早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年六月 第二十五巻六号 近詠 俳句

2022-01-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年六月 第二十五巻六号 近詠 俳句


    近詠
山川に大いなる夏定まりし

夏がすみ近畿の山の老いにけり

楠公忌和泉は和田氏ゆかりの地

浪高けれど清朗はさも記念の日

短夜や桐植ゑてより一桐居

ぽっぽ船のひゞき桟庭薔薇の散る

日傘たかくかひなを揚げて惜しみなく

初の葉を三尺芭蕉空たてぬ

濱萬年青の實生と知りし夏日かな

海光の沖一線に雲はじむ

零餘子丈に暢びたちしかば蔓配る

蠟涙の手にこゞりけり瀧の宮

身をまげて浮き堪えてゐる目高あり

撒水車二つが往つて來てはする

蛍売りまことに夏の町更けし

夜濯ぎの星空うつるたのみかな

甲板はや浴衣に港見かへけり

月見草遠くを人の往來へり

夕焼けを川上よりぞ水太き

矢車草蕾ならべてひとつ咲きぬ

船蟲の疊に迷ふゆうゆうと

緑陰や門のほかなる壁切戸

   楠公忌修営吟行
    浄瑠璃寺への参詣
話し立ちこゝらぜんまい若葉かな

睡蓮の眼をうつす塔の岡

   笠置歴史館
山往くや空のうれしく楠若葉

楠公忌笠置しみじみ若葉冷え


   秋時雨
秋時雨草木石よりぬれにけり

水原は秋の時雨の底明かり

   夏の動物
班猫を追ふて石みちまた登り

夕顔の夕を舟蟲來りけり

鶯飼えばこの頃羽ぬけて毱のやう

霽るゝ霧雷鳥そこにあらはれぬ

佛法僧室生の朱橋夜にも赤し


   途麓抄
     少数會合にて、一夕みつちり句作に勉強する催し 会場早春社樓上道場で宋斤指導
旅の子はもみこぼす砂の夜光蟲

夜光蟲渚に蹴れば怒りけり

濱宮の祭近しや夜光蟲

桐一本二階當面夏めきぬ

萍に丘の一燈すべりゐる

初夏に夜に咲く白きあやめかな

夜の泉まぎれなければ汲みにけり

たちよりて暮色をのぞく泉かな

青葉川遡るほど石しげく

夏暁や山にある日の甍にも

葉蘭鳴る間近の音の夏暁哉

ひと溪にみな打つ燈青葉やど