小さな栗の木の下で

保護犬のミニチュア・ダックスを引き取り、
小型犬との暮らしは初めて!という生活の中で、感じたことを徒然に…。

『チリンのすず』

2013-12-19 | 

 注文してあった、やなせたかしさん作・絵の『チリンのすず』がようやく届いた。あらすじは知っていたけれど、実際に見たことはなかったのだ。『チリンのすず』は『やさしいライオン』とともに、やなせさんの不朽の名作だと思う。

 やなせさんといのせさん、似ているけれど全く違う。やなせさんは慈愛とかなしみを追究した偉大な作家だけど、いのせさんは金に目がくらんで慾に負けた情けない作家だ。

 あっ、そんなことはどうでもいい。東京地検特捜部が捜査するのであるから、その行方を見守るしかない。都知事選もやきもきするけれど、私は都民じゃないので投票できないし。

 さて『やさしいライオン』の初版は1975年。2013年4月発行版で第68刷目というロングセラーの絵本だ。みなしごのライオン・ブルブルとブルブルを育てたやさしい犬のお母さんムクムクのお話。最後にはサーカスを抜け出したブルブルが、年老いたムクムクのところに駆け付けたところを警官隊に銃で打たれてしまう。

                   

「ブルブルはムクムクを しっかりとむねにだいて たおれていました。」

 このシーンで落涙です。かなしいのだけれど、でも「そのよるのこと としよりのいぬをせなかにのせたライオンが とんでいくのをみたというひとが なんにんもいました。」という最後のページで、2人(2頭)はもうずっと一緒にいられるんだなあという安らぎが残る。

 一方『やさしいライオン』の発行から3年後の1978年に初版が発行された『チリンのすず』は、さらに生きるかなしみに迫っていて、ものすごく深い物語だと思う。

                   

 狼のウォーにおかあさんを殺された子羊のチリンは、強い狼になりたいとウォーに弟子入りするのだけど、そのとき嫌われ者のウォーは初めて慕われて心が温かくなったりする。もちろんチリンはウォーに復讐するために強くなりたかったのだけど。

 ウォーと行動をともにしてチリンはたくましい獣になっていき、最終的にはウォーに復讐する。チリンの突いた角によって倒れたウォーは逝く前に「いつかこういう日がくることを覚悟していた。お前にやられてよかった。おれは喜んでいる」というようなことを言うのだ。そんなことをウォーに言わせてしまうのだ、やなせさんは!

 すると、せっかく仇を討ったのに、チリンはウォーが自分の先生であり、お父さんのような存在だったこと、そしていつの間にかウォーのことを好きになっていたことに気づいて嘆きかなしむのです。子ども向けの絵本とは思えない心模様の描き方……、脱帽。

 チリンは「もうひつじにはもどれない」とつぶやいて、泣きながらどこへともなく山を越えて行きます。最後は、嵐の夜には風にまじってチリンの首についている鈴の音がかすかに聞こえることがあるけれど「でも チリンのすがたをみたものは だれひとりとしてありません」という言葉で終わる。この締めに胸が押しつぶされそうになる。子羊のときのチリンの絵が愛らしいから、余計にかなしみが深くなっていく。

 『チリンのすず』は2011年5月版で第25刷と『やさしいライオン』ほど版は重ねていないけれど、こちらも傑作だと思う。

 日本ホリスティック医学協会の会長である帯津良一先生は「20数年前に心理療法を始めてから、人間の本性はかなしみであるということに気がついた」とおっしゃっていた。帯津先生によれば「生きるかなしみには人を癒す力がある」と言ったのは、『東京漂流』『メメント・モリ』など数多くの著作で知られる写真家にして作家の藤原新也さんだそうだ。

 「生き年生けるものが胸に抱いている生きるかなしみ、これには己のこころを犠牲にした他者への限りない思いが含まれている。だから、かなしみは人を癒す力を持っている」と。そして帯津先生は「人が生まれながらにして持っているかなしみ、これが自然治癒力だ」とおっしゃった。

 人が生まれながらにして持っているのだから、幼い子でもかなしみが分かり、感じるのだ。やなせさんは「人間の本性はかなしみである」ということにとっくに気づいていて、それが生きる力につながるということにも気づいていたのだなあと改めて思った。

コメント
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