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毎月最終日はその月を振り返る。
あっという間の1か月だった。
当然ながらいろいろなことがあった。
ひとつ分かったのは、絶対に分かり合えない存在がこの世にはあるということだ。
新しい環境に移って本格的なスタートを切り日々少しでも早く慣れるように努力を重ねてきた。
ひと月も経てば毎日の流れ、週単位での流れくらいはつかめてきて、完璧とは当然いかないまでも流れに乗った動きはできるようになってきた。
目の前のことをこなすだけで精一杯の段階から、自分なりにスピード感を出すためのアイデアも加えつつ、また荷造りにおいては見た目も考えてできるようにしてきた。
毎日の積み重ねが少しずつ形になってきて、今週に入ってからは元請けさんからモノをお願いされることも増えたし、役付きの方々も皆気さくで、たまにはくだけたコミュニケーションも取れるようになって現場での居心地は上がってきたように思う。
ところが、そんな私の姿がどうしても気に食わない人物がひとりいて、私のやることなすことはすべて否定される。
行動の目的が否定だから、当然ながら些細なミスでも鬼の首でも取ったように騒ぎ立てる。
話しかけてくるとしたら指摘や注意や攻撃の時だけという面倒くさいを絵に描いたような人物である。
私が入ってからその態度は見事に一貫していて、できるようになったことに全く触れない一方、できなかったり違っていたりには猛然と突っかかってくる。
私も長年人間をやっているから分かるが、せっかく入ってきた人間にわざわざ敵意のみで接するのは、当人の能力が低く自信もないからである。
社内政治を駆使して当人にパワハラを浴びせていた人物を追い出すことができたので、当人にとっては願ってもない文字通り「俺の現場」が実現したが残念ながらそれは「どうにでもできる」ことと同義ではなくどうやら当人はそこを勘違いしている。
邪魔者を追い出してまで自らのものにした現場だから自分が中心となってやらなければ、と意気込むのは分かるが、100%自分の思うような管理などできるわけがない。
経験時間のわずかな違いでもって、まるで馬や犬を調教するかのごとく「とにもかくにも俺様はお前より偉いのだ」という部分を何としてでも分からせようとしてくるが、そんな調子で来られれば受け止める側は少なくとも心を開いて接することは難しいし、何も分からないうちは自由を奪われたような感覚になり当人の顔色を伺いながらの対処になってしまう。
俺の現場を自負するのは勝手だが、実際に現場を私や元請けさんなど誰の助けも借りずにひとりで回すことなど不可能であり、私をどれだけ否定したくても、私から何もかも取り上げて仕事を背負い込んでしまえば日付が変わっても仕事は終わらない。
週で最もあわただしい金曜の今日、結局その日の「大どころ」(個口の多い行先)のチェックや荷造りはほとんどが私がやり、当人は大して時間のかからない簡単な仕事に逃げ込んでしまっていた。
当人の意気込みとは裏腹に、この日の仕事の主要な部分を見事に、実質来てまだひと月という人間に持っていかれ、寒い2月というのに耳たぶまで真っ赤にしてイライラしている様子が見て取れた。
この人物以外のことは、例えば労働条件はよい部類だし、元請けさんは皆さん優しいしで、現場に出向くことはむしろ楽しみのほうが大きいくらいである。
しかし、たったひとり、たまたま同じ会社の、ややもすると正常性を欠いた人間との関係性のために、大変残念なことだがわずかな期間で本当は離れたくない現場を離れざるを得なくなるかもしれない。
正常ではない人間とはいえ経験時間は当人のほうが長いので不利なのはどう見てもこちらだからだ。
今後は先のことは考えず、もう来るなと言われる日まで一日一日誠実に勤め上げるのみである。
幸いにして会社の代表者には当人の「本当の姿」が伝わりつつあるし、私と元請けさんとのコミュニケーションは良好だ。
不利な状況には違いないが、限られた時間の中で「やめなきゃいけないのは本当はどっちなんだ」というところで勝負するしかない。
嫉妬心まみれで声だけは大きくて能力も低い、強い者にはゴマすりという取るに足らない人間のために自らの生活にリスクを招くことは本当ならばしたくないからである。