鳳九は目を覚ました時 軍営の帝君のテントに
いる事に気付いた。
頭が混乱している・・・しばらく寝転んだままで
ようやく 昨夜はショキ神女の結婚に立ち会って
温源谷にいた事を思い出した。
天地に誓いを立てる二人を見ていたら 羨ましくて
少々 飲みすぎたようだ。
それから ショキ神女とおしゃべりをして・・・
それから それから・・ 帝君が 来た・・?
鳳九は身震いして パッと飛び上がった。
辺りを見回す。
ここは 帝君のテントだわ・・・でも・・・
白い蚊帳が青い蚊帳に変わっている。
照明も夜明珠ではなく、赤いロウソクがついている。
そして、部屋は絹のリボンで飾られている。
まるで 結婚式の時のような・・・?
鳳九は怪訝に思って 起き上がり、蚊帳を上げて
部屋をよく見てみようと思った。
丁度その時 蚊帳を上げて 帝君が顔を見せた。
鳳九は動きを止めた・・・
帝君は 鳳九の額に軽く触れて言う。
「起きた? 頭は まだ痛む?」
鳳九はぼんやりと 頭を横に振った。
帝君は彼女のこめかみをちょっと揉んで
「酔い止めの丹薬がきいたようだ」というと
屏風の後ろに行き 着替えたよう 衣擦れの音が
聞こえる。
鳳九は はっきりしない頭で 尋ねる
「ここでまた 結婚式を挙げるの?」
帝「うん」
鳳九「誰の 結婚式なの?」
帝「貴女の」
鳳九「私?・・・私と誰の?」
帝君が 屏風の後ろから出てきた。華服を身に
纏っている。 うつむいて 袖を直しながら
「私以外に 貴女は誰と結婚式を挙げるつもり?」
鳳九「わ・・私たちの?」心臓がバクバクする!
帝君は私の為に 結婚式をやりなおそうとしている。
そういえば昨夜 温源谷に帝君がやって来た時
自分がショキに話していた事・・・帝君はきっと
自分が帝君に 結婚式を挙げる事を要求している
と思った?
鳳九は急いで釈明した。
「私 私は結婚式をやり直して欲しいと思っている
訳ではないの。彼女たちが羨ましいと言ったのは
ただ 言ってみただけの事なの」「私たちの結婚式
の事は 確かに貴方がいないのは遺憾に思ったけど
それは私が若いから・・・若い女の子だから 条理を
わきまえない事もあるのよ・・だけど私は貴方を
責めるつもりもないし、また大騒ぎして みんなに
迷惑をかけたくはないの。私はそれほどわがまま
じゃないわ!」
帝君は興奮している鳳九の横に座ると その手を
自分の手で包み込み、鳳九の心を鎮めた。
「貴女は条里をわきまえていないわけでも
わがままなわけでもない」「今回 結婚式の準備を
したのは 私が 貴女の為に式を挙げてあげたい
というだけなのだよ」
鳳九は 帝君にすり寄るのも忘れて呆然としていた。
目のふちが徐々に赤くなっていく。
「帝君・・・私・・嬉しいはずなのに どうして
涙が出るんだろう・・・」
アーモンド型の目に一杯涙がたまって帝君を見つめる。
笑顔でも 泣き顔でも清純で 生き生きとして 美しい・・
帝君は手を上げて 鳳九の涙を拭おうとしたが
鳳九は その手を取って 顔をすり寄せると
そっと唇を押し当てた。
彼は 彼女のなすまま 目の色を深くした。
彼女の気が済んで 顔をあげると
彼は優しく彼女に口づける。
すぐそばにある赤い提灯からバッと火花が散ったが
気にする者はいなかった。