早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十二年六月 第二十三巻六号 近詠 

2022-01-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年六月 第二十三巻六号 近詠 

   近詠
村々に夜明けし音や五月富士

  多摩御陵にて
五月鯉御陵の空の山こなた

  武州高尾山にて
山亭の桂にうとゝ夏を聴く

松みどり生まれて飛べり山の蝿

山に旅に暮るゝ亂鶯しきりなり

  芝あたご山にて
夜はさすが背の新樹の冷え冷えす

  鶴見 鳩峰居
蘩蔞踏みて東海道の小横入る

夏の夜や浴し歸りて金魚見る

  初臺 凌艸居
茗荷の子庭に大事を朝手水

夏嵐たびたび蝶の垣を來る

  川崎 六花園居
鶏の聲ちらしてきたり大南風

青蘆や外に一軒ポンプ小屋

  金剛山千早城址
(大井)谷平に紫雲英刈る人澄みにけり

菊水の旗を瞼に青あらし

  神戸鳥原 千乗山居
途々のはなし残鶯聴きすてに

夜に吊すランプみせられ山の夏

砂山にすべりながらやセルあつし

夕顔のとまれ白咲く双葉かな

下げ潮を出舟一斉明易き

五月山のぼつて雲のしづかなり

あじさゐに近く昇れる朝日かな

  鈴蘭
鈴蘭に雨空よりぞこまやかに

夜の卓に鈴蘭町を涼しくす

鈴蘭や何處と地に啼く鳥の聲

  櫻鯛
錦繡に水を打つなりさくら鯛

くはえ縄俎上に外すさくら鯛

笹の露をまなこに涼しさくら鯛

  猫柳
猫柳水とゆく道つくるなく

猫柳山を仰げば雲のこる

  南陽園俳句筵 早春社同人大家雁山氏邸の庭園
いくたびを池めぐりたる若葉かな

五月鯉楠の梢にまつはらず

石捲ける根より楓樹を蟻のぼる

   多摩御陵
明るさは欅五月の御陵道みち

ひんがしにお一つの御陵若欅

白き蝶御陵の砂を夏と知る

ぬかづけば地に聞く如し若葉風

御陵前さがり休むに芝の蟻

  高尾山
ケーブル満員初夏行楽の山を指す

高尾名に京を思へば河鹿賣る

高尾山五月の櫻あかきかな

夏山やみやげに賣れる竹の蛇

夏匂ふ小山の杉間磴のぼる

見晴らして又の登りや青嵐

若緑山の鳥も光りけり

夕ぐれや山の寒さに烏の子

山々やとあるいただき日覆見ゆ

我があと茶店仕舞ふや若葉寒

  早春社五月本句會  兼題「五月」席上「青桐」
暁や五月の辻の雨だまり

五月夜を無帽にあるく雨ふれり

青桐に夜明て海と知らざりし

かどかどや青桐柳燈をかくす

  早春社四月例會 兼題「花すぎ」 席上「取木」
見上げては取木の縄のふるび哉

垣内の接木取木とのぞかるゝ

取木して筧の漏れにじみ善し

花すぎの鳥しらじらと寒き哉

  青鈴會四月例會
花の空野に出て星の大いなる

  無月三月例會
たんぽゝをゆるがしてゐる春の蝿

窓の外楚暢びたる白夜かな

  横浜川崎早春社創設記念句會 五月二日 川崎市駅前福町クラブ
鮎の口ほのとくれなゐ結びけり

こぼれては紫さむる桐の花

夏めきて歸鴉に嵐の見ゆるかな

夏めくや傘の下雨を踏む