思惟石

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『千の輝く太陽』アフガニスタンを知ろう!

2021-05-11 16:56:24 | 日記
カーレド・ホッセイニ『千の輝く太陽』(土屋政雄 訳)。
1960年代から2000年代にかけてアフガニスタンの
実情を描いた物語。

2007年にアメリカで刊行された小説ですが、
作者はアフガニスタン生まれの人です。


1959年に私生児として生まれたマリアムと、
1979年に首都で生まれたライラ。
この二人の女性が主人公。

二人の成長を軸に、アフガニスタンの内情を
乾いた筆致で淡々と描いていく。

ソ連の介入と長い内戦を経てタリバン政権へ。
突然の共産主義からイスラム原理主義への強引な回帰。
とにかく国民が振り回され破壊され奪われる数十年が続く。

読んでいてビックリするのが
「1998年」とか「2000年」という言葉の後に
「女は家から出ないことを強制される」とか
「女に教育はいらない」「病院も女は別(器具も薬もない!)」と続くこと。

嘘でしょ?
21世紀だよ?
200年ほど年号を間違ってないか?マジか?マジなのね!!

衝撃だった。
無知ですみません。

マリアムもライラも頭は悪くないし、好奇心や学習意欲はある。
私以上にあるんじゃなかろうか。

それでも教育は奪われるし、
14歳15歳で望まない結婚させられるし、
文字通り家に閉じ込められる。
逃げることは許されない。

私がアフガンに生まれたとして、
その泥沼から抜けられる自信はゼロだ。
絶望する。
(私はライラと同年代の1981年生まれ)

ふたりのオットであり、
読者(私)に「さっさと死なないかなこいつ」と思われている
ラシードも、漫画に出てくる性根からの残虐野郎というわけではない。
なんなら良きオット良き父になれそうな可能性を持った人間だ。多分。

こういう平凡な男が、歳を追うにつれて
家庭内で高圧的になっていく社会システムなんだろうなあというのも、
絶望する。

文章表現としては、ネチっこさもなく読みやすい表現で、
悲惨な描写は多くない
(そういうディテールを変質的に描く作家って多いよね、どうかと思う)
ので、多くの人が読むと良いと思う。
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レイチェル・ウェルズ『通い猫アルフィーの奇跡』猫小説1位!

2021-05-07 15:00:51 | 日記
レイチェル・ウェルズ『通い猫アルフィーの奇跡』
「猫小説」というジャンルがあるなら、優勝です。
おめでとう!!!
(勝手に祝ってます)

家猫アルフィーが、飼い主の老婦人を亡くすところから始まります。
犬派の娘夫婦に保護施設に入れられそうになったところを
逃げ出して野良生活の末、エドガー・ロードに落ち着いたものの…
というお話し。

唯一の飼い主喪失と野良生活の経験から、
アルフィーは複数の家を渡り歩く「通い猫」になることを決意。
賢い〜。

余談ですけど、実家の猫は一応我が家の「飼い猫」でしたけど
2軒ほど「餌用別宅」を持ってました。
餌をくれそうな家って、わかるんですかね。

で、アルフィー@エドガー・ロード。
離婚ほやほやだめんずのヘレン宅を起点に
シンガポールから失業&帰国した43歳独身ジョナサン、
平和だけど外国暮らしで不安も多いポーランド人一家、
奥さんが産後鬱真っ只中の若夫婦&赤ちゃん一家を
せっせと通って、せっせと可愛がられて、せっせと癒します。

日常でのんびり読む小説として、すごく楽しい。
ネットで猫の写真をひたすら眺めるより楽しいかもしれません。

猫のもふもふも膝のりもデレもたっぷりあるし、
アルフィーの通い先の人間たちが抱えている諸問題は
良い感じにハラハラさせてくれて、
一気に読めます。
一気に読んだな。

ここ最近のミステリやサスペンスが霞んでどこかに消えるくらい、
圧倒的「一気読み」だったな!

「猫小説」としては『夏の扉』とこの「アルフィー」シリーズで決定!
『ジェニイ』は2軍!
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『夜毎に石の橋の下で』プラハ版遠野物語みたいだ

2021-05-06 10:59:44 | 日記
レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』。
垂野創一郎 訳。

16世紀のプラハが舞台。
幻想的で伝承物語のような連作短編集ですが、
すべての話が
「皇帝ルドルフ2世」
「ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスル」
に何らかの形で関わる物語になっています。

ルドルフ2世は画家アルチンボルドによる
野菜で構成された肖像画が有名な、
美術大好きクレイジー皇帝ですね。
ドイツの、ノイシュバンシュタイン城で有名な
ルートヴィッヒ2世(19世紀のバイエルン王)と混同しがちですが、
ルドルフ2世は16世紀ハプスブルク家の生まれで
神聖ローマ皇帝兼ローマ・ハンガリー・ボヘミア王。
肩書きがたくさんありますが、現チェコの首都でもある
プラハでひきこもり生活をしていました。
まあ、若干、キャラかぶってますけど。

『夜毎に石の橋の下で』は、
ルドルフ2世とマイスルの妻との「純愛」がこの小説最大の創作で
他は実際の伝承や史実がたっぷりの連作短編。
プラハ版遠野物語っぽい感じもある。
佐藤亜紀の空気も感じる。

冒頭の一章は、ユダヤ人街でこどもばかりがペストにかかるお話し。
その厄災は街に住む罪人の咎が原因で、という伝説は、
実際にユダヤ人街に伝わっているそうです。
罪人の部分に、この物語の創作が加わって、
全体のプロットに物語が組み込まれている仕組み。

こんな感じですべての章で語られる小話に
史実や民間伝承がふんだんに盛り込まれつつ、
大きな物語(プロット)が最終的に繋がる構成。

めちゃくちゃ面白い。
章ごとにプラハ民話っぽく読んでも楽しいし、
全体の構成を俯瞰してから各章を読み直してもいい。
最後にラビが自ら花を手折るのもいい。

作者のレオ・ペルッツは19世紀プラハ生まれのユダヤ系の人。
刊行が意外と古かったけど(1953年)、
新鮮な驚きと歓びのある傑作です。
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