獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

佐藤優『日米開戦の真実』を読む(その22)

2024-11-18 01:12:33 | 佐藤優

創価学会の「内在的論理」を理解するためといって、創価学会側の文献のみを読み込み、創価学会べったりの論文を多数発表する佐藤優氏ですが、彼を批判するためには、それこそ彼の「内在的論理」を理解しなくてはならないと私は考えます。

というわけで、こんな本を読んでみました。

佐藤優/大川周明「日米開戦の真実-大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」


興味深い内容でしたので、引用したいと思います。

日米開戦の真実
――大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

□はじめに
□第一部 米国東亜侵略史(大川周明)
□第二部「国民は騙されていた」という虚構(佐藤優)
□第三部 英国東亜侵略史(大川周明)
■第四部 21世紀日本への遺産(佐藤優)
〇第四章 歴史は繰り返す
〇第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体
〇第六章 性善説という病
 □外交を「性善説」で考える日本人
 ■「善意の人」が裏切られたと感じると……
 □国家主義思想家、蓑田胸喜
 □愛国者が国を危うくするという矛盾
 □大川は合理主義者か
 □大川周明と北一輝
 □イギリスにみる「性悪説」の力
〇第七章 現代に生きる大川周明
□あとがき


――第四部 21世紀日本への遺産

第六章 性善説という病

「善意の人」が裏切られたと感じると……

しかし、日本の場合、外交官や国際政治専門家の多くが性善説に立って外交政策を組み立て、相手国の予期せぬ行動で期待通りにいかないと、過度の挫折感を味わうというパターンを繰り返している。国民も基本的に性善説に立って国際関係を見る。その結果、日本人の見る世界像と日本人以外の人々の世界像の間に大きな乖離が起こるのだ。善意の人ほど、その善意が認められないと怒りを覚える。国家にしても同じ傾向がある。自らの善意を常に傷つけられているという意識を持っている個人や国民は、結果として排外的民族主義を唱道することになる。
戦前日本の事例を見てみよう。第一次世界大戦に勝利した連合国の一員である大日本帝国は、1919年のパリ(ヴェルサイユ)講和会議で、人種差別撤廃条項を提案したが、イギリス、オーストラリアの強力な反対、さらにアメリカの中途半端な対応で、提案は拒絶された。日本は国際連盟の有力メンバーとして話し合いによる国際紛争の解決に努力した上、軍縮会議では大川が『米英東亜侵略史』で言及したように、日本に不利になる条約を締結するなど、国際平和を維持するために誠実な努力をした。アメリカやイギリスが建前として述べる理想を、性善説に立つ日本は額面通りに受け止めたのである。しかし、欧米列強は植民地主義を決して放棄しなかった。その現実に気づいたとき、日本は列強の二重基準に騙されたと心底憤慨し、そのような二重基準をとるシニカルな諸国と、汚い「ゲームのルール」を構築して生き残りを図るというような姑息な手段よりも、世界に新たな道義を導入することに魅力を感じた。そして、中国、東南アジア諸国、さらにインドを新たな世界秩序を形成するメンバーと考え、大東亜共栄圏の構築を真摯に考えた。ここでも大東亜共栄圏のメンバーとなる諸国の善意に期待するという日本の性善説が現れている。
帝国主義国による植民地支配からの解放を願っていた諸国も、それぞれの政治目標は異なっていたが、他民族や他国家の本性を性悪説でとらえていた。当然のことながら自民族、自国も性悪説の原理、すなわち基本的に自己の利益だけを考え、他者を犠牲にしてでもその利益を追求するのであるが、あまりやりすぎて他民族や他国家からの反発が強くなりすぎると、逆に自民族と自国家の利益を損なうと計算して、国際協調という名の折り合いをつけたのだ。
日本人はこのような性悪説に基づいて外交を組み立てることが苦手なのである。従って、いつも、他国も日本国家と同じく性善説に基づいて行動すると想定して足下をすくわれるのだ。そのような経験が蓄積すると、性悪説に基づいて行動する周辺諸国の全てが敵に見えてくる。一般論として、善意の人が「裏切られた」という意識を強くもつと、今度は極端に攻撃的になるのである。特に問題なのは国家主義的傾向の強い人々の「性善説という病」が、排外的民族主義という形で発症する場合である。
右派・国家主義者の言説は、アジア主義という形で国際的広がりをもつ言説と極端に純化した自己閉塞的言説に分かれる。現実政治により強い影響を与えるのは後者の自己閉塞的言説だ。この種の言説は、おそらく無自覚のうちに自己絶対化の誘惑に陥り、国家の選択の幅を著しく窮屈にしてしまう。結果として外交の硬直化をもたらし、国益を毀損する。ただしこのような自己閉塞的言説は、「日本政府は国内においても外交でも毅然たる対応をとれ」と強調するのみで、外交における具体的政策を提案することがないので、その内在論理が外交にいかなる悪影響を与えるかについて実証的に説明することが難しい。

ここで大川周明に対する強い敵愾心を隠さなかった国家主義思想家、蓑田胸喜を通して、自己閉塞的な国家主義者の言説が孕んでいる問題点を考えていきたい。 大川周明は北一輝と比較すると、中国革命に対する関与は小さいが、イギリスのインド植民政策に通暁し、インドの独立活動家に具体的支援を与えたことからも明らかなように、アジア主義の系譜に連なる思想家であることは間違いない。同時に大川は、帝国主義としてのイギリスとアメリカの質的差異を認め、「米英可分論」の立場から、日米戦争を回避するための交渉を在米インド人脈・ユダヤ人脈を通じて行うなど、現実主義者としての面がある。これに対して蓑田には国際政治の現実と噛み合う論理が欠如している。

 


解説
日本人はこのような性悪説に基づいて外交を組み立てることが苦手なのである。従って、いつも、他国も日本国家と同じく性善説に基づいて行動すると想定して足下をすくわれるのだ。そのような経験が蓄積すると、性悪説に基づいて行動する周辺諸国の全てが敵に見えてくる。

優れた外交官であった佐藤氏のこの分析は、おそらく正しいのでしょう。


獅子風蓮



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