KADOKAWA発の文芸情報サイト「カドブン」で、
自閉症の作家・東田直樹さんのエッセイ(毎週水曜更新)
「東田直樹の絆創膏日記」
第17回 個人旅行っぽい毎日 が掲載されました。
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2018年3月1日(木)
3月に入り、急に暖かくなった。僕は、春という季節には、あまりいい記憶がない。
僕が環境の変化に対応するのが、苦手だからだと思う。
新年度が始まると、団体旅行で一人ぽつんと旅先に取り残されたような気分になる。悲しくて寂しい、二度とこの場所から家に帰れなくなるのではないか、と心配する気分に似ている。心配がつのると、だんだんと恐怖を感じ、僕の体は焦り始める。自分が知っている目印を探さなければいけない、そんな気分になる。
あった、遠くに知っているマークを見つけた、僕は駆け出す。
目の前に立ち、マークを確認する。これだ、これだ、間違いない。僕はマークを手でなぞり満足する。それが終わると、あれっ、ここはどこかなと、また思う。おかしいぞ、おかしいぞ、僕の体が揺れ始める。止まらない、止まらない、止まらない。この揺れは、地面の振動に違いない、いつ止まるのだろう。困っていると、誰かが僕の手を引っ張る。何だろう、この人は誰だろう。僕は、その人の腕を見る。みんなの所に行きたいのに、知らない人に連れて行かれる。「助けて!」その人の手を振り払い、逃げる僕。
ハァハァ、今日はやけに暑い。桜が見える。そういえば、前にも、こんなことがあったような気がする。あれは、いつのことだったのだろう。
学校に行ったはずなのに、気が付けば、僕は家にいるのである。
こんな混乱を繰り返しながら、徐々に自分の脳と体が現実になじんで来るのが、毎年の春の過ごし方であった。
大人になった僕が、環境の変化に戸惑うことはなくなった。それは、みんなと同じことを要求される団体旅行みたいな日常は無理だと悟り、自分のペースで動ける個人旅行っぽい毎日に切り替えたからだと思う。
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【個人旅行っぽい毎日】とは、良い表現だな~と思います。
普段の生活では、つい周りを見回し、他の人々の動向が気になる私ですが、
自由気ままな1人旅~と思えば、あまり思い悩む事は無いかもしれません。
勿論、個人旅行ならではの責任は生じますが、
自己責任だと思えば後悔の度合いも軽減される筈です。
人の目ばかりを気にせずに、私も自分らしく生きなきゃね、と思ったのでした。