VOL2 わ・た・し流

おとぼけな私ですが 好きな本のことや 日常のなにげない事等 また 日々感じたことも書いていきます。

桃花徒然 その83

2023-01-03 22:21:12 | 永遠の桃花

枕上書 番外編より

 

その日の夜の事、鳳九がうとうとしながら

帝君の帰りを待っていると、誰かが忍びこんで

来た。侵入者は、驚いて悲鳴をあげようとした

鳳九の口を素早く手で塞ぎ「叫ばないで・・

夜這いに来たわけじゃない。私は帝后の噂を聞いて

  一目見たいと思ってやって来ただけ・・・」

 

鳳九は以前  折顔上神から聞いた事がある。洪荒と

遠古の時代、帝君は女性たちの憧れの的だった。

中でも  魔族の女性は奔放だったので 少しでも仙障が

甘いと 隙をついて夜這いにやって来た、と。

その話を聞いた時、好奇心に駆られた鳳九は

そんな光景を見てみたい  と思っていたが・・・

この女性は  自分を見に来たのね・・・と、ちょっと

複雑な気分になった。

その女性は  鳳九を頭のてっぺんから足先まで

よくよく観察して、「まあ・・絶世の美女ね・・

私の負けだわ」というと  一緒にベッドに座り

気楽におしゃべりをし始めた。

「帝君は  石から生まれた神仙だから、欲も情も

無いはず・・・私たち魔族の女性は何百年も

夜這いを仕掛けて来たけど、誰も成功した者は

いない。何故  貴女は妻になれたの?いったい

どうやって?」

鳳九は少し 女性から身を離して言った。

「私は  夜這いを仕掛けてないわ」

「あら、夜這いをしたとかしないとかじゃあなく

、私らは  帝君から全く相手にされなかったのに

貴女はなぜ娶ってもらえたのか  って事よ」

「単に  一夜を共にするのとは違って 妻になる

って  ものすごく難易度が高いじゃない?

貴女が  どうやってこれを成し遂げたのか

知りたくてたまらないわ」

鳳九は 考えた・・・何でかな・・・?自分でも

実は  分からないのだった。

帝君が自分を好きなら  理由などどうでもいい。

好いてくれている現実こそが大事だから。

それでも、その問いに答えを探してみた。

「そうね・・・私は  狐で、数百年 彼のペット

として一緒に暮らしたの。後に  その事を知った

帝君は少しばかり感動して  私を娶ってみる事に

したのかな・・」言いながら、それが本当のような

気になってきた。

「きっとそうよ。貴女も感動するでしょう?」

彼女は  そこには感動しなかった。

「つまり・・貴女は 数百年も狐の姿のまま帝君

の愛を求め続けて なお諦めなかった。その事で

帝君を感動させたと言うのね?

でも  数百年かけても彼と寝る事を 諦めずに

思い続けるなんて貴女ってすごい!

さすがに帝后になるだけの事はあるわね!」

 

鳳九は一瞬  何をどう言えば良いか分からなくなった。

口を抑えて  軽く咳払いをする。

「私たち神族は  寝るとか寝ないという事には

それほどこだわっていないわ。私たちは その人の心

を手に入れる事・・その人が自分の事を本心から

好いてくれるかどうか  を最も大事にしているの」

 

魔族の女性はあくまでも「寝る」にこだわって

鳳九を翻弄した・・・ついには息子の存在まで

「ウソ」じゃないか と 同情される始末。

「あ、貴女が悪いなんて思っていないわ。何と言っても

帝君は 石から生まれた仙だから」

鳳九は 自尊心を刺激され、カッとなった。

ついには 彼と寝たし、それなりに良かったわなどと

言ってしまった。

「それなり?それなりって  どういう意味?」

なおも食い下がる魔族。

と、そこにようやく帝君が帰って来た。

魔族の女性はパッと飛び上がると作り笑いで

「帝座、誤解しないで。私は隣山に住む者。ご近所

だから、帝后と話しをしたくて来ただけ。私、私、

私には 悪意などないわ」

帝君が一歩前に出るのを見て後ずさった。

「帝座は  絶対に女性には 手を上げないと

聞いたわ!」

帝「手を上げない。貴女は自分で出ていくのか

それとも私に放り出されたいか?」

女性は慌てて出ていった。

鳳九は気まずい思いでいっぱいだ。帝君は二人の

会話を聞いた?どこまで聞こえていたのかしら?

しかし・・・

沐浴を終えて 髪を拭きながら出てきた帝君。

「私も聞きたいのだが、それなりって

どういう事?」

 

鳳九は布団を整えていたところだった。ちょっと

よろめいて「聞かない方がいいと思う・・」

帝「つまり  良くないという事?」

鳳九、どもりながら「そ、そんなことないよ。あ、

あなたは 心配しないでいいよ」

恥ずかしくて  死んだふりしたい鳳九🤦‍♀️

心配だ、と言って なおも問い詰める帝君に

とても良いと答えると、帝「なら  どうして

彼女に とても良い と言わなかったのだ?」

鳳九「私は  こんなに素晴らしい貴方を手に入れ

て、たくさんの人の妬みをかってしまったのに

この上  あちらの方も素晴らしいって知られたら

どうなるでしょう?少し控えめにした方が良い

のでは、と思って」

帝君は  しばらく彼女を見つめてから「それもそうだ」

と言って口を閉ざした。

その後は無言のまま就寝したが、鳳九が寝入ると

帝君は彼女の寝顔を見て  悪戯っぽい笑みを浮かべた。

青年は 腕の中の少女を見つめ  彼女の額に

軽く口づけをした。

窓の外  中天には満月がかかり、清らかな月の光が

さしている。

白い光に照らされ ・・・

一服の絵のようなこの光景・・・