枕上書 番外編より
小白姫とショキ神女は何処にいったのか?
従者はゴンゴンを探した。
そのゴンゴンは 庭で 凧揚げをしていた。
従者がやって来たのを見ると、慣れた手つきで
凧を片づけ 従者に 説明をした・・・
「こういう事だったの」「従者哥哥が行った後、
九九は、二回 ショキ神女と行き会ったのだけど、
ショキ神女が困った顔をしている と感じて、何か
心配事でもあるのか?と聞いてみたの。
ショキ神女は 本当に困っていたのよ」ゴンゴンの
表情は 同情心にあふれていた。
「彼女は 本当は好きな人がいて、碧海蒼霊に留まって
僕たち家族を壊すか 仲間に入りたいと 思っていない
って言ってた。だけど、彼女の好きな人は 良い家柄の
人ではないから 両親が気にいらず 二人の仲を無理矢理
裂いたから その事でひどく思い悩んでいるって。
それを聞いた九九は とっても驚いて 今どきの時代に
父君を好きにならない女性に会うのは 本当に珍しい。
尊敬に値する奇女子だと言って、だから、碧海蒼霊を
開けて ショキ神女を逃がして 彼女と好きな人と
駆け落ちを手助けしたの」
従者「ショキ神女の駆け落ちはわかるけど、なぜ
帝后までいなくなってしまったのか・・・?」
ゴン「ショキ神女が門を出たところで 一途に待って
くれていた好きな人と再会して、二人は抱き合って
大泣きして すぐに結婚する事に決めた。
だけど結婚するには 立会人が必要だから、
九九は心優しい人だから いっその事最後まで面倒
見ようと考えて 彼らと一緒に遠くまで逃げて
二人の結婚の立会人になるつもりなの!」
ゴンゴンは頭を振りながら 最後に 慣用句を使って
話をまとめた。
「本当に感動に値し、涙無しに語れない事だったよ」
従者は 最近のゴンゴンの文法の上達が著しいと思うも
褒める余裕はなかった。
それよりも 帝后がショキたちと 遠くに行ってしまった
という現実の方に震撼して 足の震えが止まらなくなった。
彼らの行き先を ゴンゴンに訪ねる事も忘れ 小仙童に
急ぎ 帝君に報告するよう指示して 自分は捜索に
飛び出して行った。
ゴンゴンは 凧を手に 呆然としていた。
「どうして 九九が何処にいるのかも 聞かないで
探しに行ったんだろう・・・?」
「きっと 九九が白止じいじの温源谷に行ったって
わかったんだろうな」
感嘆して言う「従者哥哥って 本当にすごいね!」
そして、再び 無邪気に凧揚げをし始めた。
従者はしかし、それほど すごく はなかった。
あてもなく二日間も探し回って、なお何の手がかり
もつかめなかった・・・
しかし、帝君が駆けつけると 鳳九が身につけている
帝君自身の半身で作った指輪の気を頼りに捜索し
ようやく 東荒の温源谷にたどり着いた。
見つけた時には 若き帝后は酔っぱらって新婚夫婦
の寝室内で騒いでいた。(中国には 結婚式の後、
新婚夫婦の寝室に友人たちが押し入って 夫婦をからかう
風習がある)
帝后は いかにも経験者というふうにもったいぶって
ショキの肩に手を置き 重々しい口調で言う。
「本当よ。寂しく思う事なんてないからね。結婚式に
祝福する親族がいなくてもどうってこと無い。少なくとも
新郎がいるじゃない!」「この世には もっと可哀そうな
花嫁もいるのよ。結婚式に新郎がいない!それに比べたら
貴女は 幸せな方なのよ」
ショキはかろうじて微笑み 口を開こうとしたが・・・
その顔が突然 真っ青になった。
鳳九はその顔を見て ???と思い ショキの目線を辿る。
そうして、身震いし、 再びショキに目線を戻す。
「だけど、その花嫁の夫君が この世界を救う為に
結婚式に参加出来なかったとしたら・・そ・・その
花嫁も決して可哀そうじゃない・・・な・・何と言っても
彼女は この世界を救う事ができる夫君に嫁ぐ事が
できたのだから!本当に幸運な事だと思う!」
そう言うと 鳳九はわざとらしく頭を抑え「ああ、頭が
クラクラする・・・眠いわ・・」と言って倒れていった。
それも、新婚夫婦のベッドに倒れるのは あまりにも失礼
と気遣って、冷たくてよごれた床にぱったり倒れ込んだが
身体が 床に着く前に 強靭な腕に抱き止められた。
鳳九は薄目を開けて こっそりと見る。真正面から
帝君が無表情で自分を見つめている・・・慌てて目を
つぶった。
ベッドに座ったショキは 顔面蒼白で帝君を見ていた。
容赦ない義兄のこととて、ショキを無理矢理 両親に
引き渡すのではないか、そう思うと 涙が溢れた。
新郎は 帝君と比べたらあまりにも力不足だった。
それでも ショキを連れ去るなら戦おうと ショキの
前に立ちはだかった。
帝君は鳳九を抱き上げると 二人を一瞥した。
「貴方たち・・・」
新婚夫婦は 強敵とにらみあうごとく 帝君と
相対していた。
帝君は淡々と言う
「小白に邪魔されて 初夜をむかえてないのでしょう?」
新婚夫婦は大いに戸惑いながらも 頷いた。
帝「うん、それなら時間を無駄にしないように。
春宵 一刻値千金 と言うからね」
春宵 一刻値千金 という言葉を帝君が言う・・・!
ショキは目を丸くした。彼の気がふれたのでは
なければ 自分の気がふれた?そうに違いない!
帝君は意に介さず 片腕で鳳九を抱き もう一方の手
で 小瓶を出して二人の前に差し出した。
「この丹薬は お二人に子宝が早く授かる手助けになる」
少し考え 新郎の肩をポンポンと叩き「本君をがっかり
させないように」
そう言うと鳳九を抱いて 寝室を出ていった。
二人は 顔を見合わせた。帝君をがっかりさせない
とは?いったいどういう事なのか・・・
どういう事なのかは、後に残っていた従者が説明をした。
「帝座は お二人の為に 丹薬まで用意したのだ。お二人は
一刻も早く閨を共にして子宝を授かり、既成事実を作れば
霊鶴尊者もお二人を引き裂く事はできない。そして
帝君を煩わす事もなくなる。結果、みんなが満足できる
ではないですか?」
夫婦はようやく全てを悟り 耳まで真っ赤になった。
浮世の世情には一切関心が無いという伝説を持つ
帝君の 違う一面を見たような 複雑な思いを抱き
ながら・・・