早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十二年十二月 第二十四巻六号 近詠 俳句

2022-01-12 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年十二月 第二十四巻六号 近詠 俳句

      近詠
雪すでに彼地の夜は劔影に

軍事郵便確と拝讀霜夜かな

てくさりの茂りに冬のきはまりぬ

時雨るゝに大きく投つて棉荷役

水擌に阿房な雀かゝりけり

闇冱えて水族館の鯛の眼は

無木打お宮の苔に叱られぬ

母里へ七五三祝ひ往く汽車の中

水涸れに溫泉宿兩岸ものを干す

東大寺の棟を鶺鴒池へ擲つ

古き被風いかゞはあれど水仕着に

凩のある時ちらす泉かな

腰障子裡にかすかを烏府の音

冬凪に街ゆく俥めづらしく

初霜を材木襖匂ふかな

闇わたる枯木の枝ののぼのびと

冬木宮ぬけてきたりて燈の卑し

老ありて支那水仙と日南待つ

豫約本暖爐の前に届きあり

冬ひと日窓をあけては川を見る

蔵ばかりの河岸にも船も炭荷時

道頓堀なかなか波に冬ざれて

   日本精神宣揚
神の燈に秋収めたる家ぬち哉

   天牛
天牛の露に溺るゝほど小さき

   秋の蛾
湯の窓やべたりと秋の蛾の夜更け

   目白
障子の日照り曇りして目白籠

白き干しひろげば目白ひらめきぬ

知恩院のお茶所に目白聴いてゐる

   秋光
秋光やかれて土戀ふ蔓のある

村の景色秋光の見梯子かな

秋光や石伐り出して石匂ふ

   早春社十一月本句會
野の家の中覗かせず椿の實

朝粥に餅の入りけり冬來る

鳩の脚歩くが楽し冬來る

   青鈴會十月例會
柴栗も露の外なき花野かな

秋の日の鋪道に櫛を蹴りしかな

こすもすに谷いち底の一戸かな

けふひと日神に佛に秋のはれ

よき勞れ櫻落葉にうづくまる

いまの萩何とやと見れば實をたれぬ

   大和三輪吟行
大柳しづとし散るを潜りけり

掛稲に華表や大和一の宮

藤豆に仰ぐも旅のもの好み

冬麗らひろき疊に食後哉

堀の外に秋耕みゆる山畑

遠き野が寝ても見られて日南ぼこ

冬霞寸人みなが野に動く

神泉やおそれごゝろにいと冷めた 

泉汲む我等音のみ冬祉 

山中の狭井に坐す神冬日南

歸り咲くたんぽぽその他日をかろく

みかん山ながらに峠百舌渡る

枯いなごはかなく露にまみれけり

ひつじ田に峡ふくみたる風落ちて

うるしの實咫尺し杖にかけらるゝ


往く寺の堀は稲城の峡高み

門ぬちのすさび冬なれ筧水

大日佛背にもたひなく日南ぼこ

下の家へ案内されゆく山茶花を

座布團に落ちつかづして冬うらゝ

冬日落つ汽車なれば旅の歸りらし