早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年四月 第二十五巻四号 近詠 俳句

2022-01-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年四月 第二十五巻四号 近詠 俳句

    近詠
蝶を想にふと未不見水日南

春愁や書架にもたれて書の凹み

巻藁に立つ矢そくそく風光る

句も蕪村醉餘のもの歟ざれ繪雛

門衛の卓の萬年青に卒業す

   茶臼山一休庵にて
公園の夜を隣りて春の空

紫苑の芽去年の枯莖あるがまゝ

塵はたき芽柳に指し示しけり

風呂いまだ冷めたきタイル春の晝

(宇野)朝宿に著いて欄前春の灣

(玉にて)もの賣れて造船所街春の晝

   両徳丸進水式
頃春や海のかゞやき船の肌

春光や海に生きたる船の大

はる霞華表さまなるマストにて

   玉造造船所内部見学
かげろうのそれも鐵板鐵の山

龍骨を見上げてぞ透く春の空

人無数人と機械と春あつし

春陰をつくりドックの深さ哉

ドック溫む一満頓級容るゝべし

潜水夫頭をぬいで東風涼し

  宇野より高松へ渡海
さくら餅掌に島々よ海鳥よ

海春やお伽の国の鬼ヶ島

  栗林公園
花近き曇りは水に鯉巴

  琴平
春の旅進水式より琴平へ

(綾川)歌枕春日きざみ瀬をはやみ

(琴平)寝るまでと春夜歩きて更け戻る

   日永
山風の檪ばかりに日永かな

日永さの土につたわる音ありて

眼帯で片眼で居れば猶日永

   枯れ山
枯れ山のかさなりあれば霞哉

   早春社三月本句會  兼題「鳥入雲」 席題「流筏」
鳥雲に星のいとなみはじまれり

流筏や霧の杉間の高龍神

   麥存氏歓迎句會
桶の水へ何を冬の燈おろしゐる

冬の燈の机にゆかん心なし

   青鈴會一月例會
書初めの大書干されて欄にあり

初髪の神に詣でゝ明けにけり

初釜そとの野までも明るけれ

   青鈴會二月例會
子供等に夜を去らしむ一の午

早春や一日あそぶ野の小塚

初午や老に娘が最合傘

  京濱早春社二月例會 
    故木村素竹氏戦死追悼句會
月十日汝れいまも在り朧寒む












宋斤の俳句「早春」昭和十三年三月 第二十五巻三号 近詠 俳句

2022-01-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年三月 第二十五巻三号 近詠 俳句

   近詠
水平らけく大いなる春來りけり

金魚溫む二つが三つ居たりけり

病兵に芝若かわかとなりきつる

この春の汐干知らずに蜊汁

またしても窓の句作れ春の宵

紙雛梅活けたれど出して置く

草餅にふるさとを言ふ海彼方

春暁の航空燈を眞東に

  三朝にて
雪の中早春ひゞく三朝川

雪の川きよらかに里人鮎を言ふ

雪を見て温泉に腕革し居る

  出雲大社
御屋根の雪解のしぶき寂かなる

  松江にて
江のかすみ雨降ってゐる庭の松

春暁や舟行と決す雨をいざ

  美保ヶ關にて
東風強し海鳥空にきりかやし


   春の奏鳴曲
    無門會同人有志が梅田映畫劇場へ新任同人星河君への激励に「春の東京リズム」を鑑賞

   プレリュード (開幕を待ちつゝ)
陶壁の吸ふ燈の春の宵

幕間のみつまめなんど春ならぬ

   アンダンテ
春愁をさゝなみと踏むタップ哉

ある時は音秘む踊春の夜を

ライトほのとしタクト急轉春のショウ

   ビバーチェ
日章旗舞臺一面春の踊り

みなが歌ふみなは奏る春の夢

裸男の子燃ゆる火捧げて春たかし

戰捷を火振り春夜を闇を打ち

巌上のしゝむらに炬火冴えかへり

   フィナーレ
少女はも希望にみちて樂濤々

春を泣きぬ必死の樂のひろごりに

陽炎に樂士百人働けず

百人の樂士ひもらや春盡す

  冬至
むかしよりの日本と思ふ冬至哉

としよりの言葉にいふて冬至顔

  寒見舞
寒見舞句作寒行挑みくる

戦地の句みな雪にして寒見舞

寒見舞歸省怠ること書いて

  春宵雪暖かなり
如月や湯にひと日して驛路の句

水音のたち來て雪の暮れるゝかな

欄の外櫻は雪を花芽して

雪の山に溶けてはのぼる溫泉のけむり

雪の酒二盞の掟破りけり

醉ふて廊下に寝しとは雪も春の宵

此の事や春の雪もて頭冷さるゝ

  早春社二月本句會
春朝日土に生れて飛べるもの

春入日しばらく風の藪疊

東風ぬくし朝にパンを割きながら