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戸田さん(仮称)との緩和ケア病棟でのお付き合いは、ほんの数日でした。
戸田さんは自ら、緩和ケア病棟に行きたい、緩和ケア病棟を一度、見てみたいと希望され、一般病棟の師長とともに車椅子で見学に来てくれました。
戸田さんが緩和ケア病棟に行きたいと希望されていた一番の理由は、「ゆっくりしたい」でした。
戸田さんはコーヒーとたばこが大好きな方で、一般病棟では思うように、その「お楽しみ」を味わえないと感じ、ゆっくりしたいと希望されたのでした。
見学に来られたとき、私はたまたま戸田さんの見学にお付き合いさせていただきました。
緩和ケア病棟には病棟内に喫煙室があります。
そこで、戸田さんにタバコを吸っていただきました。
毎日、体はだるく、やせ細って、顔色も悪い戸田さんでしたが、ゆっくりと、ゆっくりと、大好きなタバコを味わっておられました。
そこで、私としてましては、せっかく見学に来ていただいたので、コーヒーを召し上がって帰っていただくことにしました。
戸田さんにはコーヒーのこだわりがあって、インスタントコーヒーや缶コーヒーよりも、ドリップして入れたコーヒーを好まれるとのこと…。
一瞬、簡単に入れられるインスタントコーヒーにしようかしら?なんて気持ちが掠めましたが、ドリップでコーヒーを入れることにしました。
といっても、私はコーヒーを飲みませんから、どうやってドリップしてコーヒーを入れたらいいのかわからず…。
あいにく、その日はコーヒーを飲まないスタッフばかりで、ようやく入れ方を教えてもらったのは心理士さんでした。
さて。
出来上がったコーヒーをお出ししてっと…。
戸田さん…。
熱いコーヒーを一気に飲まれました。
猫舌な私は、「熱くないですか?火傷しませんか?」と声をかけましたが、戸田さんはほぼ、一気飲みに近い早さでコーヒーを飲まれました。
飲み干した戸田さんは、本当に幸せそうな顔で、「美味しかった…。」と微笑まれました。
その笑顔をみれて、私もとてもとても幸せでした。
この場面にいさせていただいて思いました、ああ、見学に来てもらえてよかった…、と。言葉で表すととても平坦になりますが、なんともいえない一瞬でした。
そのとき、ふと思いました。
大好きなドリップのコーヒーを飲めたことで、戸田さんは喜んでいました。
私もなんともいえない喜びを感じました。
その瞬間、その場に居合わせることができたことで、戸田さんの幸せそうな顔をみれたことで、私自身が癒されているのだな、と。
たった一杯のコーヒーですが、そのコーヒーを飲んでいただく文脈を整えることは、看護師にとっての大きな役割です。
看護師は、日常生活の支援のエキスパートと呼ばれています。
コーヒーを飲むということは、なんでもない日常の一場面ではあるのですが、その日常をいかに大切にするか、という視点は、終末期の患者さんのケアにあたるときこそ、より一層心に刻んでおかないといけないと感じました。
緩和ケア病棟に移ってきた戸田さんは、病状の変化のために、緩和ケア病棟では思う存分、コーヒーを飲むことができませんでした。
けれど、ご家族は、病棟に見学に来た時に、コーヒーが飲めたと嬉しそうにされていた戸田さんをみていらしたので、最後まで、それを喜んでおられました。
ほんの少しのお付き合いでしたが、戸田さんには大きなものをいただきました。
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