早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十二年十一月 第二十四巻五号 近詠 俳句

2022-01-11 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年十一月 第二十四巻五号 近詠 俳句


    近詠
    石機清水八幡宮
男山のぼりて澄むや神の前

秋の雲いみしく白しいくさ神の

この神と祈り身に入む銃後かな明かり

    伏見稲荷神社
参道の知らず空なる渡どり

    桃山御殿
秋はれを心いましめ廣き踏む


野のいろの燈のひとつなく暮るゝかな

出来稲を村人旅人にぎはしく

稲原をあそぶかに汽車のくねりゆく

有りやうもなきに疊に菱一つ

秋日南のこのごろに籠の羽ぬけ鷽

夕顔の實のすこやかさ秋ふかし
 
さわやかや草の中にて木の低く

一二軒窓寄せ棲めり末枯れに

あさましく動く手のあり菊人形

霧の奥参差するよりラヂオの言ふ

蟲寒し絶えずも鳴くにまた彼方

繪ごゝろに白紙敷きけり葉つき柿

はこべらの來る冬越すと生えそめし




   夕立
夕立や入江の波に霽れて來る

夕立を透いて水車を水落つる

夕立あと蜻蛉さやと濃き翅に

夕立のあとの涼しさ蜥蜴かな

   
   九月
秋九月空來る蝶や雨の如

散歩して丈草の中九月かな

   夏の時候一切
夏の朝この頃庭に蟲を聴く

頬に近き窓の硝子が明易き

鴛鴦の池溢れさせゐる日の盛り

船同士はなし遠すぎ夏の夜
 
   六橋観座
威銃菊にもどつてたてかくる

鶸むれて山の嵐ののこりけり

朝寝してはたごに仰ぐ鶸の空

稲刈の退く日を遠き壁に見て

日の波を舟していたる菊の宿

   早春社十月本句會
   時局柄創立以来不休開催の露の天神社から早春社に移して開催 兼題「深秋」席題「柳ちる」

ちる柳みな地に歸して一つの燈

柳ちる神戸埠頭の人力車

みち迷ひながらに行くや秋ふかし

   水曜吟座
のびのびと霧ながしたる糸瓜哉

   無門會例會
龍膽に照り雨しては止みなかり

秋の雲渡舟渡つてふえにけり

   戦時俳句提唱
端居にも語らば擧國一致かな

銃後それよ征きて君見よ星の人 

行け男の子冬麗の旦にぞ



船同士はなし遠すぎ夏の夜




宋斤の俳句「早春」昭和十二年十月 第二十四巻四号 近詠 俳句

2022-01-11 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年十月 第二十四巻四号 近詠 俳句

   近詠
   支那事變戦報映画を見る
敵前のその眼差しよ野分して

秋出水川こそ道を進軍す

必勝にかゞやく面秋の天

飛機が往く戦車が進む秋高し

たのもしの巨砲身に入む軍艦旗

渡鳥思はざり社後の町つくる

わが心放ちやりゐる花野かな

威し銃肩の筒口ほのけむる

眼薬もたぐひに澄みて秋の水

旅といふほどにも來ねど天の川

高鵙のおのが谺へ飛びしかな

霧の顔拭ふて舟によろとしぬ

蟲さむし對岸ばかりきこゆるや

露の秋石斛に咲く一花あり

   日本精神宣揚
菊讃ふ天子の下の一億人

   
秋雨の紅そむ莖を撫づるかな

   雷 
雷の中雀が二三川低う

雷はれぬ丘の燈ぬぐはれて

   鮎
欄に埀れたる袖や鮎の水

鮎の眼の翠微うつさず山雨かな

鮎船の編笠を先づ冠りけり

  子規忌 物故早春社友第十二回追悼會  曽根萩の寺
秋雲追ひ重りて失せにけり

舊交子規忌年々萩年々