しいときも 自然に足が向いてしまった。
今日も真夜中に木のそばを通らなければならなかった。
それで暗闇の中なのに目をしっかりと閉じてしまった。
すると枝枝のざわめきが僕に呼びかけるように思われた。
「私のところへおいで、若者よ。ここがお前の憩いの場なのだ」
冷たい風が真正面から僕の顔に吹き付けた。
帽子が頭から飛んでいったが僕は振り向きもしなかった。
いま僕はあの場所から何時間も離れたところにいる。
だがざわめきがいつまでも耳に残る。
「ここがお前の憩いの場なのだ」
冬の旅 Winterreise D911,Op.89。
1823年に作曲された『美しき水車小屋の娘』と同じ、ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩集による。
二部に分かれた24の歌曲からなる。
『冬の旅』は若者は最初から失恋した状態にあり、詳しい状況は語られないが街を捨ててさすらいの旅を続けていく。
全曲を通して「疎外感」、「絶望と悲しみ」、「決して得られないもの、もう失われてしまったものへの憧れ」に満ちて、唯一の慰めである「死」を求めながらも旅を続ける若者の姿が描かれている。
市門の前の噴水のそばに菩提樹が一本立っている。
その木の影でたくさんの甘い夢を見たものだった。
僕はたくさんの愛の言葉をその木の皮に彫り付けた。
うれしいときも悲しいときも 自然に足が向いてしまった。
今日も真夜中に木のそばを通らなければならなかった。
それで暗闇の中なのに目をしっかりと閉じてしまった。
すると枝枝のざわめきが僕に呼びかけるように思われた。
「私のところへおいで、若者よ。ここがお前の憩いの場なのだ」
冷たい風が真正面から僕の顔に吹き付けた。
帽子が頭から飛んでいったが僕は振り向きもしなかった。
いま僕はあの場所から何時間も離れたところにいる。
だがざわめきがいつまでも耳に残る。
「ここがお前の憩いの場なのだ」
冬の旅 Winterreise D911,Op.89。
1823年に作曲された『美しき水車小屋の娘』と同じ、ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩集による。
二部に分かれた24の歌曲からなる。
『冬の旅』は若者は最初から失恋した状態にあり、詳しい状況は語られないが街を捨ててさすらいの旅を続けていく。
全曲を通して「疎外感」、「絶望と悲しみ」、「決して得られないもの、もう失われてしまったものへの憧れ」に満ちて、唯一の慰めである「死」を求めながらも旅を続ける若者の姿が描かれている。