道々の枝折

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資本主義の本質

2024年02月23日 | 人文考察
資本主義とは、ストレートな表現が許されるなら、欲望主義の語が正鵠を射ていると思う。欲望主義という言葉ではあまりに露骨すぎるので、経済学は資本主義(capitalism)という穏当な言葉を編み出したのではないか。欲望主義なら、植民地主義が資本主義の申し子であることもすぐ理解できるのだが。

人類は生存の本能により、身内に具わる欲望を満たす為の行動と工夫を重ね、適応進化して来たと思われる。私たち人類の進歩の原動力が、欲望にあったことは疑いないだろう。
獲物や収穫物をより多く得たいという欲望が、狩猟や漁労の用具や農耕具の改良発達を促し、共同作業又は分業による効率化で、収穫量を増やすことを覚えたと推測できる。

穀物栽培と草食動物の家畜化に成功すると、財の所有即ち富の蓄積が可能になり、さらに貨幣という財の交換手段が加った時、資本主義は生まれた。
本能に由来する天然の欲望が、原始的な資本主義を生んだと考えて間違いなさそうだ。
人間は資本を自在に活用することで、欲望充足の手段の自由を獲得した。欲望を資本に転換することを覚えたのである。

富の所有は、略奪への不安が絶えない。富者=権力者は、富を守るために武力を蓄えざるを得なくなる。蓄えた武力は、防衛だけでなく時には内部の紛争の解決手段に、時には他の富者(権力者)の領域の侵略にも活用されるようになる。侵略(領域の拡大)は報復を招くから、富(権力)の増大は必然的に武力の増強を促進する。

貨幣による財の交換が活発化すると
、財の生産組織(農業と産業)のほかに貨幣の貯蓄と金融を担う組織(銀行)が登場し、財の管理・運用を飛躍的に発展させた。富の運用の利便性を与えられた資本主義は、一挙に発展膨張する。

人間に生まれつき具わる自己保存欲求に基づく、自主的な営為の結果成立したものが資本主義である。
人間の本性に適っていない社会主義や共産主義のように、個人の頭脳が理論を案出し構築したイデオロギーでないところに、大きな違いがある。本能から生まれたイデオロギーの生命力は強靭である。

人間の欲望を実現する上で、貨幣を用いてできないことはない。いつでもどこでも、貨幣さえあれば欲望を自由に充足できる。
為替の制度の発明が貨幣の輸送を削減し、信用の供与という概念が移動を伴わない多額の貨幣のやり取りを可能にした。貨幣を用いないで欲望を充足させる時代の到来である。人類はスマートに欲望を充足させる方法を手に入れたのである。資本主義は一皮も二皮も垢抜けた。

人間の欲望は飽和点に達することはない。したがって資本は際限なく増殖する。資本が資本を呼び、資本が資本を招く。
巨大化した資本によって欲望も更に巨大化する。近代の戦争は、成功した資本主義国家同士の覇権争いがその嚆矢濫觴だった言っても誤りではない。

資本の蓄積とは、人間の欲望実現性の極大化を目指すことである。
預金と土地と株式は、富の標準的な保存形態で、いつでもどこでも富を運用し欲望を充足できるよう最適に配分されている。

資本家が富の蓄積に貪婪な欲望家であることは、いつの時代でも変わらない。資本家というよりも資本そのものが貪婪なのである。
生来無欲な人でも、いったん資本を手にすると、欲望家に変身する。バリバリの左翼マルキストが資本家に成った途端、貪欲な資本家に変容した例は枚挙に遑ない。明らかに彼の人生のスタンスは、資本によって180度変えられたのである。

欲望は肥大するものだから、資本はひたすら増殖を希う。資本そのものが増殖を望み、資本家と資本の管理者に、それを実現するよう無言の命令を間断なく下しているのである。それを実行できない者や資本の増殖に失敗した者は、無能の烙印を押され、資本主義社会から排除される。

資本は人間の自主や自立と相容れない。自主・自立を願って営々辛苦し資本を蓄え、人への隷従を脱して自由を獲得したその先に、資本への隷従が待っているとは皮肉な結末である。
資本家が労働者を使役するように、資本は資本家と資本の管理者をも使役するのである。資本を運用している側が資本の意思に従わされるのは主客転倒というものである。
資本に潜在するエネルギーはそれほどに強力で、人の信条や信念をも変えてしまうほどの力をもっているようだ。
資本主義下の資本家たちは、資本の意思に従順であるほかはない。

資本の自己増殖の欲望は充足されることはなく膨らむ一方で、鎮静に向かうことはけっしてないだろう。
現代の発展した金融資本主義というものは、人為的な制御が及ばないものになりつつあるのではないか?近い将来、制御が効かない資本主義は何処へ向かうのだろう・・・世界をリードする幾つかの資本主義大国の政治的行き詰まりは、それぞれの国々が蓄積した資本の規模に関連しているように思えてならない。

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2024-02-25 08:12:21
お早うございます。
 極端な言い方で、同程度の権力・財力のあるもの同士で、争いが起きることもあるでしょうが、個々の人の心の奥底までは、知ることはできないし、奪うことができないのではないでしょうか?思いやり、愛する心は、時として奪うことは、なかなか困難なことのように思うのです。コメントさせて頂きまして有難うございます。 K.M
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Unknown (tekedon638)
2024-02-25 09:04:37
K.M様

コメント有難うございます。
おっしゃるとおりです。
思いやり、愛する心が大切です。
大切なことを承知しているのですが、
感情に引き摺られてしまいます。
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