早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年五月 第二十五巻五号 近詠 俳句

2022-01-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年五月 第二十五巻五号 近詠 俳句

   近詠
あかつきや天長節の松緑

   靖国神社臨時合祀祭遥拜
黙禱す春雲いつとむらさきに

佐保姫や野のふかければ霞山

春愁のわれともなくて湖畔の夜

   京都
菜花來て御室の花に早かりし

仁和寺をわきみちへ出て古すゝき

鷹ヶ峰へ往けるこの路木瓜朱かし

京の花にあちこちとして夜を祇園

   笠置山
鶸群れて櫻間はろか木津の水

花の雨霞まじりに肩打てり

雷晴れて雨滴花より高きより

   河内平尾山にて
笹枯れに蝶のいきして春まひる

春蝉のやむ時人語あらはるゝ

野の蝿になぶられてゐてあたゝかに

蕨狩水ほとりより採りのぼる

ぜんまいや碧玉を巻きほどけたる

   菅生天神社
若草の底をいろいろ蟲せはし

雲も山も南走りに春閑か

つばくろの高きひとつに野山かな

さくら實となれる下枝に眉よせぬ

里の名の菅生の名残遅日かな

春晝や屋上園に街ごころ

永き日や大工たのまむ書架のこと

野をゆけば野に倒れむとす春ねむし

書けてきて春夜更けゆく我世なれ

松押して椅子の空やみどり摘む

   春の雪
なみの音を春降る雪の中に聴く

春雪や庭いつぱいの小さき池

茶店にて腹ぬくもりぬ春の雪

   節分
節分や何か植ゑたき土を見る

節分や家人揃ふて宵の燈に

節分や雲と明るく芹の水

   夜學
夜學すや窓は崖にて苔匂ふ

降る雨に山にぎはしき夜學かな

人來ねば夜學すゝみて淋しけれ

夜學子の來ぬなり老師ひとり讀む

露けさに燈もぬるゝ夜學哉

   途麓抄 第一夜
すみれ野やしばらく潜る松の下

厄神の繁昌に棲み春の村

春まつり夜に備へて篝あり

春まつり花の頂上仰ぎつゝ

水ぬるみしきりに海の帆を入るゝ

春の闇神の燈りへぬけて行く

岸柳や蛤舟の來ては著く

亜字蘭や人出でゝ吊る雲雀籠

   途麓抄 第二夜
花すぎていよいよ山の日和かな

花すぎの雲あり遠し道ゆくて

花過ぎの簀の子の風に吹かれけり

柳絮や湖邊乘りゆく人力車

木の實植うとけふの日記の冒頭に

木の實植ゑて在る礎を尊みつ

木の實植う垣外の老いのいふまゝに

   早春社四月本句會
    従軍直原放青氏凱旋歓迎
仲春の日のゆらゆらと壺の水

仲春や夜は更け更けて窓の外