「息子に会いたいなぁ…。」
桜井さん(仮名)は、折に触れてそうおっしゃっていました。
実は、桜井さん。
家族関係がすこぶる、複雑。複雑とは奥歯に物が挟まったような言い方ですが、単刀直入にいうと、家族関係が「悪い」。
家族関係が悪いこと自体は、別に珍しいことではありません。
よくあることです。
医療者は、患者さんと過ごす時間が長いことと、自分たちの業務の負担軽減の目的もあって、ご家族の面会を期待して、面会に来ないご家族をネガティブに捉えがちです。
「もっと、面会に来てください」なーんて、患者さんのことを思ってご家族に発信するメッセージは、実はご家族にとって、とてつもなく大きな負担であり、ご家族が負担感を増してしてしまって、さらに面会に来ることができなくなるという悪循環を起こします。
桜井さんも、患者さんの側に立てば、ご家族に面会に来てもらいたい、そう思ってしまう状態でした。
もう、残りの時間は長くはないだろうな…、そう思っていたので、ことさら、ご家族に対して「可能なら、面会に来てもらいたい」と思う、そんな状態でした。
全く面会に来ていただけないご家族の、本当の思いはどこにあるのだろう?
ご家族に電話を何度も致しましたが、まったくとってもらえず…。
時には、「あ、●●病院だ」なーんて声が聞こえた後、電話がぶちっっと切れることもありました。
ご家族の、桜井さんに対するネガティブな思いはよくわかっていましたが、ご家族はいったい、どういうお気持ちなのだろう?そう思って、お手紙を出しました。
主旨は、桜井さんのために面会に来ていただきたい、というものでしたが、ご家族の負担にも配慮して書いたつもりでした。
そしたら。
案の定。
ご家族からは怒りのお電話がありました。
1時間近く(しかも…、不意の電話でした…想定内とはいえ、業務を行うには痛い所要時間でした…)
ポンは、ご家族の怒りを受け止めるしかありませんでした。
そして、ご家族の今の思いを知りたかったので、ずーっと話を聴きました。
実は、私たちは、ご家族に面会に来てもらいたいと腹の底から思っているわけではありませんでした。
面会に来たくないということは、重々わかっていましたが、いったい、どんな思いでご家族が面会に来たくないと思っていらっしゃるのかを知りたかったので、手紙を出したといっても過言ではありません。
もちろん、あわよくば、 面会に来てもらえるかも?という期待も若干、ありましたが、そんなに期待はしていませんでした。
ご家族の話を電話で伺って以降、ご家族に面会に来てもらうという期待は、捨てました。
もしかしたら、ひょこっと面会に来てもらえるかもという期待は捨ててはいませんでしたが、期待しないようにしました。
家族関係の複雑さには、患者さんを取り巻く周りの家族の方々だけに問題があることはまれだと思います。
患者さんにも、お元気だったころの関係やふるまいに、家族関係の複雑さを喚起するような側面があるものだと認識しております。
桜井さんは、ポンが接している限りの中でも、きっと、難しいところがあったのだろうな、と想像が容易かったお方でした。
しかーし。
私たち医療者が、ご家族と同じスタンスでは、もうすぐこの世とお別れをしようとなさっている方へのお手伝いはできない。
そう思いまして、せめて、私たちスタッフとの絆を…、ご本人が思うようなご家族のとの絆を深めることは無理だとしても…、せめて、この病院という環境の中で、安心できる関係を作りたいと思いました。
桜井さんのご家族との絆の希薄さからくるつらさを少しでも和らげるには、それしかないと思いました。
ああ。この時間は大切にしないと!
そう思った時間を、桜井さんと持つことができました。
詳しくは、次回の更新の時に。
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