人間界では 一人 劇を鑑賞する白浅
そんな白浅に 知り合いができる。
白浅を神仙と見破って おひねり代を貸して欲しいと
言って近づいてきた 織越という女仙。
いちいち白浅の事を詮索する事がなかったので
白浅も 気軽な劇鑑賞仲間として受け入れていった。
織越は劇の合間によく 自分の遠い親戚にあたる従兄の
話しをした。 英明神武 不世出の天才だったが
惜しいことに 若くして戦死した。
残された両親は 日々泣き暮らす事になり 可哀そうだ
と・・・
この数年 生死のことにあまりこだわらなくなっていた
白浅は この話しを聞いてもたいして可哀そうとは
思わなかった。
ちょうど この日 十月五日は 三年前 夜華が
白浅から離れていった日・・・
舞台では 「牡丹亭」が上演されていた。
織越は遅れてやってきて いつものように
隣に座った。 劇も中盤に差し掛かったころ
声をひそめて、「天縦の英才だったのに早死にして
しまった 遠い親戚の従兄の話しを覚えていますか?」
「三年前に死んで 一族は皆 彼の元神が灰になって
散り、遺体しか残されていないと思っていたので、
玄晶氷棺に入れて 海に沈めてしまった。ところが
昨日 数十万年来穏やかだった海が 突然荒れ始めて
水が激しく飛び跳ね、三十メートル以上の荒波をおこして
玄晶氷棺を 突き上げてしまったのよ。
海を荒れさせたのは 氷棺を守る周りの仙気だって
みんなが言っていた。おかしいと思うでしょう?
従兄の元神はすでに灰になって散っているのに
どうしてあんなに強い仙気に守られているんだろう?
わかる人が誰もいなくて・・
もしかしたら従兄は 実は死んでいないのかもしれない
と両親が言った。そうしたら 小阿離も毎日泣き暮らす
必要がないよね。」
瞬間 時が止まる・・・
「その海って 無妄海?貴女の従兄って 太子夜華?
九重天天君の孫の太子夜華?」
「・・・ど・・どうして知っているの?」
白浅は自分が何をしているかもわからず 気づいたら
雲を呼び、つまづきながらその上に乗って
空に舞い上がっていた。
しかし 頭が真っ白になっていて どうしても
南天門へ行く路を思い出せず、空の上を右往左往した。
不意に足が滑って雲から落ちそうになったが
幸い二本の腕に支えられた。
墨淵だった。「気を付けないと!うっかり雲から落ちる
ところだったぞ・・」
白浅は墨淵の手首を掴み 「夜華は?師父・・夜華は?」
「先に 涙を拭きなさい・・ちょうど 話すために
貴女を探していたのだ」
墨淵は言った。
夜華は父神の半分の神力を使って仙胎が作られていた。
その神力はずっと隠れて夜華に宿っていた。そして
神芝草を焼き払った時に戦った四頭の獣には 更に
父神の半分の神力が宿っていたのを殺すことによって
その神力をも手に入れていたが それは本人さえ
知らなかった事だったのだ。
父神の全部の神力を得た夜華が 東皇鐘と衝突した時に
元神が傷つき、昏睡に陥ってしまったが
皆は 死んだと思ったのだ。
無妄海は静養の聖地でもあり、玄晶氷棺は素晴らしい器だ
、そのためにたった三年で目を覚ます事ができたのだ。
「十七、夜華が帰って来た。目を覚ました途端、
貴女を探すために 青丘に飛んで行った。貴女も
早く帰りなさい」
・・白浅は青丘に向かった・・うっかり雲から四回も落ちた。