創価学会の「内在的論理」を理解するためといって、創価学会側の文献のみを読み込み、創価学会べったりの論文を多数発表する佐藤優氏ですが、彼を批判するためには、それこそ彼の「内在的論理」を理解しなくてはならないと私は考えます。
というわけで、こんな本を読んでみました。
佐藤優/大川周明「日米開戦の真実-大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」
興味深い内容でしたので、引用したいと思います。
日米開戦の真実
――大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く
□はじめに
□第一部 米国東亜侵略史(大川周明)
□第二部「国民は騙されていた」という虚構(佐藤優)
□第三部 英国東亜侵略史(大川周明)
■第四部 21世紀日本への遺産(佐藤優)
〇第四章 歴史は繰り返す
〇第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体
●第六章 性善説という病
■外交を「性善説」で考える日本人
□「善意の人」が裏切られたと感じると……
□国家主義思想家、蓑田胸喜
□愛国者が国を危うくするという矛盾
□大川は合理主義者か
□大川周明と北一輝
□イギリスにみる「性悪説」の力
〇第七章 現代に生きる大川周明
□あとがき
――第四部 21世紀日本への遺産
第六章 性善説という病
外交を「性善説」で考える日本人
現在、日本外交は「八方塞がり」の状況にある。
歴史認識問題について中国に対しても韓国に対しても日本は誠実に対応しているつもりだ。中国と韓国は日本の誠意を評価せず、侮辱的対応をとり続けている。北方領土問題では、日本は法と正義の原則に基づいて返還を訴えているのだが、ロシアは交渉から逃げ回っている。北朝鮮は拉致問題の解決に誠意を見せないばかりか、核兵器や大量破壊兵器の開発をやめようとしない。それにもかかわらず北朝鮮は過去の植民地支配に対する償いをしろと詰め寄ってくる。日本にとって最重要同盟国であるアメリカに関しても在日米軍基地再編問題やBSE(牛海綿状脳症)問題では、アメリカが日本の立場に十分配慮しているとは到底言えない。日本だけが誠実に行動しているのに、世界中からナメられ、コケにされているという感覚を大多数の日本人が持っている。筆者も現在世界中から日本国家と日本人が軽く見られていることをひしひしと肌で感じている。率直に言って、外交専門家や情報専門家として以前に、一人の日本人として、このような状況は実に不愉快である。
大川周明も日米開戦に至る過程で、現在の日本人が抱いているものとは比べものにならない程の閉塞感と苛立ちを感じたに違いない。『米英東亜侵略史』が示しているように、アメリカの対日・対中政策、イギリスの対印・対中政策は、自国の利益を露骨に追求し、経済的・軍事的弱小国を植民地にする典型的な帝国主義政策であることを大川は実証的に明らかにしている。道義性は米英ではなく日本にありながら国際社会で日本の立場は認められない。そして徹底的に追いつめられた日本は、戦争という形で自らの正当性を証明するという賭けに出た。そしてその賭けに敗れたのである。
何がそのような結末を招いてしまったのか――本章ではこれまでとは切り口を変えて、性善説と性悪説という観点から考察してみたい。
古来、人間の本質をどう見るかについては、大きく性悪説と性善説の二つの立場がある。ここで両説を定義しておく必要があるのだが、性善説・性悪説については、古今東西、さまざまな学説があり、その基本的構成が大きく異なっているので、一義的に定義ができないのが現状である。ここではあまり学術的に深い考察はせずに常識的な線でとりあえずの定義をしておこう。
まず、性善説・性悪説を議論する際の大前提として、人間にとって悪よりも善が好ましいという基本了解がある。
性善説は、人間は生まれながらにして他者の心を思いやる優しい心をもっている ので、皆がこの傾向をすくすくと伸ばしていけば理想の社会ができるという考え方だ。本来善である人間に、後天的に悪影響を与えると考える。
これに対して性悪説は、人間は社会的制約のない状況では、自己の利益だけしか考えず、他者を踏みつけてでも自己の利益を実現しようとする性向があると考える。従って、社会に善を実現するためには、教育によって善という規範を教え込み、それがうまくいかない場合には暴力によって裏付けられた法によって人間の悪を封じ込める必要があるという立場だ。
さらに人間の本質は善でも悪でもない、仏教用語で言うところの無記、すなわち白いキャンバスのようなもので、その上にどのような絵でも描くことができるという第三の考え方がある。
原罪説をとるユダヤ・キリスト教は主に性悪説で構成されている。原罪という考え方をもたないイスラームは、人間を無記とみる。神道の人間観も無記である。仏教については一言ではいえない。筆者が見るところ、仏教は性善説、性悪説、無記のいずれの立場からも教義を整合的に展開することができる。
ところで国際関係においては、基本的に性悪説を採用するのが原則だ。国際社会では、最終的に暴力(戦争)によって問題を解決することが是認されている。国際法の分野では戦争違法化の傾向が強まっているが、国家の主権行為としての戦争を阻止することができる、国家主権よりも上位の暴力をもつ機関は存在しない。建前上は国連がいつの日か主権国家を超克し、平和を担保する機能を果たすことが期待されているが、予見可能な未来に国連がそのような機能を果たすことはない。最終的に暴力によって問題を解決するという「ゲームのルール」が支配する世界では、各プレイヤーは他者の悪意を敏感に察知し、有効な対策を立案・実行することが生き残りのために不可欠となる。従って、「最悪の状況」でも生き残れるよう各国の外交政策は性悪説に傾くことになる。
【解説】
国際関係においては、基本的に性悪説を採用するのが原則だ。国際社会では、最終的に暴力(戦争)によって問題を解決することが是認されている。国際法の分野では戦争違法化の傾向が強まっているが、国家の主権行為としての戦争を阻止することができる、国家主権よりも上位の暴力をもつ機関は存在しない。建前上は国連がいつの日か主権国家を超克し、平和を担保する機能を果たすことが期待されているが、予見可能な未来に国連がそのような機能を果たすことはない。最終的に暴力によって問題を解決するという「ゲームのルール」が支配する世界では、各プレイヤーは他者の悪意を敏感に察知し、有効な対策を立案・実行することが生き残りのために不可欠となる。従って、「最悪の状況」でも生き残れるよう各国の外交政策は性悪説に傾くことになる。
このように性悪説で外交を考えるというのは、新鮮な知見です。
おおいに勉強になります。
獅子風蓮