章尾山で行われている重要な作戦会議。
その会議場に いきなり女神仙が押入って来た。
会議中のメンバーは驚愕して 一斉にその神仙に
注目した。A上神の一人娘、A公主だ。
A公主は いわくつきの人物で 父 A上神は
かつて娘を墨淵に嫁がせようと試みたが
A公主は東華帝君しか眼中になく、惜しげもなく
その縁談を蹴った。A上神にしてみれば
権力のある者なら 誰でも良い、帝君も悪くない・・
しかし 五百年前 帝君は隠居して 九重天を去った。
思惑はこうして外れ、望みも潰えてしまった。
だが、今回この様なアクシデントにより、再び
帝君が戻って来た。会議に出席していたメンバー
は これはてっきりA上神の何かの策略か?と
勘ぐってしまった。
しかし、これはA上神にとっても全くの
アクシデントだった。「尊神たちは帝座と大事な
会議中なのだ!貴女が来るところではない!
直ぐに下がりなさい!」
A公主は堂々と「私の要件も大事な事です。
しかもこの事は 帝座の判断を仰ぐべき事!」
と言いつつ手を打ち鳴らした。
すると手を梱仙鎖で縛られた女仙が、二人の
大男に引っ立てられて皆の前に現れた。
その女神仙は まだ少女のようにみえた。
雪のように白く透き通る肌、 長く美しい黒髪に
真っ赤な衣装を纏い 誰もが息をのむほどの美しさ。
その場の誰もが 静まり返った。
帝君も手を止めてそちらを見た。
鳳九は ただただ恥ずかしい思いで一杯だった。
彼女の仙力は ビョウラクとの戦いでほとんど
失われ、回復していなかった。
彼女は 帝君を盗み見た。帝君は彼女の縛られた
両手を見ているようだった。
鳳九は帝君が 彼女の弱さにきっとがっかりした
に違いない と思って うなだれるしかなかった。
A公主は声高に報告した。
「この女は 帝君の寝殿前をうろついていました。
挙動不審だったので問いただしたところ、帝君の
側近の侍女だと言うのです。四海八荒の者なら、
帝君が 美しい侍女を身辺に置くなど
絶対にあり得ない事なのは 誰もが知っている。
B上神勢力が送り込んだスパイに間違いない。
そう思って この女を捉え 帝君に処罰して頂きたく
連れて参りました」
鳳九は顔を上げた。「側近の侍女と言うのは
少し言い過ぎたかもしれませんが、でも碧海蒼霊の
侍女と言うのは本当です」
後は帝君がそれに合わせてくれれば 皆を驚かす事なく
事が収まる。鳳九はそう思って 帝君を見た。
ところが・・まさかの態度を帝君が取るとは!
帝君は 眉をひそめ、「私の寝殿の前にいた?
そこで 何をしようとしていたのだ?」
A公主は憤怒の形相で「機密を探っていたので
しょう」と言った。
鳳九は慌てて首を横に降って「本当に違うわ!
私は侍女だから、帝君のお世話が私の仕事だから
・・・だから、荷物の整理をしようと思って・・」
A公主が嘲笑う「なら、どうして中に入らず外を
うろついていたの?」
鳳九「私・・・私は・・・鍵を持っていなくて💦」
A公主「側近の侍女で 荷物の整理を命じられたら
鍵を持っていないのはおかしいでしょう?」
二人のやり取りを見ていた帝君がようやく口を
出した。
「彼女が私の側近かどうか 二人で言い争うより
私に直接聞く方が確かだと思うが」
A公主は しばしその言葉を頭の中で反芻し、
「それでは、彼女は帝君の側近の侍女ですか?」
半ば疑わしそうに聞いた。
帝君は こめかみを揉んだ。「違う」
A公主「じゃあ やっぱりスパイなんだわ!」
すると、イライラとテーブルを叩き
帝「彼女は 私の妻だ」
鳳九は 帝君のあまりの率直な答えに固まった。
周りの神仙たちは呆けたように静まり返った。
帝君だけが冷静に「他に用がないなら 下がりなさい」
と二人に言った。
鳳九はおとなしく立ち去ろうと向きを変えた。
帝君は「小白 待って」というと 鍵の束を取り出し
更に 鳳九の手に巻かれた棍仙鎖を解くと
鍵を投げてよこした。
鳳九は呆然として「これは・・・?」
帝「私の荷物の整理をしに来たけど、鍵が
なかったのでしょう?」
鳳九「ああ、そうだった・・・」
鳳九の反応に 帝君は少し顔の表情をゆるめた。
帝「もうよい。下がりなさい。 それから、
今後は 適当な嘘を言わないように」
鳳九は 石になったかのような神仙たちを横目に
鍵束を持って下がって行った。
宮殿の敷居を跨ぐ時、イラついた帝君の声が
聞こえてきた。「なぜ まだここにいる!」
A公主の涙声が答えた。「帝君はいつ
結婚しました?なぜ私はきいたこともなかった
のでしょう?あの女仙のどこがいいって言うの」
帝「A上神!!」
その後、ガサゴソと音がして、そちらをコッソリ
見ると・・・
泣き叫ぶA公主が 仙婢たちに担ぎ出されて
行くところだった。
鳳九はこの件の後 帝君の寝殿に居を移した。そして
帝君が結婚した話は 瞬く間に四海八荒に広がった。