枕上書 番外編より
東華帝君率いる神族の軍営では 八荒を驚愕させた
「帝座には 皇后がいる」という話の現実、鳳九の
存在が明らかになった。
男兵士たちは驚いただけだったが、女兵士たちは
驚きとがっかり感に襲われたのだった。
鳳九は知る由もなかったが・・・
しかし、ここは今 膠着状態だから少し平穏に見える
だけで、危険なのは変わらない。滞在して3日後には
鳳九は碧海蒼霊へ帰らねばならなかった。
帝君とは 離れがたかったが もし今の状態に変化が
なければ、また一か月後に会いに来る約束をして
従者とゴンゴン 三人は戻って行った。
そうして・・・そこでまた厄介な問題が起きた。
碧海蒼霊に戻ってほぼ一週間が経った頃、お客様が
お見えになった。
帝君が不在でも碧海蒼霊に入る事ができる客という事
は つまり普通の身分ではない。
その客というのは 霊鶴一族の族長と その妻子だった。
従者から鳳九がきいたおおよその話によると
帝君は 天地の清気によって生まれた。従って、親は
いない。碧海蒼霊で生を受けたが 霊気は弱く 獣に
食われそうになっていた時、運よく取り掛かった
霊鶴夫妻に助けられた。夫妻は帝君を不憫に思い
自分たちの家に連れ帰って 衣食住の面倒をみたのだった。
帝君は 冷淡で 情愛には疎いものの 衣食住の面倒をみて
貰った恩義は自覚していた。その為 霊鶴夫妻に対しては
常に 尊敬の念を忘れず、霊鶴一族からの要求にも応じて
いた。
おおよその話を鳳九と一緒に聞いていたゴンゴンが
「霊鶴夫妻は 知鶴公主の両親でしょう?」と言った。
洪荒の歴史を学んでいた二人には周知の事実でも、
従者の時代には知鶴公主は生まれていなかったので
当然、従者は知らなかった。
そして、洪荒時代の史書には記されていなかったが
今の霊鶴夫妻には養女が一人いた。
おしとやかで静かな神女で名をショキという。
霊鶴夫妻には 思惑があった。
東華は冷淡で 浮世の事に関心がないけれど、彼の
才能は誰よりも卓越している。その優秀な遺伝子を
後世に残さねば もったいない。しかし、八荒の女性
誰一人 東華に近づく事ができない現状だ。
ショキは東華に一番近しい女性だし 性分も申し分ない。
良いタイミングを見計らって 自分達から縁談を
持ち掛けたら 彼も同意するはずだ。
そうすれば、霊鶴一族との絆は深くなり、自分たちが
羽化しても 一族に強力な後ろ盾ができる、というもの。
夫妻は この件は時間をかけて進めるつもりだった。
ところが、いきなり 帝君が后を娶ったという話が
耳に入ったので、慌てて碧海蒼霊にやって来た。
結婚を無効にして、こちらの縁談を進めて欲しいと
思ってやって来たが、東華はすでに幼い孤児ではなく
八荒の神王。夫妻はさすがに身勝手な要求を
あからさまにはできず、一通の手紙とショキを残して
用事を理由に碧海蒼霊を去っていった。
手紙の内容のおおよその話は・・「ショキは帝君を恋慕
しており、嫁ぎたいと強く願っている。帝座にはすでに
后がいると知ってはいるけれど、ショキは側妃として
白鳳九姫と共に 帝座にお仕えしたいと望んでいる。
聞いたところによれば、白鳳九姫は孤児であるとの事。
孤児であるなら 家柄にも縛られないので、側妃の件は
気になさらないはず。帝君におかれては、その昔の
自分たちの育ての恩を慮って頂きたく、ショキの
願い、自分たち夫婦の願いを叶えて頂きたい 云々・・」
従者は手紙を開けたわけではないが 長年の経験と
卓越した推理力によって 上記の内容を推し量り
正直な見解を鳳九に伝えた。
ゴンゴンは従者の丁寧な説明によって側妃とは
彼女も自分の母親になるという事だと知り、
興奮して怒り狂った。
しかし、鳳九は冷静に考えてゴンゴンを慰めて言った。
「慌てないで。貴方はまだ遠古時代の歴史を学んでいない
から知らないけど、正史にも野史にも 帝君にそのような
縁談があったとは 記録されていない。つまり この件は
実を結ばなかった ということよ」
ゴン「本当に?九九 嘘をついて 誤魔化している
わけじゃないよね?」
鳳九「うん、嘘はついていない。だって 知識は絶対に
人を騙したりしないからよ」
ショキ神女は こうして碧海蒼霊にとどまった。未婚の
若い女性が 理由なく碧海蒼霊に留まっているという
噂が広まっては少々まずい。しかし、従者の判断で
神女を追い出す事も出来ない。とりあえず 帝君の意向を
仰ぐしかない。というわけで 仕方なく従者は
霊鶴夫妻の手紙を帝君に届けに行った。
そして 帝君に手紙を確認してもらって戻ると・・・
ショキ神女は いなくなっていた。
何故か 鳳九もいなかった。