香月さん(仮称)の命の輝きは、今、消えようとしているのか…。
いえ。
今もしっかりと輝いています。
香月さんのお母さんは、もう、ずいぶんと長い間、自分よりも先立ってしまう息子さんのことを思い、心を痛めてこられました。
その香月さんは、先日、ご自分の意思で鎮静することを選ばれました。
親よりも子どもが先立つことの、親の心の痛み。
想像はできても、おそらく、その想像はとてもとても、ご両親の思いには及ばないくらいの…、そんな痛みをご両親は感じておられるのだと思っています。
今日は、日勤が忙しくて、日中に香月さんのお部屋にうかがうことができなかったので、勤務が終わった後、お部屋にうかがいました。
先客は、うちの主任。
香月さんのお母さんがいろいろとお話をしてくださいました。
主任と一緒に、香月さんの体にそっと触れながら、お話を聴きました。
香月さんとの思い出話。
ひとつ、
ふたつ、
みっつ、
よっつ、
いつつ、
むっつ、
ななつ、
やっつ…。
あふれるように出てくる思い出話。
あはは…。
心の底から、笑いながらお母さんのお話を聴いていました。
香月さんは、フェノバールを使って、眠られています。
以前と変わらない「おかん節」が炸裂していましたが、香月さんはフェノバールのおかげでしっかりと眠っておられるために、反応はありません。
お母さんは、香月さんに声をかけます。
「おい。看護師さんが来てくれてんねや、ありがとうくらい、いいやー。」
香月さんの息遣いは、ご自分のペースを保たれています。
香月さんがとてもとてもしんどくて、鎮静を希望されたことはご両親も了解されていたことでした。
いざ、香月さんとお話ができないとなると、体が楽になったことは安堵できることだけれど、やはり…。
さみしいと感じる思いは抑えきれないようでした。
当然のことです。
お母さんのお話を聴きながら、暗黙の了解?で、主任と私は共同作戦…を展開…?
ほんの数日前まで、「トイレには自分で行かなきゃ」と思っていた香月さんはずっとリハビリを受けておられました。
うわごとのように「ストレッチをしてください」とおっしゃってました。
鎮静をされても、ストレッチは続けていました。
主任と私は、香月さんの体の左側の腕→左側の足→右側の足→右側の腕の順で、
主任はストレッチ、私は爪切り(爪がのびていたのでねー)、という感じで、ベッドの足元を、主任と二人で半周しました。
いろいろな話をしながらの、この時間。
お母さんは思い出話をしながら、このところ、息遣いが弱くなった香月さんの様子が、夜は特にわかりにくいと話されました。
そうそう。お話ができていた時には、お母さんは香月さんの息遣いに耳を傾けながら、香月さんが眠れているのか、しんどいのか、ってなことを感じ取られていましたっけ…。
鎮静をして眠っている香月さんの息遣いは、以前に比べるととても弱弱しくなっています。
そこで。
お母さんが寝ているソファベッドのそばまで、香月さんが横たわっているベッドをずずずずずzzzzz…と移動させて。
ベッドの高さを、お母さんが横たわっているソファベッドの高さに合わせて…。
きっと、お母さんの安心は、香月さんの安心…。
残り少ない大切な夜を、少しであっても無駄にするわけにはいかんわなぁ。
大切な時間は、大切にしないといけないときに存在感をより、いっそう増します。
命が終わるときには、大切な時間は、よりいっそう、大切にしないといけないものとなります。
この時間の流れには、医療・看護・患者さんとご家族との時間などなど、日々、ご本人を中心としたいろいろな時間が流れます。
私たちも、ご家族と同じようにこの緩和ケア病棟に入院された期間の思い出はたくさんあります。
香月さんから教えていただいたこともたくさんありました。
私たちも、香月さんを失うのはつらい。
香月さんのお母さんが悲しむ姿をもるのはつらい…。
でも、
その時々の時間が与えられた意味を、少し立ち止まって考えることができるなら、きっと。
ご家族は、いつか、過去の日々を思い出しても、激痛だけが残ることだけは避けられるのではないか…。
いや、そうであってほしい…。
だから、患者さん・家族さんとの時間は、どの場面をとってみても、大切にしなきゃなんないんですね…。
与えてもらっている時間と、自然に思えることができればいいですね…。
何が言いたいってね。
私は、香月さんとそのご家族と、今の時間を持たせていただいていること自体に、感謝したいんです。
香月さんは、次の日に亡くなられました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます