早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十二年五月 第二十三巻五号 近詠 

2022-01-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年五月 第二十三巻五号 近詠 

   近詠
   祝「神風」機東京倫敦間世界記録飛行成功
神風機ありがたう春の大空よ

花の晴れ日本空を拓きたり

飯沼塚越やつたり男の子風光る

ともしびを迫めて漏らさじ眞夜の花

花の奥畑打つ平へ出たりけり

陽炎の暑くなりけり蒟蒻屋

春の日は鶯と河鹿がつゞけ鳴く

筍を食べつ御室の花をいふ

おぼろ夜の道頓堀は此處港

春霖をほそぼそ寒し葱坊主

花もたで海棠雨の茂りかな

樹々と並みそよぐ華表の春涼し

名に買ふて姫石楠を掌のうへに

垣すそを覗く小猫の器量よさ

花すぎぬ白魚すでに魚かな

桟庭や蘩蔞も咲かせ箱の土

クローバの風筋ふみつ丘となり

  四ツ橋天象館
擬天いま南極の星うらゝ夢

春時雨野鵐が田にも廂にも       鵐 巫鳥 しとど 

著莪咲きぬ何時の吉野でほりしもの

春の人來て詩仙堂の添水描く

紫羅傘の咲きあがりくる春暑き

ゆく春はさめゆくこゝろ雲にあり

   日本精神宣揚
耕すやかくろのくれも祖の上

しみしみと櫻におもふ我國ゆ

花吹雪日本人の眼見よ

春籟や倭島根に水僉る

  手足荒るゝ
手の荒れに備へて厨に瓶のもの

占いにさし出す手のいと荒れて

  息白し
息白くみちの乙女のすこやかに

  烏瓜
烏瓜蔓にも葉にも染め來り

烏瓜野はひねもすの雨の色


  新樹
新樹なか登ればいつか山の上

空低くひとつ燈りて新樹かな

  緑雨
夕風は緑雨を樹々に収めけり

  緑陰
緑陰にあせぼの花もすみし哉

  
  月ヶ瀬・上野・名張
   月ヶ瀬 
このみちや梅になりゆく桑の中

梅に往く徑のぬかるみ踏みつけて

日の風のさやともすれば梅曇り

梅の山女に杖を買い與ふ

梅の空雲に日南の見ゆるかな

梅の山梅の戸口に少女かな

見はらしへ出て梅寒くなりにけり

梅の水眞一直來て我脚下

梅盛り景色の床机隙もなく

水の音梅に會遊のよみがへる

梅匂ふ空に粉蟲のうらうらと

梅の水濁るゝ昨の雨をいふ

梅の島紅梅に入りまぎれけり

  鳳子君に逢ふ
梅の中待ちあぐみ句を作りゐし

梅の道また二途あれば高き採る

五月川出水に鳴りて梅の下

梅渓に橋の近代否みたき

對山や梅に青きに家段々

梅林に音は巌より滴れる

湍ほとり梅にかこまれ芝生あり

梅うらゝ男等がする野の煮焚

春の草に煮焚の汁をこぼしつゝ

梅苗にこぼれ咲くあり日の慈々と

戻りには下道とつて春落葉

梅の空山の鳥が大羽とぶ

瀧春や杉にあらはれ藪に消ゆ

  上野
  愛染院
塚のまへをきなの國の春の土

故郷塚草の二葉に目のしたし

  河合又五郎の墓
討たれたる者は淋しや椿花

  みのむし庵
春閑に池も障子も夕ぐれて

草萌えのそここゝあれば傘作る

  上野城
城の空見上げてめぐる春の暮

  鍵屋の辻
春田中ある一みちも由緒かな

春霞鍵屋が空の航空路

伊賀の春くれなづみつゝ四圍の山

  名張
春宵の句座に遅参の詫びにけり

  名張句座
春の水脈々としてはるかなり

春水の底遡るものゝあり

春の水山は櫟の嵐して

  早春社同人大會 三月二十一日 茶臼山 雲水寺
南へ天王寺へ春日あびてゆく

來る雲を頭すごさせ麗かに

枯れの枝ゆれゆれ彼岸あたゝかく

  早春社四月本句會
枯れたるは音をかすかに春最中

桔梗の芽むらさき土にまぎれずも

夕やけを空にふくるゝ葡萄の芽

  早春社無月會正月例會
北風の魚棚吹いて鯛ひらめ

寒の空いづこか鍛冶の音のして