大津通建築散歩~その1
広小路通が大津通と交わる栄の交差点を南に向うと、地下鉄の矢場町駅の手前、大津通に西面して名古屋で一番古いデパート、松坂屋名古屋本店が建っています。
日本のデパートはその成り立ちから「呉服店系」と「私鉄系」に分けられます。松坂屋や三越は「呉服店系」、西部、阪神、阪急、近鉄、名鉄などはもちろん「私鉄系」です。松坂屋の創業の起源は、いとう呉服店として商売を始めた江戸時代初め1611年、同じく江戸時代に越後屋として創業した三越と並びデパート業界では老舗中の老舗で、歴史と格式は「私鉄系」のデパートの比ではありません。
松坂屋の前身「いとう呉服店」が名古屋の栄に百貨店として進出したのは明治43年で、現在の建物は大正14年に移転新築されたものですが、戦災で骨格を残して全焼したためほとんど当時の面影をとどめていません。
設計は名古屋の近代建築の父と言っても過言ではない、まいどおなじみの鈴木禎次で、東京、大阪の松坂屋も手がけています。
現在の建物は戦災で全焼後何度も増改築されていて、とても大正時代に建てられたものには見えませんが、その当時の写真を見ると、角を1階分高くして塔屋風にし、アーチ窓を設けた近世ルネッサンス様式の建物になっています。
もちろん店内も最新の内装が施されていますが、創業当初のままの階段室と踊り場は一見の価値ありで、豪華な大理石でつくられた壁や柱(アンモナイトなどの化石入り)、親柱の装飾など見所いっぱいです。(店内は撮影できませんので実際に見に行くことをおすすめします)
最近はデパートも売り上げ不振が続き、店舗の統廃合などが進んでいます。全国各地にはまだ戦前の古いデパート建築が現存していますが、最近も阪急百貨店梅田本店(S4)の建て替えや、横浜松坂屋(T10)の取り壊しが進んでいます。
常に街の賑わいの中心でシンボル的存在だった戦前のデパート建築が無くなって行くのは寂しい限りですが、戦前のデパートとしては名古屋地区で唯一の松坂屋名古屋本店、これからも現役で末永くがんばって欲しいものです。
■松坂屋名古屋本店/名古屋市中区栄3丁目16-1
竣工:大正14年(1925)
設計:鈴木禎次
施工:竹中工務店
構造:SRC7階、地下2階
撮影:2010/3/14
〈参考〉
わが街ビルヂング物語/瀬口哲夫
サライ 1992/6/18号
■竣工当時は6階建て(現在は11階)で写真中央の建物の角が塔屋風に上へ突き出ていました
■開業当時の姿を伝える絵はがき