早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年七月 第二十六巻一号 近詠 俳句

2022-01-25 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年七月 第二十六巻一号 近詠 俳句



    近詠
  我庵桟庭の夜明け(十句)
梅雨出水蝙幅朝に歸るかな

短夜は對岸ひたと蔵ばかり

夏旦凡そ葉のもの風を生む

うかうかと夜明けて梅雨のいま降らず

夏夜明け川より音のはじまりぬ

我れ寝ざり金魚時々夜を寝ざり

おくれ咲く熊野躑躅に朝そみぬ

濱木綿の實生も朝の見つけもの

朝になり汗を行水してこまそ

蚊の逃げてくらきへゆくが浮きにけり

梅雨の雲四山のそとにひろがれり

瓶の水目高晒れしと思ふかな

目盛りの草はおのれに音のして

夏の月冩樂の顔の人に逢ふ

汗ぬぐひホテルの森を借りにけり

  住吉御田神事(五句)
お田植えや稚児の見参すでに雨

松もみどりお田植女の肩たすき

霞膳植女や月の十二人

降る雨を植女花笠美目透きて

梅雨荒ぶ風流武者が高足駄

一舟の用意つなげり泉殿

夜々に減る籠の蛍の光りかな

夏山に蝶多きかな露を行く

   花烏賊
厨水の花圃に流れて烏賊の墨

烏賊の墨鯛白魚をよごしけり

   石蕗の花
奥の宮鳥居も石蕗の咲く中に

掃き止めて日坻見るや石蕗の花

   早春社六月本句會
山百合の谷むく蕾さきかけて

山百合の霧にさゆれて目路もなく

ためらへる目高と見しが既になし 

   充爽俳句會創會
若葉野の南あかりに雨あがる

やむ雨と窓に見てゐる若葉かな

庭さまざまひと隅午蒡蕗若葉

母の来て幮なき夜をさびしみぬ

   福井太十氏追悼俳句會
      悼句
思い出をおもへば夢や若葉寒

   六橋觀句抄
梅雨の燈の低く軒燈一様に

提燈を低くずらして梅雨のみち

夏菊のうすくれなゐを雨に咲く

梅雨荒れて夜の煙筒ほのと吐く

船蟲の陸つて來たり梅雨疊

俳安居梅雨百句より志す

   徹宵吟座
    第一句座 「ピアノ」「砲」「拍手」
    ピアノ
瀬は日なり朝をピアノのひゞし

    砲
砲塔に兵等左右して雲の峰

    拍手
樓上に拍手湧くあり瀧は夜に

    第二句座
     「更夜矚目」
人は夜は更くるにまかせ瀧の音

瀧の音一點遠き燈のあきらか


眼つむれば背の柱に瀧通ふ

渓の空ひとつ燈りに蛾霽れたり

更けてよし河鹿時雨と申すべし

闇しろく河鹿途絶えしひと間時

句座に時聞くべからずも蛾の更けて

    第三句座 
      「各人深題」
水郷や夏暁つばめの高く濃し


夏ひたと水にたかぶり志摩の国

日ざかりの水面やぶれて海女の浮く

梅雨霽れの島は赫つち海女戻る

志摩はあが土日向葵さきて海女の家

    第四句座  
      「夏暁矚目」  夏暁が白々と谿より浸透
明易く天井の蛾の動かずに

夏山の暁くる巒気に人の顔

一睡もせずに青葉に朝あけて

夏あけの谿むかひ家の干衣哉