桑の木にキジバトが巣をかけたことを妻から聴いたのは、7月の初めごろだった。5mばかりの木の、地上2.5mあたりの枝分岐点に、小枝で造った巣があり、キジバトが抱卵していた。
元々は山に棲んでいたこの鳥、何故か人里、それも都市の住宅にまで進出して来たのには、どのような事情があったのだろう。この20年間の変化を具に見て、不思議でならない。
朝の6時過ぎ、遠くの林から聴こえてくるキジバトの鳴き声は、私には特別に心地よい目覚まし時計だった。それが散歩中にも姿を見かけることが多くなり、人をあまり警戒しない習性を知って親しみが強まった。遂にはスズメの餌台を頻繁に訪れるようになり、その挙句の庭木への営巣だから、(来るべきものが来た)と感じたのだった。
私の居住空間から5mと離れていないところで、キジバトが営巣したのは偶然では無いだろう。キジバトにすれば、苦慮の末の決断だったと推測する。
近年都会の郊外は、カラスとムクドリの繁殖が著しい。キジバトの大敵はカラスで、彼らが好んでとまる電柱から巣の所在を視認できない木陰の、しかもカラスが怖れる人間の傍近くに営巣することが、最も安全と踏んだに違いない。餌を与えていた経験で知ったことだが、キジバトはスズメよりも賢く学習能力が高い。
賢いことが、元の棲息域から都市郊外に移り棲むという発展を可能にしたのだろう。
8月になると、孵化した雛が巣から頭を覗かせるようになった。1羽か2羽か分からない。親鳥の餌の減り方から判断すると、1羽しか孵らなかったらしい。20日ごろに巣を見たら、幼鳥も親鳥の姿も無かった。無事育雛を終えてくれたと嬉んでいる。
その後の後始末が大変だ。
姿形も気質も愛らしいキジバトだが、ドバトを含め鳩類には看過できない危険があるという。ハトの糞にはクリプトコッカス症の原因となる真菌(カビ)が含まれているらしい。特にキジバトとは習性が異なり、多数が群れるドバト(市街地のビルや寺社・公園に集まる)の糞公害は深刻である。
乾燥した糞に含まれた菌が風で飛散し、人の呼吸器に入ることで感染するが、免疫力が健全な人が発症することは極く稀らしい。HIV患者はじめ体力・免疫力の低下した人たちが感染すると、髄膜炎など厄介な病気になることがあるらしい。人口10万人あたり0.2人から0.9人ぐらいの発病率だが、高齢者は注意するに越したことはない。
この糞中のカビは、土壌や樹木のウロの中で2年間も病原性を保つといわれている。したがって、糞に汚染された範囲は、消毒しておくことが望ましいと聞いた。後始末とは、巣の破壊と素材となった小枝や巣の周辺の枝や幹、そして土壌の消毒である。
3日ほど前にジョウロで消毒液をかけておいた巣を棒で突き壊し、巣の直下半径約1mの範囲の地面に消毒液をかけた。
小学生の頃、伝書鳩の飼育が流行ったことがあった。ひとりで何羽も飼っている同級生もいた。ハトの糞中に危険な真菌(カビ)が棲息することなど誰も知らなかった時代、子どもたちは無邪気に自分の秘蔵ハトを見せ合い、自慢しあっていたものだった。
数日前にスズメの餌台も撤去した。ハトが再び戻って来ることを防ぐためである。
残念ながら、野鳥と接するのは、レンズ越しが無難のようだ。凡ゆる知見が溢れるインターネット、疾病予防も、これまでに無く細密になるのは避けられない。
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