つれづれ日記

不動産鑑定士 佐藤栄一が仕事や生活で感じたことをつづります

調整率について

2011-11-01 22:41:17 | 不動産評価(専門)
今日、国税庁から「調整率」が発表されました。

今年の路線価等による相続土地等の評価に、東日本大震災の影響を織り込むための率ですが、第一印象としては、かなり強い下落率となっています。

たとえば、先ごろ発表された都道府県地価調査における郡山市の対前年平均下落率は▲7.1%、いわき市の対前年平均下落率は▲7.2%でした。

これに対して、今日発表された郡山市の調整率は85%(下落率にすると▲15%)、いわき市に至っては75%(下落率にすると▲25%)<更にいわき市の津波被害を受けた沿岸部では30%(下落率▲70%)>です。

都道府県地価調査における福島県内の最大の下落地点は、郡山市磐梯熱海の商業地で▲15%でしたから、いわき市は地価調査の最高下落地点を大きく上回る調整率を適用することになります。

調整率は、あくまで相続税・贈与税の課税のためのもので、納税者の不利にならないようにとの配慮だと思いますが、国税庁から出されている路線価が広く不動産取引に利用されていることから、調整率も不動産取引に影響を与える可能性が大いにあります。

具体的には、実際の価格下落がそれほどでもない地域で、買い希望者が調整率を持ち出し、「調整率が大幅な下落を示しているのだから安くしてくれ」と交渉の材料に利用する可能性があります。

その結果、調整率に影響された低価格の取引事例が頻出すれば、実際の取引水準自体が下がり、それが相場として固定されていく懸念があります。

調整率は1月時点の路線価を3月11日の大震災直後の価格に補正するための課税上の率で、一方、都道府県地価調査は7月時点の適正市場価格を示したものですから、制度趣旨や評価時点において明確な違いがあるのですが、この辺のアナウンスをしっかりしないと、不動産市場に混乱を生じさせる恐れがあります。

国税当局には「調整率」の性格について正確に広報することを望みたいですし、市場関係者には冷静に市場動向を把握するように期待したいところです。