思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『そして、バトンは渡された』 さすがの一言

2024-11-20 14:36:38 | 日記
『そして、バトンは渡された』
瀬尾まいこ

2019年の本屋大賞受賞作。
主人公の森宮優子ちゃん17歳は、
父が3人、母が2人いる。
でも「困ったことに、全然不幸ではないのだ」。

むう。
さすがにそれは達観しすぎじゃないか。
17年の人生でもっと思うところはあるだろ。
と、前半はちょっと構えてしまった。

メインストーリーは高校3年の1年間。
節目には色々と大小の悩みがあり
(そういう年頃だ)、
その節目ごとに親が変わった際の
事情や心情を思い出す
(意外と思うところがあった)、
という構成。

読み進めるにつれて、
それぞれの親に、それぞれちゃんと愛されてるんだなあ
ってことが理解できるし
最後には事情も納得できる。

むう。
さすがの瀬尾まいこ氏なのである。
優子ちゃん、ちゃんと泣くし、人間関係不器用だけど、
達観とはまた違った心構えを
自分の中に育めているのだろうな、と。

さすがの一言である。
何様、みたいな感想で恐縮である。
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『王妃の離婚』 中世フランスの離婚のしかた

2024-11-19 16:29:45 | 日記
『王妃の離婚』佐藤賢一

私のなかで佐藤賢一氏といえば
講談社現代新書のフランス王朝史。

カペー朝の個人商店奮闘記から、
大企業ブランディングのブルボン朝まで
読みやすい文章でわかりやすく楽しませてくれた
有難いお人である。

そんな佐藤氏、本職は小説家である。
え?そうなの?
すっかり新書の中世フランス担当だと思ってたよ!
(集英社新書『英仏100年戦争』も積読中だ)

では、日頃の感謝(?)を込めて、
小説も読んでおきましょう。

というわけで第121回直木賞受賞作です。

舞台はおなじみ中世フランス(1500年頃)。
ルイ12世が即位直後、王妃に離婚を求める裁判劇。
主人公の田舎弁護士フランソワは、
若かりし頃にカルチェ・ラタンで名を馳せた俊才。
ルイ12世の王妃の父でもあるルイ11世(暴君)の時代に、
鋭すぎる舌鋒のおかげでパリにいられなくなった人。

当時のカトリックにおける結婚やら離婚
(は認められていないので結婚の無効を証明する)やら
「だって聖書ではこう言ってたもん」
「それって解釈違うもん」
「もういい、身体検査(下半身)する!」
みたいな口論を堅苦しい言葉とラテン語を駆使して行います。
勉強になる…、いや、普遍史でもつくってろ、と思う。

とはいえ実はこの離婚騒動がフランス国土問題に
繋がっていたり、
ヴァチカンとの緊張関係が影響したり、
歴史背景込みでだいぶ面白い状態なのです。

一方的に離婚を要求される王妃にとっては
災難でしかないけど。

ルイ12世は、ヴァロワ朝史のなかでは
「優等生」と佐藤氏に評されていますが、
小説の中では優柔不断で責任感ゼロの
「これが国王で大丈夫?」状態。

これならこういう裁判騒動もありそうだなあ、
という絶妙な味付けも良い感じ。

歴史新書も良いけど、
こういう人間物語になっていると
当時の風俗や人間模様の解像度が上がっていいですね。
おもしろかった。
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『0番目の患者 逆説の医学史』 病人がいなきゃ医学はない

2024-11-15 15:38:08 | 日記
『0番目の患者 逆説の医学史』
リュック・ペリノ
広野和美:訳 金丸啓子:訳

感染症学では、集団内で初めて特定の感染症に罹ったと
見なされる患者のことを
「インデックス・ケース」または
「ゼロ号患者(ペイシエント・ゼロ)」
と呼ぶそうです。

作者は、疫学で学位をとった医者であり作家。
「ゼロ号患者」という存在をすべての医学分野において
意図的に拡大解釈して、様々な症例を取り上げた一冊。

学術に於いては医者が全面に立っているけれど、
「病気を感じる人がいるから医学があるわけで」
というジョルジュ・カンギレム(フランスの哲学者・医者)
の言葉を引っ張ってきつつ、
医学史を見る逆説的な視点を提示してくれる一冊。

あら、これ面白いわ。

狂犬病ワクチン(パスツール)やジェンナーの種痘などは
有名どころだし、知識として知ってますけど、
というネタもあるのですが。
いや、そもそも、その接種者の話しは初耳だわ。
ましてや彼らの事情やその後なんか想像したこともなかったわ。
ごめん!
と言いながら興味深く読んでしまった。

目鱗で言ったら「腸チフスのメアリー」も
めちゃくちゃ有名じゃないですか。
でもやっぱりそのディテールは知らなかったな。
住み込み家政婦の「料理人」として渡り歩いたからこそ
感染拡大を助長していたとかね。
死後も内臓で発見された腸チフス菌が数日生き続けたそうで
よっぼど強靭な菌培養をしていたのだろうな、と。

他にも全身麻酔を発見したのは、
笑気ガスを使った見世物興行に行った抜歯師だったとか
おもしろいですね。

ジェンダー問題やアルツハイマー、海馬の研究など
笑えない話しも多々あるけれど、
それはそれでとても勉強になる。

それぞれのテーマがコンパクトにまとめられているので
ちょこちょこっと読みやすい構成。
良い本!
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『海の帝国: アジアをどう考えるか』

2024-11-14 20:39:20 | 日記
『海の帝国: アジアをどう考えるか』白石隆

植民地時代から現代にかけての
東南アジア事情を書いた一冊。

ラッフルズという人物から始まるのがいいですね。
父親がイギリス系の商人(?)で、
ジャマイカ沖の船上で産まれたと言われる人物。
なので、イギリスの東インド会社社員として
植民地執政官を務めていた人物ですが、
イギリスで暮らしたことはあるのかな?というくらい
東南アジアの人でもある。
シンガポールを「建設」したと言われており、
有名なラッフルズホテルの縁の人。

のっけから面白い人を出すなあ、と。

当時の植民地運営に関しては、
たくましい中国系商人の協力が必要だったそうで。
いわゆる華僑ですね。
他にも苦力(クーリー)として出稼ぎに来たまま定着し、
多言語を操るため重宝される人々も多かった模様。

東南アジアの島々は、
イギリス、オランダ、フランスなどが
奪い合ったり利権をせめぎ合ったりして
植民地化が進む一方、
東アジア、中国と日本のことですが、
どちらも閉じる政策によって
植民地化を奇しくも避けていたとのこと。

とはいえアヘン戦争や黒船襲来で扉がこじ開けられたあとの
挙動や行く末は周知の通りだけれど、かなり異なる方向。

東南アジアから世界を見る視点は新鮮で、
なるほどなあ、と思う一冊。
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『名画の中で働く人々』

2024-11-13 12:57:39 | 日記
『名画の中で働く人々』中野京子

副題は、「仕事」で学ぶ西洋史。
西洋絵画の中の働きっぷりを見ながら
中野さんが当時の社会や歴史背景を説明してくれる
とっても読みやすい一冊です。

闘牛士、侍女、香具師、宮廷音楽家、羊飼い…
いろんな職業・お仕事があるなあ〜、と。

ちなみに羊は犬に次ぐ人類最古の家畜。
古代メソポタミアでも飼われているし、ギリシャ神話でもおなじみ。
意外だったのは、日本だと歴史的に馴染みがなく、
飼育に成功するのは明治期以降だということ。
よく十二支に入れたな。

印象的なのは、女性科学者。いわゆるリケジョ。
具体例がローマ帝国時代のアレクサンドリアに生きた
女性数学者・天文学者のヒュパティア。
ちょうどキリスト教が国教になって調子に乗った時代で
ローマ古来の多神教を禁じた時代。
改修しなかったヒュパティアは415年にキリスト教過激派に
殺されてしまいます。
ほんとキリスト教過激派エピソードは気分悪いのが多いな。
永遠に普遍史年表の計算して
「あれ?終末ってもう過ぎてる〜」とか
「中国史がノアより古くて矛盾!つらい!」とか言ってれば良いのに。

あと興味深かったのは「傭兵」のエピソード。
世界最古の職業が、男なら傭兵、女なら娼婦、と言われる。
ヨーロッパでは農業も産業も未発達で貧しいスイスからの
出稼ぎ傭兵が多かったそうで。
15世紀以降では「金のないところスイス兵なし」と。
で、様々な国から様々な貨幣を持ち帰ることで
スイスでは両替業・銀行業が発達したとのこと。
おお、そうなんだ!勉強になる!
そして今では永世中立国である。

歴史っておもしろいな。
中野先生の語りがおもしろいのかもしれないが。
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