農業伊辻忠司さん(62)の自宅敷地内にある蔵の床下に、30年以上前から数万匹のハチが住み着いている。長年、頭の痛い存在となってきたが、昨秋、約20キロもの蜂蜜が採取でき、今や恵みをもたらしてくれる良き「家族」となっている。
春の穏やかな陽気となった先日の昼すぎ、伊辻さんが蔵の脇に生えるモチノキを見上げると、高さ5メートルほどの所にハチが大きな固まりになっているのを見つけた。早速、ミツバチの生態に詳しい京都学園大名誉教授の坂本文夫さん(化学生態学)に連絡。これが分蜂の始まりであると知らされ、観察を続けた。
1時間半ほどすると数千匹のハチが一斉に飛び立ち、10メートルほど離れた所に伊辻さんがあらかじめ設置しておいた手製の巣箱へ引っ越した。坂本さんの助言で分蜂したハチが巣箱に来るよう、そばにはニホンミツバチだけが好むラン「キンリョウヘン」を置いておいた。最初、ハチはランに群がったが、やがて次々と巣箱へ入っていった。伊辻さんは初めての分蜂を「すごい光景」と、食い入るように見つめ、今年の蜂蜜を早くも楽しみにしていた。
近年、アカリンダニの感染や蜜のある植物の不足などで、ニホンミツバチは減少傾向にある。坂本さんは「無数のハチが乱舞する様子を見て怖がる人が多いが、分蜂中のハチは満腹で人を刺す危険性はほとんどない。分蜂中のハチを見かけてもむやみに駆除しないでほしい」と話している。
【 2016年04月19日 11時20分 】