眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

掃除

2009-04-07 | 
掃除機はうるさいから嫌なの
 ほうきで床を掃きながら君が微笑んだ
  天気の良い日に掃除をするのが君は好きだった
   僕はハイネケンの緑色の瓶をゆらゆらと振った
    どちらかというと大掃除が苦手な僕は
     冷蔵庫から冷えたビールを引っ張り出し
      蓋を開けて親指と人差し指でゴミ袋に弾いた
       君はアパートの窓を開け放ちながら深呼吸した
        あなたがゴミを作る役で
         私がそのゴミをかたずける役
          なんだか不公平だわ
           君は頬を膨らませ不機嫌そうに笑った
            窓辺から風が流れ君の長い髪をたなびかせた

            人には役割があるんだよ
           舞台と同じさ
          名探偵と名泥棒の役
         どちらもこの世界には不可欠なんだ
        それに
       それに君、掃除が趣味なんでしょう?
 
     彼女は呆れた表情で僕からハイネケンの瓶を奪って
    美味しそうに飲んだ
   とにかくビールの空き瓶は部屋に転がさないこと
  ウイスキーの空き瓶をベランダに並べる癖を治しなさい
 まるで風邪を診断する医者の様に君は僕に宣告したんだ
僕は君がくれた銀のシガレットケースから
 フィルターつきのピースを一本抜き出して火を付けた
  君は焦げたフライパンを燃えないゴミの袋に入れた

   綺麗にかたずいた部屋はまるで僕の部屋じゃないみたいだった
    僕らはビールを飲みながらぼんやりと
     窓から空を眺めていた
      煙草に火を点けると君は口元をゆがめた
       煙草早くやめなさいよね
        そういって床に寝そべって僕の顔を見つめた

        ねえ、あなたは何処にいくの?
       僕にはその答えが判らなかった
      それでも
     僕は街を離れる決心をし始めていた

    部屋には大きな段ボール箱が山済みされていた
   300本近いカセットテープの山だった
  それらの音楽たちは完全に行き場を失くしていた

 ね そのカセット私がもらってもいいかな?
君がカレーライスを食べながら呟いた
 もちろん。どうせゴミにしようとしていたんだし・・・。
  あなたはゴミを創るひと。
   私はゴミをかたずける人なのよ。
    役割分担ができているのね。
     
     もう僕には音楽は必要ないんだ
      君はじっと僕の瞳を覗き込んだ
       本当に?
        嗚呼、決めたんだ。
         じゃあこの音楽たちは私が預かることにするわ。
          
          君はまっすぐに僕を見つめた

           二度と会えないんだろうね、私達。

           僕は黙り続けていた
          そうする事しか出来なかったのだ

         ね
  
        あなたの夢は私が預かっておくからね。

       君がそう云った

      君は少しだけ涙を零した

     二度と会えないのね

    忘却された記憶

   あのカセットテープの山は

  一体何処で何をしているのだろう?

 まるで僕自身のように居場所がないのだろうか?

ね あなたの夢は私が預かっておくわ。


 君の声と静かな掃除の時間がふと懐かしいんだね



  
    
コメント
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