早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年二月 第二十五巻二号 近詠 俳句

2022-01-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年二月 第二十五巻二号 近詠 俳句

    近詠
大寒を軍事郵便みな句あり

降るほどに時雨明るし向つ山

籠の鶸貧食しては北風に怖づ

大霜の軌條復々するところ

冬眠の眼はものを視て河鹿かな

女正月みなが舊師に甘へつゝ

凧の下林檣或は移るあり

山茶花に莟盡きざりお正月

初天神正月のなほ街にあり

地震のあと叉と疑ひ日なたぼこ

冬日南もたいなけれど尿をする

知らぬ町あるきながらや寒ぬくし

寒の水龍の口より練り落つる

寒の燈は道に置かれてありしかな

鶺鴒の飛ぶが二方へ寒景色

窓は川朝が來てゐて霙降る

先祖代々の足袋もあるらしぼての中   ぼて=棒手葛籠

短日や家の底から船ひゞく

雪曇り空の鷗と水擦ると

寒土用水を動かし魚動く

春近き入日とおもふ帆澤山

   闇汁句座 年中行事の闇汁會
        會後早春社製作の俳句映畫「句人往來」その他を観賞、散会。
猫車はじく實枯れが顔に來て

藤豆の枯れ枯れ曇りはなれずに

   春堤
春堤や家の脚には別の水

春堤にうかと登って風強し

  早春社一月本句會
東風渡りければ橘かゞやかに

面あげて橘のあり初日南

橘のあるを句想に空青き

  城のある風景
いかのぼり城ありて街のたゝずまひ

城あとや落葉いつしか湖の岬

  晴明會
冬の音やめて出て來し樵夫かな

冬の音谺はさらに夕せまる



宋斤の俳句「早春」昭和十三年一月 第二十五巻一号 近詠 俳句

2022-01-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年一月 第二十五巻一号 近詠 俳句

   皇紀二千五百九十八年 元旦

   近詠
大旦をたゞに東方拜しけり

元旦や海のしたしさふかぶかと

渡舟守の寒しといふも淑気かな

初雲の一如としろし海

元旦の夕かげそみぬ蔵の壁

たちまちに火も咲いてけり初竃

一丘にまつわる種神初日南

かれ草の齋しうぬくし初かど出

野に袴脱いで年酒の酔発す

弾初めを旅にきゝゐる茶垣かな
 
銃後我れ老兵の我れ水涕

暖爐燃ゆ戦死の友の弟と

雲に仰ぎたつきの師走家を出づ

雪降るとて軍事郵便ありにけり

巫女呼ばれゐて山茶花を戻るかな

風の窓川を見なれてのつぺ汁

鶸の嘴籠にて見れば冬日透く

船さまざま拾ひや舟にいま

(桟上)よき日南座席の膝に空をゆく

飛機着水冬日の波を穿きし哉


   早春社本句會納會  兼題「冬の天文と気象」
町の燈に入りて霰を踏みにけり

初霜のしるく井の縁ぬりしかな